正 夢 【2】




 ルルーシュはナナリーと共に己らを庇護してくれたアッシュフォード家が、トウキョウ租界に創立した学園の高等部に通い、生徒会に所属している。2年生になって、生徒会長となった3年生のミレイの任命により、現在は生徒会副会長の立場にある。
 アッシュフォードに庇護されてから、生きていることが皇室に分かることを避けるため、アッシュフォードの手配により戦後のどさくさに紛れて偽りのIDを作った。それがランペルージである。すなわちルルーシュ・ランペルージとナナリー・ランペルージ。
 アッシュフォード学園は基本全寮制の学園だが、ナナリーの目と足のこともあり、二人は特例でクラブハウス内に用意された居住棟で起居している。もちろん、その理由がナナリーにあるというのは表向きのことであって、実際には、元とつくとはいえ皇族である二人を寮住まいになどさせられないとのルーベンの配慮からである。加えて目の見えないナナリーのために、ルーベンは篠崎咲世子という名の名誉ブリタニア人をナナリーの世話役として手配した。
 けれどそこまでルルーシュたちを厚遇してくれるのはルーベンだからこそであり、ルーベンが亡くなり、その後を継ぐであろう彼の息子夫婦や他の一族の者たちが、ルルーシュたちに対してそれまで通りの対応をしてくれるかといえば甚だ疑問である。というよりも、ルルーシュはそれはないだろうと見越している。
 そうなった時、何よりも必要となるのは金である。ゆえにルルーシュは危険を承知の上で、親しい友人となったリヴァル・カルデモンドと共に、賭けチェスなどに手を出して金を稼いでいる。
 そしてそんなある日の賭けチェスの帰りのことだ。
 リヴァルの運転するバイクのサイドカーで本を読んでいた時、後ろからトラックが迫ってきた。クラクションを鳴らし、如何にも何かに追われていますというように慌てているような走りだった。リヴァルはバイクを右に左に寄せながら走っていたが、トラックの運転手がよほどヘタなのか、それとも焦り過ぎて余裕がないのか、しまいには工事中の道路に突っ込み、ぶつかって停止した。
 そんなトラックを物珍しげに見回す人々。そんな人々の姿に眉を顰めながら、ルルーシュはサイドカーから降りてトラックへと近寄っていった。
「おい、ルルーシュ」
「大丈夫だ」
 リヴァルの声に簡単にそう答えてトラックの運転席に声をかけてみるが、何も返ってこない。ルルーシュは荷台の外にある梯子をよじ登って、荷台の中に飛び降りた。そこに在ったのは、一つのポッドだった。
「なんだ、これ?」
 そう思った時、不意にルルーシュの脳裏に一つの女の声が聞こえた。
 ── 見つけた。
「何だ?」
 空耳かと思いながらも、それでも確かに聞こえたその声にルルーシュは辺りを見回した。けれどそこにあるのは己以外には丸いポッドが一つのみ。
 ややすると操縦席の方から一人の少女が荷台の方に姿を現して、ルルーシュは慌ててポッドの陰に姿を隠した。
 荷台の後ろの扉が開き、そこから飛び出していく1機のKMF。その一連の動きに、テログループの物だったのか、そう思っていると、急にトラックが動き出した。ルルーシュはよろめいて壁に躰をぶつけてしまった。
 ルルーシュは床に座り込み、トラックが停まるであろう時を待つことにした。走っているままのトラックの荷台で、今の自分には何もできないと半ば開き直りの心境である。だが、心の中では思い切り失敗したと舌打ちしていた。下手に関わるのではなかったと。けれどそう思いながらも無責任な野次馬にはなれない自分を、ルルーシュは知っている。
 やがてトラックは急停止した。
 そこで改めて、ルルーシュは確認するようにポッドを軽くノックでもするように叩いてみた。それで何が分かるというわけでもないとは思ったが、脳裏に響いてきた声がルルーシュにそうさせたのかもしれない。
 するとポッドが開き、光と共にそこにブリタニアの囚人に着せられる拘束服に身を包み、口までも拘束された少女の姿が浮かび上がった。ルルーシュは慌ててその少女を救い上げ、少女の拘束を解く。
 それとほぼ同時に、少女の瞳が開かれた。
 ライトグリーンの髪、人間(ひと)とは思えぬ琥珀色の瞳。明らかに初めて見る少女だったが、ルルーシュは何故か、どこかしら懐かしさに似た感情を覚えた。
「見つけた」
 少女が微笑みを浮かべながらルルーシュにそう告げる。その声は先刻ルルーシュの脳裏を(よぎ)った声と同じだった。
「君は一体……」
 誰なんだ、と思いながらも、何時までも此処にこうしているわけにはいかないと、荷台から降りることを優先した。少女が何者なのか、何故テログループはこのポッドを狙ったのか、疑問だらけだったが、とにかく此処を去るのが先決だとルルーシュは考えた。
 そして荷台から降りたルルーシュと少女の目の先に、一人のブリタニア軍人の歩兵が立っていた。



