今、再びの 【8】




 枢木スザクの騎士叙任式はTVでも放映された。
「名誉とはいえ、イレブンが騎士とはなぁ」
「何か取り入りでもしたんじゃないのか?」
「しかも少佐だってぇ?」
 叙任式典会場にいる者たちも、中継に見いっている者たちも、それぞれに勝手な憶測、中にはスキャンダル的なことまでを並べ立てている。
 生徒会室で中継を見ていたメンバーのうち、ナナリーが口を開いた。
「お兄さま。ユーフェミア皇女殿下が騎士に任命した枢木スザクって、あの枢木スザクさんですよね?」
 他のメンバーは、ルルーシュのクラスメイトの名誉ブリタニア人、と受け取ったようだが、ナナリーの微妙な言葉のニュアンスからそうではないとルルーシュは察した。
 ナナリーは、あの枢木スザクは七年前の枢木スザクなのかと確認してきたのだ。
「ああ、そうだよ、ナナリー」
「ユーフェミア皇女殿下も人を見る目がありませんね。かつては私たちをブリキ野郎と呼んで、いきなりお兄さまに暴力をふるってきた乱暴者を騎士に任命するなんて」
「それだけ彼も変わったということだろう。何せ彼はもうイレブンではなく名誉ブリタニア人で、しかもたった今、皇族の選任騎士になったんだから」
「かつての日本最後の首相の息子でありながら、その日本人であることを簡単に捨てられるような、そんな単純な誇りの無い人だったんですね。最悪です」
 生徒会の他のメンバーは、次々と綴られるナナリーの言葉に目を白黒させていた。
 ルルーシュとナナリーがスザクとかつて面識があったらしいことはもちろんだが、問題は告げられているその内容だ。ヘタをすれば皇族侮辱罪になりかねない。そう思う一方で、昔のスザクは今の優しそうなスザクとは違って乱暴者だったのか、との認識の違いにも襲われていた。
「ナ、ナナちゃん、それ以上言ったら……」
 慌ててミレイが止めに入る。
「分かってます、此処だけの話です。ちなみに私たちがあの人に会ったのは七年も前、たった一度だけですから、かかわりがあるなんて思わないでくださいね」
 その言葉の裏には、そんなふうに思われるなんてとんでもない、と言っているのが見て取れて、皆、言葉もなく頷くだけだった。
「と、とりあえず、ナナちゃんが彼にあまりいい感情を持ってないのは分かったけど、学園としては、皇族の騎士になった彼を放っておくわけにもいかないので、ここはパーッといきたいのだけれど、いい、かしら?」
 最後の方は、ナナリーにお伺いを立てるように尋ねるミレイだった。
「構いませんよ。私はあの人を無視するだけですから」
 にっこり笑って告げるナナリーに、ルルーシュと同じクラスのリヴァルたちも、そういえばルルーシュもスザクを無視しまくってたよな、と思った。とても面識があったようには思えなかった。会ったのがたった一度だけなら、多分、スザク本人も忘れてるんだろうな、と頭の中で同じように考えていた。



「咲世子さん」
 その日の夜、夕食が終わった後で片付けをしていた咲世子に、ルルーシュが声をかけた。
「はい、何でございましょう、ルルーシュ様」
「他の皆には内緒で、近々神根島という処へ行く“足”をどうにかして欲しい。できるだろうか?」
「神根島、でございますね」
「ああ、できるだけ隠密に行きたい。行きだけでいいんだ、帰りは何とかなるから」
「畏まりました、手配致しますので、お日日(ひにち)が決まりましたら仰ってください」
 あまりにも簡単に頷かれたことに、ルルーシュは呆気にとられた。
「そんなに簡単にできることなのか?」
「お忘れでございますか、ルルーシュ様? 私は篠崎流の忍びですよ。ネットワークは全国にございます。そしてそれはブリタニアの支配下に落ちた今も生きております」
 その答えにルルーシュは思っていたことを口に乗せた。
「さ、咲世子さん、もしかして、あなたも記憶を……」
「はい、初めてルルーシュ様にお目にかかった時から、以前の、と言ってよろしいのでしょうか、記憶がございます」
 さすがは忍びだ、もしかしたらと思ってはいたけど、やっぱり持っていたんだと、それを微塵も感じさせなかった咲世子にルルーシュは脱帽した。



