今、再びの 【7】




 カワグチ湖改め、スワ湖になった親睦の小旅行。
 ナナリーも含め女性陣のパワフルさに押されながら、ルルーシュもそれなりに楽しんだ。それはもちろんテロの心配が無いからだ。
 その日の夕食の時に点けていたTVで、カワグチ湖でのテロリストによるホテルジャックと、人質の無事解放のニュースを聞いて、女性陣は皆、「こっちにしてよかったね、もしカワグチ湖にしていたら巻き込まれていたかもよ」などと言いあっていた。
 そんな中で、ニーナは一人ルルーシュを見、ルルーシュはそれにウィンクをして応えた。
 翌日、周囲の美術館を回ったり土産物を買ったりして、あまり遅くならないうちに彼らは帰途についた。
 そして明けて月曜日の放課後、リヴァルが生徒会室で皆から土産物を貰いながら何気に言った。
「ホントにルルーシュの言う通りカワグチ湖にしないで正解だったよな。皆の行った先がカワグチ湖だったら、心配でおちおちバイトもしてらんなかったすよ」
「ホントねぇ、さすがルルちゃん、と言うべきところかしら」
「ニュースのチェックは欠かしませんから」
 多少流し目で告げるミレイに、ルルーシュは軽く流して答えた。



 ルルーシュは部屋でカレンダーを見ていた。その横ではC.C.が相変わらずピザを食べている。
「どうした、ルルーシュ?」
「いや、明日はブリタニアによるナリタ連山の攻撃の日だったな、と思っただけだ」
「ああ、そうか。そういえばそれがきっかけで、藤堂がブリタニアに捕まったんだったな」
「そう。そして四聖剣が騎士団に藤堂を救い出すために共闘を求めてきた」
「この後の戦いで、前の時は黒の騎士団の存在が大きくなった。だが今回は違う。果たしてどう動いていくかな、色々と」
 ルルーシュはナリタ連山の戦いは、日本解放戦線の敗北で終わるのが見えていた。
 以前は黒の騎士団が新型KMF紅蓮を運用して行った作戦で、日本解放戦線、黒の騎士団、コーネリア率いるブリタニア軍の三つ巴になった。
 結果としてスザクの騎乗するランスロットのお蔭で、黒の騎士団は敗退を余儀なくされたが、今回はどうなるか。
 ただ少なくとも紅蓮を運用しての作戦が無いため、シャーリーの父親が亡くなることは防げるだろうとルルーシュは思う。そうすればシャーリーがギアスに翻弄されることも、おそらく、いずれ殺されることも無くなるだろうと。



 ナリタ連山での戦いから数日後の夜遅く、キョウトの桐原からルルーシュに電話が入った。
 それはナリタで捕縛され処刑されることとなった藤堂を救うために、四聖剣に知恵を貸してやって欲しいとのことだった。
 ブリタニアは、生き残った者たち── 四聖剣── が藤堂奪還を目指してくるものとみて、現行唯一の第7世代KMFであるランスロットを配備してくる可能性がある。それに対応する策を与えてやって欲しいというものだった。
 桐原は、ゼロ・レクイエム関係者を除けば、唯一ルルーシュが逆行した記憶を持っていることを知っている人間だ。桐原の屋敷に世話になっていた間に、前回、ブラック・リベリオンの後にゼロのことを唯一人己の胸に秘めて亡くなった人だっただけに、ルルーシュは桐原にだけは打ち明けていた。その当時は馬鹿げた話と受け止めていたようだが、今回のナリタの件で考えを変えたらしい。
 ルルーシュは、記憶の中にあるランスロットの動きを読んだ作戦を口頭で伝えた。
 その後、桐原はルルーシュに尋ねてきた。もう一度黒の騎士団とやらを創る気はないのかと。
「売られる人生はもう御免です。ですから申し訳ありませんが、黒の騎士団を創ることはありません。けれどブリタニアへの、あの皇帝への憎しみが無くなったわけじゃない。別の方法でいくだけです」
『そうか……』
「その作戦が上手くいけば、桐原さんも無事生き延びて、あの皇帝の最期を知ることができるかもしれませんよ」
 そう告げて、ルルーシュは喉の奥で笑った。
『ではそれを老いの楽しみとしようぞ。ああ、それからたまには連絡してきなさい。これでもそちたちのことを心配しておるのじゃから』
「ありがとうございます」
 桐原の、最後のまるで孫の身を案じるかのような言葉に礼を述べて電話を切るルルーシュだった。



 藤堂処刑の日、それは奇しくも、ユーフェミアがクロヴィス美術館での絵画コンクールの授与式に参加している日だった。
 ブリタニア軍部が藤堂の処刑執行人に、あえて彼のかつての弟子であった枢木スザクを当てたのには、それなりの思惑あってのことだ。ブリタニアの歴史に無い、初めて騎士ではないナンバーズ上がりの名誉がKMFのデヴァイサーを務める。その事実にスザクのブリタニアに対する忠誠に誤りはないのか、確かなものなのか、それを確認しようという意味合いもあってのことだ。
 そして藤堂の処刑目前、それは姿を現した。
 かつてと違い黒の騎士団の援護のない四聖剣のみであったが、桐原を間に挟んでルルーシュから授けられた作戦に従って行動する4機の日本製の新型KMF。
 スザクの騎乗するランスロットは数の不利にもかかわらず果敢に対応したが、動きを読まれ、スザク自身の動きはどうしても一拍遅れる。その間に藤堂は救い出され、無人だった5機目となる藤堂の専用KMFに乗り込まれ、遂にはそのKMFの持つ刀によって、コックピットの上部を切断される。
 五人ではここまで、応援が来たら対応しきれない、との藤堂の指示により、彼らはスモークを焚いて処刑場であるチョウフ基地を後に去っていった。
 クロヴィス美術館では大型スクリーンでその様子が映し出されていた。白いKMF── ランスロット── のデヴァイサーが名誉であり、藤堂たちの逃亡を見送ったことから、会場内にいるマスコミを中心とした多くの人々から、スザクを罵るような、責めるような言葉が発されていたが、その様子を見ていたユーフェミアは、先に行われた会見での躊躇いと沈黙が嘘のようにはっきりと告げた。
「先程の質問にお答えします。私が騎士となる方を決めたか、でしたね」
 ユーフェミアは、当初は応援の声を送っていたその場のブリタニア人たちの、デヴァイサーが名誉と分かった後の態度に、会見の場でひそひそと揶揄されていた自分を重ねたのかもしれない。
「私が騎士とするのはあそこにいる方、枢木准尉です」
 ユーフェミアの手が挙がり、ランスロットのコックピットが映っているスクリーンを示した。





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