命の担い手 【3】




 ブリタニア本国に入ったルルーシュたちは、レーダー網を掻い潜って帝都ペンドラゴンに辿り着くと、宮殿近くの森の中に蜃気楼をはじめとする3機を隠した。
 シャルルの死の公表と、ルルーシュの皇帝への就任を発表するために、まずは宮内省に入り込み、その長官に、皇族、貴族、臣下たちを宮殿に皇帝命令で招集させるためのギアスをかけた。これで数日前から姿を見せない皇帝の突然の招集に、驚きながらも皆こぞって集まるだろう。
 その後、近衛兵の目を避けながら本殿に入り込む。
 控えの間と、先触れを出す近衛にギアスをかけて、皇族諸氏が大広間に集まるのを待った。
「兄さん、大丈夫?」
 少しばかり青い顔をしているルルーシュに、ロロが気になって声をかけた。
「大丈夫、少し緊張しているだけだ」
「兄さんでも緊張することなんてあるんだね」
「俺だって人間だぞ。緊張することくらいあるさ」
 その遣り取りで少しばかり緊張も解れたのか、顔色もほぼ元に戻ったルルーシュだった。その間にも続々と大広間に人が集まり始める。
 やがて第1皇子オデュッセウスも入ってくると、近衛兵が先触れの声を出した。
「皇帝陛下御入来」
 その声に、ルルーシュを先頭にして、ジェレミア、ロロ、アーニャが段の高い玉座のあるところに姿を現す。途端に大広間の中がざわめき出した。ルルーシュが中央の玉座に腰かけ、ジェレミアたちがそれを取り囲むようにして立つ。
「私が第99代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」
 簡素な学生服と思しき服装に身を包んだルルーシュがそう告げると、大広間のざわめきは尚一層大きくなった。
「生きていたのですか?」
「ええ、地獄から舞い戻って参りましたよ、ギネヴィア異母姉上(あねうえ)
「ルルーシュ、良かったよ、生きていてくれて。ナナリーが生きて戻ったからもしかしたら君も、とは思っていたが」
 第1皇子のオデュッセウスが一歩前に出て告げる。
「だが、君が皇帝だなどとそんな冗談は……」
「そうですね。ではもっと分かりやすくお話しましょう。……我を認めよ」
 ルルーシュの最後の一言と共に、ルルーシュの両目はギアスの朱に染められ、朱の大きな鳥が大広間を舞う。途端に、大広間は「オールハイルルルーシュ」の声に一斉に染め上げられた。
 解散が告げられ、貴族や臣下たちが大広間を去って行く中、ルルーシュは玉座から降りてオデュッセウスに声をかけた。
「オデュッセウス異母兄上(あにうえ)
「何でしょうか、陛下」
「シュナイゼル異母兄上の姿が見当たりませんでしたが、何処にいらっしゃるか分かりますか?」
 元々シュナイゼルがいないのは承知の上だったが、誰か彼の居場所を知っている者はいないか、とりあえずオデュッセウスに尋ねてみた。
「シュナイゼルなら、たぶんカンボジアだろう」
「カンボジア?」
「そのことは、私よりもギネヴィアの方が詳しい」
 その答えに、今にも大広間を出ていこうとしているギネヴィアを大きな声で呼び止める。
「ギネヴィア異母姉上(あねうえ)!」
 呼ばれたギネヴィアは、急ぎ足でルルーシュの元に戻った。
「何か御用ですか?」
「シュナイゼル異母兄上はカンボジアにいると、今オデュッセウス異母兄上から聞きました。そしてギネヴィア異母姉上の方が詳しいことを知っていると」
「ああ、そのことですか。カンボジアには、トロモ機関というシュナイゼル自身が出資している軍備開発研究所があるのですよ」
「詳しい場所は分かりますか? それからそこで何を研究、あるいは製造しているのかも」
「巨大な天空要塞を造らせているらしいと、耳にしたことがあります。詳しい場所は……」
 ギアスにかかった者特有の、瞳に赤い縁取りを残したまま答えるギネヴィアに嘘はない。もしその回答が違っているとしたら、ギネヴィアの知識そのものが違っていた場合のみだ。
 答えを得たルルーシュは、オデュッセウスとギネヴィアに礼を言ってから下がらせた。
 玉座に戻ったルルーシュは、ジェレミアたちと内密の話に入る。
「場所は分かった。後は如何にスムーズに事を運び、シュナイゼルが造らせているという天空要塞を破壊するかだ。奴にはフレイヤ弾頭もある。二つが揃えばこちらから手を出すのは厳しくなる」
「至急選りすぐりの兵を選んでカンボジアに潜入させましょう。まずはトロモ機関の方を押さえた方が良いかと存じます」
「そうだな。その指揮はジェレミア、おまえに任せてよいか?」
「もちろんでございます」
「だがその前に、生き残っている父上たちのラウンズ共が、今の放送を見て襲ってくる可能性が高いか」
 シュナイゼルに対する方法に気を取られていたが、ルルーシュはふともう一つの懸念材料に思い当たった。
「それならジェレミアが兵士たちを選んで、作戦を立てている間に迎え打てばいい。私も戦える」
「そうだよ。カンボジアに向かわせる兵を選んで作戦を立てるのにも時間はかかる。その間にこちらを襲ってきてくれれば、同時に作戦を並行して行えるから無駄も無いよ」
「そうだな。ビスマルクたちのことだ、そう間をおかずにやってくるだろうから、ジェレミア、おまえの負担が増えるが、やれるか?」
「何の、ご心配はご無用にございます」
「ではその方向でいこう」
 そしてその翌日には、ルルーシュ皇帝就任の放送を見ていたビスマルクたち残りのラウンズたちが、一斉にペンドラゴン目がけて襲ってきた。
 迎え撃つのはジェレミアのサザーランド・ジークとアーニャのモルドレッド、そしてブリタニア正規軍。
 ロロも出撃したがったが、それはルルーシュが認めなかった。黒の騎士団から逃れる際、ギアスの使い過ぎでかなり心臓に負担がかかり、一時は生命も危うかったのだ。今ではもう普通に生活できるまでに戻ったとはいえ、戦闘になればまたギアスを使うかもしれず、ルルーシュとしてはそれで再びロロを命の危険に晒すわけにはいかなかった。





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