命の担い手 【2】




 ロロの勧めに従い、ルルーシュはCの世界を後にすべく歩き出した。先頭を行くのはもちろんC.C.だ。
 Cの世界を後にして遺跡の外に出た時、ルルーシュは一人足りないことに気付いた。
「C.C.、スザクは?」
「ああ、あの男ならCの世界に残してきた、邪魔だからな」
「邪魔って……」
「何時までもおまえを仇と狙い続けている男など、おまえがこれからやろうとしていることを考えれば邪魔者でしかあるまい。何、安心しろ、Cの世界では外の時間など関係ないから。一通り事が終えれば出してやるさ」
 何気なく告げるC.C.に、ロロは満足そうに笑った。
「そうだよ、兄さん。何時までも兄さんを責めているだけの人なんて邪魔なだけだよ、これからの事を考えたらいない方がいいに決まってる」
 ロロにもC.C.と同じように言われながらも、どこかしら遣る瀬なさ、心残りがあるルルーシュだったが、今は個人的なことに捕らわれている場合ではないと己を叱咤する。
 蜃気楼に戻ったルルーシュたちは、早速ジェレミアに携帯で連絡を取った。
 扇からゼロは死んだと聞かされ、それを信じられずにいたジェレミアは、ルルーシュの生存を喜び、これからすぐにそちらに向かいます、と言って通信を切った。
 ジェレミアが合流するまでの間、ルルーシュたちはこれからどうするかを話し合った。
 一つにはシャルルの死を公表し、ルルーシュが皇位に就くことでブリタニアを掌握して国を変革すること。おそらくそれにはギアスを使用せざるを得ないだろうと結論づけられた。
 二つ目はビスマルク・ヴァルトシュタインをはじめとする、生き延びているラウンズたちの処置。シャルルの死を公表すれば、主の仇とルルーシュを狙ってくるだろう。それを如何に迎え撃つか。ブリタニア軍を押さえても、一騎当千の(つわもの)であるラウンズたちを相手にそう簡単に勝利を得ることはできないだろう。
 三つ目は最大の問題であるシュナイゼルの存在。現在、シュナイゼルは本国にはいない。そしておそらくシャルルのしようとしていたことにも、その死にもすでに気が付いているだろう。そんなあの男のしようとすることは、大凡の見当はつく。フレイヤ弾頭を使い、その恐怖によって世界を支配し、シャルルが昨日という日で時間を止めようとしたように、あの男は今日という日で時間を止めようとするのだろう。だが人に必要なのは、明日という名の未来だ。方法としては、先手必勝、シュナイゼルが動く前にこちらから動くことかと考える。
 超合集国連合と、シュナイゼルの駒となり下がった黒の騎士団の問題もあるが、シュナイゼル自身を別にすれば他愛のない問題と言える。シュナイゼルの問題さえ片付けることができればどうとでもなる存在だとルルーシュは思った。
 そうこうしているうちに、サザーランド・ジークに乗ったジェレミアが神根島に到着した。
 コクピットから飛ぶようにして降りてきたジェレミアは、真っ直ぐにルルーシュの元へ駆け寄り膝を付いた。
「ルルーシュ様、ご無事で何よりでございました。扇から戦死との知らせを聞いた時は、一体どうしたものかと……」
 それ以上は言葉が続かないようだった。
「心配をかけたな、ジェレミア。とりあえず、皇帝の問題は片付いた。残る問題は多いが、おまえが来てくれただけでも心強い味方を得た気分だ」
「勿体ないお言葉にございます」
「ああ、それより」
 ふと思い出したようにルルーシュは遺跡の入口に目をやった。
「ジェレミア、あそこに倒れているアーニャにキャンセラーをかけてやってくれないか」
「アールストレイム卿にキャンセラーを?」
 一体また何故、という疑問がジェレミアに湧き上がる。それを見てとったルルーシュはそれは当然だろうと、事の次第を説明した。
「詳しいことを話すと長くなるから簡単に言うと、8年前、アリエスで母上が亡くなった時、行儀見習いでアリエスに上がっていたアーニャに、瀕死の状態の母上の精神だけが潜り込んだんだ。その母上の精神はもうCの世界で皇帝と共に消滅してしまったが、アーニャがギアスにかかった状態であるのは間違いない。そして、母の暗殺現場にいたというなら、おそらくは父の、シャルルによる記憶改竄も……。解いてやってくれ」
「畏まりました」
 疑問は残りながらも、ジェレミアは主であるルルーシュの言葉に従い、壊れた遺跡の入口に倒れているアーニャに近付いて一旦意識を取り戻させた。
「……ゴットバルト卿? 私、どうして……?」
「これから君にかけられたギアスを解く。それで君が途切れると言っていた記憶は戻るはずだ」
 ルルーシュを通して、アーニャが時々記憶が無くなるのだということをかつて聞いていたジェレミアは、アーニャにそう告げてキャンセラーを発動させた。
 逆ギアスの紋章がアーニャに向けて飛ぶ。その波動に包まれたアーニャの顔が見る見る変わってゆく。
「……わ、私は……」
「思い出したか? アールストレイム卿」
「私、アリエスでマリアンヌ様が殺されるところを見て……」
 ジェレミアが無事にキャンセラーをかけ終えたのを見たルルーシュたちは、アーニャに近付いた。
「思い出したのか、アーニャ?」
 そう声をかけたルルーシュを見るアーニャの瞳に涙が溢れ出てきた。
「ルル様……?」
「そうだよ、アーニャ」
 そう返されて、アーニャはそれまでの感情の起伏が浅かったアーニャと同一人物とは思えないほどに、ルルーシュに縋り付いて泣き始めた。
「ルル様、ルル様ぁ……」
 その様子に、ああ、この子もあの両親の犠牲者の一人だったのだとの思いを強くするルルーシュだった。



 その後、蜃気楼はジェレミアが黒の騎士団の旗艦である斑鳩から掠め取ってきたエナジーフィラーでエネルギーを補充し、ジェレミアのサザーランド・ジークと、そこにアーニャのモルドレッドも含めて3機で一路ブリタニアを目指した。





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