今、再びの 【2】  ※「ブリタニア語」『日本語』ということで




 日本に送られた二人は、まずは車で東京駅に向かい、そこから新幹線で京都に向かった。
 新幹線の中で、ナナリーは素早く移り変わりゆく車窓の景色に目を輝かせていた。そんなナナリーにルルーシュが声をかける。
「ナナリー、この後どうなるか分からないから、あまりはしゃいでいては駄目だよ」
「はい、お兄さま」
 ナナリーは少しばかり不服そうではあるものの、兄の言うことに間違いはないので、大人しく窓から景色を眺めるに留めた。
 着いた後に待っているのが枢木神社の長い階段であることを思い出しているルルーシュは、げんなりとした雰囲気で俯いたまま溜息を吐いた。それでもナナリーを背負わないで済むだけマシというものだろうか、と思いつつ。
 ルルーシュが思い出していた通り、京都駅から車で連れられていかれた先は、枢木神社の長い階段の下だった。そこで横付けされた車から二人とも降ろされる。
「お二人のこの地でのこれからのお住まいは、この階段を上った枢木神社の中にあります」
 東京からずっと随行してきた一人の日本人が二人にそう告げる。
 ルルーシュとナナリーは、二人して手を繋いで階段を上り始めた。
 自分はまだしも、自分より幼いナナリーには階段の一段一段がその短い脚には辛そうで、普段は元気でやんちゃなナナリーが、階段の途中ですでに息を切らしていた。そんなナナリーに合わせながら、ルルーシュもゆっくりと階段を上っていく。
 階段を上りきった先、鳥居を潜って本殿の左手奥の裏側にそれは建っていた。
「今日からここがお二人のお住まいです。必要最低限の物は用意してあります」
 随行員の一人が、二人それぞれに僅かずつの荷物を手渡すと、二人を置いて自分たちの用事は済んだとばかりに神社を後にしていった。
 ナナリーがこれからの住まいだと言われた土蔵を見上げる。漆喰には皹も入っていた。
「古い建物なんですね」
「そうだね。とにかく中に入ってみよう」
 ルルーシュはそう言って、ナナリーの手を引いて土蔵の中に足を踏み入れた。
 人が住めるように掃除はしてあったし、確かに必要最低限の物は用意されていた。前回と同じように。
「あまり綺麗じゃありませんね」
 ナナリーがそう言うのに、ルルーシュは「そうだね」と溜息を吐きながら答えた。
 前回はナナリーの目が見えなかったために、綺麗に取り繕って説明してやれたのだったと思い出した。
 しかし今回はナナリーは目が見えている。何も隠すことができない。それが良いことなのか悪いことなのか、今はまだその結論は出せそうにない。
 そう思いながらも、綺麗なことだけを教えて真実から目を背けさせていた過去を思えば、やはり目が見えていることを、全てをその目に焼きつけることを、否定するものではないのかもしれないとも思う。世の中は綺麗な、美しいものばかりではないのだと教えるために。そして戦争の悲惨さを体験させるために。
『おまえらか、俺の秘密基地を奪ったのは!』
 ふいに聞こえてきた男の子供の声に、二人は声のした方を振り向いた。
 枢木スザク── 現日本首相枢木ゲンブの一人息子。
『俺の秘密基地から出ていきやがれ!』
 ナナリーを後ろに庇ったルルーシュを、スザクの持つ竹刀が打ち付ける。
「お兄さま!」
「大丈夫だよ、ナナリー」
「卑怯者! 何も持っていないお兄さまをそんな棒でぶつなんて!」
 何を言われたのかは分からなくても、自分が謗られたのは分かったらしい。スザクは顔を怒りで赤黒く染めながら怒鳴った。
『ここは日本だ! ブリキはとっとと出ていけ!!』
『坊っちゃま!』
 スザクを捜しに来たらしい召使いが、スザクの声を聞きつけて土蔵に入ってきた。
『坊っちゃま、此処は今日からこちらのお二人がお住まいになられます。坊っちゃまは決して近付かれぬようにとの、お父さまからのお言いつけです』
『けっ! おまえら、俺の前に二度と顔を見せんなよ! ブリキのガキが!』
 そう捨て台詞を吐くと、スザクは迎えにきた召使いと共に土蔵を出ていった。
「大丈夫ですか、お兄さま」
「大丈夫だよ、ちょっと当たっただけだから大したことはないよ」
「それにしても乱暴な人ですね、いきなり暴力を振るってくるなんて」
「ナナリー、危ないからあんな奴に近付いたりしちゃ駄目だよ」
「分かりました。でも、お兄さまもですよ」
「分かったよ」
 ナナリーのスザクへの最初の対応が違ったからだろうか。スザクの去り際の科白も、その後の自分たち兄妹の遣り取りも、前回とは違っていた。
 だがこれでいい。これで必要以上に自分たち兄妹がスザクと接することがなくて済む。ルルーシュはそう思った。





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