 ブリタニアと日本の戦争は圧倒的な戦力差から、僅か一ヵ月足らずで日本の敗戦に終わり、首相であったスザクの父である枢木ゲンブは、敗戦国の最高責任者として、ブリタニアの軍事裁判にかけられ、処刑となった。
 それを見届けた後、スザクは15までキョウト六家のうちの一家である枢木の本家で育ったが、このままではダメだ、ブリタニアを変えなければエリア11となった日本を変えること、取り返すことはもちろん、その支配から脱することすらできないと、ブリタニアを内から変えるために名誉ブリタニア人となり、一番認められやすいであろう軍に入隊した。
 名誉ブリタニア人など、純ブリタニア人から見れば所詮はナンバーズと同じ弱者、家畜同様の、利用して廃棄するだけの存在、自分たちとは異なる差別されてしかるべき存在であるということに変わりはないというのに、スザクはそうは思わず、出世の足がかり、少しでもブリタニアの内に入り込むための手段と考えていた。
 今のスザクには、子供の頃に見た夢の記憶はほとんど残っていなかった。残っていたなら、いくら名誉となっても所詮ナンバーズはナンバーズ、ましてや皇帝どころか、皇族ですらない身でブリタニアを内から変えることなどできはしないと理解していたであろうに。
 そして軍では歩兵として、名誉ブリタニア人だけで構成された部隊に配属された。上に逆らうことができないように、銃を持つことも禁止され、それで一体どのように敵── そのほとんどは反逆者たるテロリストたちだが── と対すればいいのかと思いながらも、それでもそれがブリタニアのルールなのだからと黙々と従っていた。幸い、スザクは武道に通じ、身体能力、動体視力には自信があった。それが唯一のといえば言えるのだが、スザクはそれがあるだけでも、敵の懐に入り込みさえすればなんとかなる、との確信のない自信を持っていた。
 そして起こったテロ行為。ブリタニアが開発した毒ガスをテログループに奪われたというのだ。
 それを発見して回収し、それを行ったテログループを殲滅するために、スザクの属する部隊は派遣され、個々に散らばっていった。
 そうしてスザクは毒ガスを奪い去ったトラックを見つけ出し、その荷台から降りてきた一人の少年と、それに続く一人の少女を発見した。
 すかさずスザクは少年に飛びかかっていった。
 弾き飛ばされた少年を、スザクは息を乱すこともなく見下ろし、その少年の傍らに立つ少女に目を向けた。
 そして気付いた。いや、思い出した。子供の頃に見た夢の記憶を。
 少年の名はルルーシュ。ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。かつて枢木神社の土蔵に妹のナナリーと共に住んでいた少年。少女はC.C.。記憶の中で、ルルーシュは彼女のことを共犯者、あるいは魔女、と呼んでいた。
 自分はどうするべきなのか。あの夢で見た記憶が真実ならば、この先彼は、ルルーシュはブリタニアに逆らう仮面のテロリスト、ゼロとなり、総督であるクロヴィスを殺し、やがて自分が忠誠を誓うであろう少女、今はまだブリタニア本国にいるだろうユーフェミアを殺す存在。けれど今の彼はまだ何もしていない。何もしていない者に対してどういう態度を取るべきか、彼は悩んだ。
 そうやってスザクが悩んでいるうちに、すでにスザクから発見したとの連絡を受けていた部隊の隊長やその部下たちがその場に姿を現した。





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