今、再びの 【5】




 C.C.と合流した夜、ルルーシュは携帯を取り出して覚えている番号を押した。
 呼び出し2コールで相手が出た。
『はい』
「ジェレミア・ゴットバルト卿?」
 ルルーシュの声に電話の向こうの相手が息を呑んだのが分かった。相手が自分が誰かを理解したのも。
「今、大丈夫か?」
『はい、ルルーシュ様。今は自室におります、他に人はおりません』
「そうか。長い間連絡を取らずに済まなかった」
『いいえ、ご無事なのは分かっておりましたから。それでもこうしてお声を聞くことが叶い、嬉しく思います』
「ありがとう」
『勿体ないお言葉です。今回はゼロにはなられなかったのですね』
 ジェレミアの言葉に、クロヴィスを殺さなかったことを指して言われたのだとルルーシュは理解した。
「ああ、今回はゼロにはならないし黒の騎士団も創らない。その必要を認めないから。でもいい加減おまえには連絡を入れないとと思って、遅くなったが電話を入れさせてもらった」
『ありがとうございます』
「C.C.と今日合流した。次はまた暫く先になるが、特派の製作するKMFガウェインを狙う」
『ガウェイン、ですか?』
「ああ。あれは空を飛べるからな。ギアス嚮団を壊滅させるのに丁度いい」
『ではガウェインを手に入れたら、次の目的はギアス嚮団ということに?』
「必然的にそうなる。嚮団があるのは中華連邦だ、他に手はない」
『はい。ではそれまで私は如何ようにしておればよろしゅうございますか?』
「とりあえずは現状のまま。ガウェインを無事奪取したらまた連絡を入れる」
 ルルーシュのその言葉に、ジェレミアは一拍置いてから尋ねた。
『お傍に参ることはお許し願えませんか?』
「……今はまだ無理だ。だがいずれ時が来たら……」
『畏まりました。ではその日まで、鍛錬を欠かさずにお待ちしております』
「済まない」
 その言葉を最後にルルーシュは通話を切った。



 C.C.には何気なく伝えたが、ルルーシュには不安要素がある。それは誰が逆行の記憶を持っているか分からないということだ。
 自分、ジェレミア、そしてC.C.。現在確実なのはこの三人。他に誰が持っているのか。三人に共通するのは自分が思い出す中ではギアスとゼロ・レクイエム。
 ギアスと言うことでなら、スザク、カレン、コーネリア、シュナイゼル、そして皇帝が入ってくる。だが皇帝は何も動きを見せていない。スザクは子供の頃に出会っているが、思い出している気配はなかった。前に思ったように夢か何かで済ませている可能性も捨てきれないが。
 ゼロ・レクイエムなら、ニーナ、特派のロイドとセシル、そして咲世子も入る。ロイドとセシルは接触していないから何とも言えないが、ニーナや咲世子が入るなら、何も言ってこないのが気になる。
 あるいはただ単にきっかけがなくて思い出していないだけという可能性も否定はできないが。
 自分は多分生まれた時からあったのだと思う。ジェレミアはアリエス離宮への配置が決定された時だと言っていた。人それぞれに異なるきっかけがあるのかもしれない。ならば自分としては何も知らない振りをして、相手が接触してくるのを待つしかないのかもしれない。
 そこまで考えて、ルルーシュはそういえばカレンと会うのは明日だったか、と思った。病弱の令嬢を装うカレンは、始業式以来欠席していて、授業が始まってからは、記憶では明日初めて登校してくることになっている。その時、自分と出会った時に何か言ってくるかどうか、反応を待つことで記憶を持つ者を絞り込む可能性が出てくるかもしれないと思った。



 翌日登校してきたカレンは、ルルーシュを見ても何の反応もなかった。ギアスを知っているだけでは関係はないのか。それとも昨日の作戦に関与しなかったからか。
 次はスザクだな、とルルーシュは思った。子供の頃は夢で済ませていても、大人とまではいかないまでも大きくなって変わったかもしれない。しかし子供の頃の接触は結局最初の一回だけだったし、昨日も会うことなく終わっている。可能性を見極めるのはまだ無理か、とも思う。
 何時まで悩んでいても仕方ないと、時計を見たルルーシュはC.C.が食べ散らかしたピザの箱を片付けてから、翌日に備えて眠ることにした。



 それから10日程経ったある日、皇族── エリア11副総督ユーフェミア・リ・ブリタニア── の口利きにより、枢木スザクがアッシュフォード学園のルルーシュのクラスに編入してきた。
「なんでイレブンが」
「名誉ブリタニア人だろ」
「同じことさ」
「まさかテロリストなんてことないよな」
「それくらい学園側だって調べるだろ」
 クラスの中、休み時間になるとスザクを遠巻きにして皆ヒソヒソと話を始める。先日あったばかりのテロ行為に関連付けて、テロリストなんじゃないのかとまで口にする者もいた。
 イレブン嫌い、いや、恐怖症と言ってもいいニーナ・アインシュタインは、スザクの顔を見るだけで震えている。
 妹のナナリーの記憶の中では、スザクは枢木神社で最初の日に一回会っただけの、乱暴で意地悪な男の子だ。あるいはその後の戦後の混乱の中で、会ったことすら忘れているかもしれない。その程度の存在。
 そしてその肝心の枢木スザク自身が、逆行の記憶どころか、たった一回会っただけのブリタニアの兄妹を覚えていないという可能性も否定できない。
 結論として、ルルーシュは徹底的にスザクを無視する方向で動いた。逆行の記憶があるならば、いずれスザクの方から何がしかの行動をとって接触してくるだろうと判断したからだ。でなければ、名誉ブリタニア人であり、かつ軍人── しかもランスロットのデヴァイサー── であるスザクに必要以上に自分からかかわる必要はない。たとえスザクに逆行の記憶があったとしても、今回は違う。現にクロヴィスは生きていて、スザクはその殺害容疑者にはならなかったし、ゼロは存在せず、黒の騎士団も創らないのだから。
 結果として、その日、スザクがルルーシュに接触してくることはなかった。
 ルルーシュはふと思った。
 スザクが逆行の記憶を取り戻すきっかけは、あの枢木神社での出会いだったのかもしれない、あるいは新宿ゲットーでの、結果としては起こらなかった出会いだったのかもしれないと。いずれにしろ、現在の時点ではスザクとの運命が重なることはないのだと、ルルーシュはそう結論づけて教室を後にした。





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