命の担い手 【4】




「アーニャ、何故シャルル皇帝のラウンズである君がルルーシュについているんだ!?」
「シャルル皇帝は私の記憶を弄った。ルル様はその記憶を戻してくれた」
「それだけのことで!?」
「ジノには分からない、記憶が途切れる恐怖は」
 戦闘が始まり、ルルーシュの陣営にモルドレッドの姿を確認したトリスタンを操るジノが、何とかアーニャを説得しようとするが、アーニャは攻撃を仕掛けながらも冷静に返した。
 モルドレッドのハドロン砲が火を吐く度に、攻撃してくる敵機の数が少なくなる。
 その一方で、ビスマルクにはジェレミアがサザーランド・ジークで対していた。
「この裏切り者が! 貴様の忠義は一体どこにある!?」
「我が忠義を捧げるはルルーシュ様お一人のみ! 何としても貴公を打ち取り、後顧の憂いを無くす!」
「貴様如きにナイト・オブ・ワンの私を墜とせるものか!」
 KGFであるサザーランド・ジークは神経電位接続による操縦方法のため、他のKMFなどと比べると圧倒的に機動力が増している。加えてその火力は、元になったサザーランドとは桁違いの圧倒的なものとなっている。ただどちらかといえば遠隔戦に向いており、ビスマルクの対接近戦用のギャラハットとは一線を画す仕様だが、どちらも引く様子を見せなかった。
 ビスマルクは左目のギアスを解放した。しかしビスマルクは知らなかった。ジェレミアがギア・スキャンセラーであり、ギアスが効かないということを。
「何、ギアスが効かない? 動きが読めない!?」
 その動揺に、一瞬の隙ができる。それを見逃すジェレミアではなかった。その一瞬に、ジェレミアは最大出力にしたハドロン砲をギャラハットに向ける。
「ば、馬鹿な、私が、敗れる、など……」
「ヴァルトシュタイン卿!」
「ヴァルトシュタイン卿がっ!?」
 中核をなしていたビスマルクの撃墜に、他のラウンズたちの間に動揺が走る。その動揺をついてサザーランド・ジークとモルドレッド、そしてその他のブリタニア正規軍の火力が一斉に襲いかかる。数の劣勢を技能で打ち破ろうとしてきたラウンズたちだったが、ビスマルクの撃墜を端緒に、次々と撃ち落されていった。
 その様子をスクリーンで見ていたルルーシュは一人呟いた。
「これで後顧の憂いなくシュナイゼルに対することができるな」



 ルルーシュは皇帝になったら実行しようと思っていることを、全て後回しにして、対シュナイゼルに打ち込んだ。
 ジェレミアが兵を選び、その兵たちが如何に隠密裏にカンボジアに潜入するか。全てはそれにかかっているといってもいい。しかし万一相手がKMFを用意していた場合のことを考えると、サザーランド・ジークやモルドレッドを付けないわけにはいかない。そうすると、必然的に敵に発見されやすくなる。そこに朗報が齎された。ステルス機能の開発完了である。
 ステルス機能を使用すれば、昼間であれば視認できるので意味はなくなるが、夜の闇に紛れればレーダー網にはかからずに敵に近付くことができる。完全にとはいかずとも、可能性は高くなる。
 ルルーシュは、早速、蜃気楼、サザーランド・ジークとモルドレッド、そして兵士たちを運ぶ飛行艇にステルス機能を付けて整備させた。
 そしてそれから僅か1週間後、当初は反対を受けたが、最終的にはルルーシュ自ら操る蜃気楼を先頭に、一同はカンボジアに向かった。今回はギアスは極力使わない、との約束の元にロロも同行を許された。
 深夜、トロモ機関に警報が鳴り響く。何者か分からぬ敵機の攻撃を受け、研究所の各所から火の手が上がり、爆発を繰り返す。
 その中でも一際大きな爆発音が響いた時、そこに、これがギネヴィアの言っていた天空要塞なのかと思われるものの残骸が姿を現した。そちこち壊れ穴が開いていても、その巨大さが分かる。一部、無事な部分にはブレイズ・ルミナス機能が働いていたのだろう。おそらく建造途中でまだ全てにその配備を終えていなかったがために、今回の攻撃が功を奏したというわけだ。
 こんなものが完成していたら、為す術はなかったかもしれないと思うと、つくづく先手必勝、攻撃は最大の防御、という言葉がルルーシュの頭を(よぎ)った。
 トロモ機関の中には第1次製造分のフレイヤ弾頭もあり、それをそのまま接収できたことは幸いだった。
 そしてそのトロモ機関の跡地には兵士の一部を残し、ルルーシュたちはシュナイゼルたちの隠れ家へと向かった。
 おそらく、すでにトロモ機関がやられたこと、天空要塞が破壊されたことも知られて警戒されているだろうが、ルルーシュたちはトロモ機関を壊滅させた余韻を駆ってシュナイゼルたちの元へと急いだ。
 トロモ機関攻撃の前に、念のために先に派遣しておいた兵たちの言葉では、トロモ機関の爆発炎上を知ったのか、電気が点いて慌てた様子は見受けられたが、その後の動きらしい動きはないという。
 ジェレミアを先頭にして、包囲網を狭めていく。すると、中から駆け出してくる者たちがいた。逃亡者だった。トロモ機関がやられたことを知り、勝ち目はないと逃げ出した者たち。その者たちを捕まえて聞くと、シュナイゼルたちはまだ隠れ家の中に籠っているということだった。そしてその中に、ルルーシュの妹のナナリーがいるという事実が齎された。
「ナナリーが? 第2次トウキョウ決戦のフレイヤ弾頭で死んだのではなかったのか?」
「ご、ご無事で生きていらっしゃいます。シュナイゼル殿下がお救いになっておられたのです。ただ、ナナリー様はシュナイゼル殿下らと共に、ルルーシュ陛下に敵対する道を選ばれました」
「……それがあなたの切り札ということか、シュナイゼル!」
 ルルーシュの顔が怒りに染まった。





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