今、再びの 【6】




 スザクが編入してきて数日後のこと、その日の放課後、ニーナがルルーシュに話しかけてきた。
「ルルーシュ君」
「何だい、二ーナ」
「相談したいことがあるの。時間、少しいい? できれば二人きりで」
 ニーナが二人きりで、と言った点にルルーシュは注視した。もしや逆行かと。
「いいよ。生徒会室に行こうか、今日は特に何もないはずだから、誰もいないと思うし」
「ありがとう」
 ルルーシュは軽い調子で引き受けて、二人してクラブハウス内の生徒会室に向かった。思った通り、そこには誰もいなかった。
「ああ、やっぱり誰もいなかったね。で、相談って?」
「……私……、ここ数日おかしな夢を見るの」
「夢?」
 ルルーシュは二ーナに椅子を勧め、自分もその向かい側に腰を降ろした。
「何処か知らない所で、副総督のユーフェミア様に助けられたり、そのユーフェミア様がテロリストに殺されたり……。それから、それ以上に恐ろしいことに、私が大量破壊兵器を作って大勢の人が死んでいくの。その後、ルルーシュ君がブリタニアの皇帝になって、大きな戦いがあって、それからルルーシュ君が、皆に“悪逆皇帝”って罵られながら、ユーフェミア様を殺したテロリストに殺されるの……」
「ニーナ……」
「ごめんなさい、おかしなこと言って。でも、こんなおかしな夢のこと、相談できる人もいなくて、だから夢の中に出てきたルルーシュ君なら、もしかしたら何か知ってるかもしれないって、そう、思って……」
「それは夢じゃないよ」
「夢じゃ、ない?」
 俯いて話していたニーナが、ルルーシュの言葉に顔を上げた。
「君が夢に見たそれらは、過去に一度あったことだ。俺たちはどういう神の悪戯か、もう一度人生をやり直している」
「じゃ、じゃあ、ルルーシュ君も……」
「俺の場合は物心付いた頃から記憶があった。それが逆行した記憶だと理解したのは、はっきりと自我を持った頃だったかな。でもほとんどの人はそんなことは知らない。俺が知っているので、君は四人目だ」
「じゃあ私、本当にあんな恐ろしい兵器を創ってしまったの? ルルーシュ君は……」
「たぶん、この記憶の逆行の中心にいるのが俺だと思う。俺が、以前、神に「明日が欲しい」と願ったからだと、そう考えている」
「私、どうしたらいいの?」
 自分が恐ろしい兵器を作ったのが事実だったのだと知って、ニーナは涙を浮かべながらルルーシュに問いかけた。
「これは神が与えてくれたチャンスだと思えばいい。少なくとも俺はそう思っている」
「チャンス?」
「そう、間違ってしまった人生をやり直すチャンス。俺は前の人生で数多くの失敗をした。だからそれを繰り返さないように人生をやり直している」
「人生のやり直し……」
 ニーナは自分に言い聞かせるようにルルーシュの言葉を復唱した。
「なら、私はもうあんな恐ろしい兵器を創らないようにすれば、いいの?」
「それも一つの選択だね。また同じ兵器を創るか創らないか、それを決めるのは君自身だ。君は自分の創り出した兵器の恐ろしさを知っている。だから、そこからどうするか。それは君の決めることだ」
「……何となくだけど、分かった。相談して良かった」
 ニーナは一安心したかのように大きく息を吐き出した。
「あ、ねえ、ルルーシュ君」
「まだ何か?」
「ルルーシュ君が皇帝になったって、ルルーシュ君て、実は皇族なの?」
 自分のことに関しては安心して、今度はルルーシュのことが気になったらしい。
「皆には内緒だよ。今の俺はルルーシュ・ランペルージっていう、唯の一般市民なんだから」
「うん。でも今度はルルーシュ君は皆から“悪逆皇帝”なんて言われて、テロリストに殺されたりしないよね?」
「そうならないように、常に過去の記憶と向かい合いながら選択しているよ」
「良かった。ルルーシュ君が“悪逆”だなんて、似合わないもの」
 軽い笑みを浮かべながら、ニーナは返した。
「記憶のことは皆には内緒だよ。さっきも言ったけど、知っているのは、俺が把握している限りでしかないけど、君を含めて四人しかいない。変にそんな話を持ち出したりしたら、おかしなことになってしまうかもしれないからね」
「うん、分かった、誰にも言わない」
 大きく頷いて、それからニーナは座っていた椅子から立ち上がった。
「ルルーシュ君、今日はありがとう。また何かあったら、相談にのってもらっていい?」
「もちろん構わないよ。ただし、その時はまた二人きりでね」
「ええ。じゃあ、今日はもう帰るね。ホントにありがとう」
「どう致しまして」
 ニーナは生徒会室を出ていった。
 後に残されたルルーシュは思う。
 ニーナの記憶が戻ったきっかけは、おそらくスザクだろうと。そして記憶の逆行が起こる人間は、おそらくゼロ・レクイエムに関した人間。問題は記憶を戻すきっかけだ。考えるに、スザクはそのきっかけを逃した。多分、子供だったあの出会いの時に。だからスザクと自分の運命は交わらない。
 あの計画を知っていた人間で、残っているのは、ロイド、セシル、咲世子。ロイドとセシルは接触のチャンス次第だろう。咲世子は、もしかしたらもう戻っていて、ただ口に出していないだけかもしれない。咲世子は忍びだ。表面の見えている部分だけが彼女ではない。



 それから暫くして、生徒会室で生徒会のメンバーが集まっている時にミレイが唐突に言い出した。
「生徒会の親睦を深めるために、来週末に小旅行をしたいと思いまーす」
「何をいきなり言い出すんですか?」
 シャーリーが尋ねた。
「だから親睦会よ。ね、ね、いいでしょ?」
「場所は何処です?」
 そう問うたのはルルーシュだ。
「カワグチ湖なんかいいかなーって思ってるんだけど」
「カワグチ湖は止めておいた方がいいですよ。確か来週の末といったら、サクラダイトに関する国際会議が開かれるはずです。何があるか分かりませんから」
「えーっ、じゃあ、何処ならいいの?」
「カワグチ湖の近くがいいなら、ヤマナカ湖辺りはどうですか? それとも、離れてスワ? あそこなら温泉もありますし」
「温泉もいいわねぇ。じゃあ、スワにしましょう。確か湖もあったわよね」
「ええ、ありますよ、スワ湖が」
「じゃあそれで手配するとして、行けない人、いるかな?」
「あ、俺、バイト入れちゃったんで」
 リヴァルが挙手して告げる。
「リヴァルは無理か。ルルちゃんは?」
「ナナリーが一緒でいいなら、いいですよ」
「ナナちゃんならもちろんOKよ。じゃあ、ルルちゃんはナナちゃんと一緒に参加で、シャーリーとニーナは大丈夫かな?」
「来週末なら大丈夫です」
「私も」
「じゃ、決定ね」
 これでいい、とルルーシュは思う。これで自分たち生徒会のメンバーが日本解放戦線の人質になることはない。そしてニーナがユーフェミアに傾倒するきっかけも防げる。
 ルルーシュは内心ではそう笑みを浮かべながら、表面では大きな溜息を吐く。
「男は俺一人か……」
「これだけの美女に囲まれて文句は言わない!」
「そうだぜ、ルルーシュ。俺もバイト入れてなきゃ、行けたのになぁ」
「お土産買ってきてあげるから、めげない、めげない」





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