 学園のクラブハウス内にある大ホールで開かれた、枢木スザク騎士叙任祝賀会、と名されたそれは盛況だった。
 それまでイレブン、名誉ブリタニア人と差別していた者たちまでも参加していた。自分たちの学園から、クラスから、皇族の選任騎士が誕生したのだ、有頂天にもなろう、たとえそれがナンバーズだったとしても。とはいえ、純血派と呼ばれるような者たちまではさすがに参加していない。あからさまな否定はしていないが、所詮お飾りの副総督が選んだお飾りの騎士、と心の中ではそう蔑んでいる。
 祝賀会もたけなわ、ホールの扉が開いて、一人の白衣に似た白い衣装を身に纏った男性が入ってきた。その男性を見知っているミレイが慌てて駆け寄る。
「伯爵、一体どうしてこんな……」
 ミレイの後を追って駆け付けたのはスザクだった。
「ロイドさん、軍務ですか?」
「そう、お仕事増えちゃったねぇ」
「分かりました。じゃあ会長さん、申し訳ありませんけど、僕はこれで失礼します」
「お仕事じゃしょうがないもんね。気をつけて行ってきてね」
 祝賀会の主役はいなくなったが、その後も祝賀会自体は主役の不在に関係なく盛況に続いていた。お祭り好きらしいアッシュフォード学園の生徒たちだけのことはある。
 しかしそんな中で、スザクがホールを後にしたのを静かに見送った人物がいた。ルルーシュと咲世子である。
 翌日の夜、ルルーシュはC.C.と共に咲世子に教えられた場所に、誰にも知られることなく向かった。



 一夜明けて、昼過ぎにルルーシュとC.C.を乗せた漁船は神根島に着岸した。
 そのまま漁船には戻ってもらい、船から降りた二人は記憶を辿ってギアスの遺跡と思われる場所へ向かった。
 記憶通りならば、そこに初めて空を飛ぶ機能を備えた、それも二人乗りであるKMFガウェインがあるはずである。その代わり帝国宰相もその場にいるはずなのだが。
 ユーフェミアとその騎士となったスザクがいるかどうかは分からない。前回はその二人に、カレンとゼロ── ルルーシュ── も合わせて四人がこの島に跳ばされてきたのだが、そもそもそれはV.V.がルルーシュを狙ってやったことだと後になって分かっている。V.V.の現状が七年前と変わっていなければ、それは不可能なことであり、まして今回、ルルーシュは漁船によって自らC.C.と共にこの島に来ているのだ。ユーフェミアとスザクが来ている可能性はゼロではないが、限りなく低いだろうとルルーシュは思う。
 以前、突然地面が落ちた場所に辿りつくと、かつてと同じような光に包まれて、ルルーシュとC.C.は共に地面ごと下に落ちた。
「C.C.!」
 ルルーシュは叫ぶと傍にあったガウェインに飛び込み、C.C.もそれに続いた。何があるか、何があったか分かっているだけに対応は早い。操縦席に座ったC.C.はガウェインを起動し、追ってくるブリタニア人たちを無視してそのまま神根島を飛び立った。余計なことをする必要はないのだ。今回の目的はガウェインの奪取、それだけだったのだから。
 そうしてガウェインを無事奪取したルルーシュとC.C.は、夜になるのを待って学園に戻った。ちなみにガウェインは学園の縦横無尽に張り巡らされた地下の一角に隠した。
 この地下を造ったルーベンも、まさかブリタニアから奪った新型KMFの格納庫になるとは思ってもいなかっただろう。





【INDEX】 【BACK】 【NEXT】