ジェレミアたちが本国へ向かって飛び立った頃、ギネヴィア率いる新たなブリタニア軍はエリア11に到着して布陣を引いた。
一方の黒の騎士団は、未だゼロがどうなっているのか確認が取れず、状況確認に手間取り、また、フレイヤの被害から未だに隊の編成をし終えていなかった。
黒の騎士団結成当初からの日本人幹部たちは、ゼロは死亡しブリタニアとは休戦したと言い張るが、その一方でオデュッセウスの放送があり、蜃気楼の奪取とその追跡があったことに加え、現にブリタニアは増援部隊を送ってきている。とても休戦状態とは言い難い。統制がとれないままに黒の騎士団は被害だけが増えていく。
頃合いを見計らって、ギネヴィアは黒の騎士団の旗艦である斑鳩に通信を繋げさせた。
「妾はギネヴィア。我が異母兄オデュッセウス陛下の命により、このエリア11の新たな総督に任ぜられた者じゃ。そなたたち、まだこれ以上、無駄な戦いを続けて犠牲者を増やすつもりかえ?」
『俺たちはシュナイゼル宰相と、休戦と日本返還の約束をした! そちらこそ引くべきだ!』
総司令である黎星刻を差し置いて扇が叫んだ。
「それは先に陛下が放送で告げたはずじゃ。全てはシュナイゼルの独断、本国は何も知らされていないと。つまり当人たち同士の口約束に過ぎず、国際法上、何の効力もない。加えて、そなたたちはあくまで超合集国連合の外部機関、単なる戦闘集団であって、そのような外交上の約束を取り交わすような輩ではない。妾たちが話し合うとすれば、その相手は超合集国連合の最高評議会とやらじゃ」
『話し合いの余地はあると、そう信じてよろしいのか?』
『星刻総司令、いまさら……』
『黙れ、扇事務総長! この場での上位者はCEOたるゼロ亡き今は総司令たるこの私だ、君ではない!』
「そちらが今一旦矛を収める気があるなら、話し合いの余地はある」
ギネヴィアのその言葉を聞いて、それまで黙っていた神楽耶が一歩前に出る。
『私は合衆国日本の代表にして、超合集国連合最高評議会議長の皇神楽耶です。最高評議会に諮る前に一度お話を伺いたく思いますが、受けていただけるでしょうか?』
「よろしい。では、政庁はご覧の通りの有り様ゆえ、フレイヤの被災民の救護所になっておるが、アッシュフォード学園のクラブハウスを借り受けよう。お互いに随員は二名まで。妾は妾の騎士を連れて参る。そなたも誰ぞ連れて参るがよい。時間は、今から1時間後に。よろしいかえ?」
『はい、それで結構です』
神楽耶のその言葉を最後に、通信画面は切れた。
「神楽耶様、何下手に出てるんです! 我々は間違いなく……」
「何度も同じことを言わせるではないわ! そもそも本隊たる、代表たる私に何の相談もなく、権限もないのに勝手に決めたのはどこの誰です!?」
怒気を帯びたその声に、扇は思わず一歩後ずさった。
「星刻総司令、お付き合いいただけますか?」
「それは構いませんが、あと一人は?」
「あなただけで。東京方面軍の幹部は連れていくわけには参りませんから」
「分かりました。香凛、私がいない間、天子様と後のことを頼む」
「はい、畏まりました。どうかお気を付けて」
「香凛殿、東京方面軍の、シュナイゼルと会談した面々にはとりあえず謹慎処分を」
「はい、神楽耶様」
「神楽耶様!!」
「勝手な振る舞いをしたのですからそのくらい当然でしょう!」
神楽耶の言葉を受けて、香凛は九州から合流した本隊の中華勢に、東京方面軍の幹部たちをそれぞれの個室に連れていかせ、謹慎処分として鍵をかけさせて見張りを立てた。
1時間後、ギネヴィアと神楽耶は、アッシュフォード学園クラブハウスの中にある生徒会室で向かい合っていた。
ギネヴィアが連れてきたのは、己の選任騎士とナイトオブシックスのアーニャ・アールストレイム。一方、神楽耶が連れてきたのは黎星刻ただ一人。
「随員は二名と申したに、そなたはその殿御お一人で良かったのかえ?」
「はい」
「そなたがそれで良いなら良しとしましょう」
部屋の中央のテーブルを挟んで、それぞれ空いている椅子に腰を降ろす。
「面倒な話は抜きじゃ。我が父、シャルル皇帝はすでに亡い。これからは我が異母兄上が皇帝としてブリタニアを治めてゆくことになる。異母兄上の方針は、対話と融和。無駄な争いをするを好まれぬ」
「では今までにブリタニアに征服された国々は、エリアはどうなります?」
「まだ国内でも内々での話じゃ、ましてや国外の者にそう簡単に話すわけにはゆかぬ。じゃが、そなたならよかろう。今すぐ、というわけにはもちろんゆかぬ。その点は理解してもらいたい。しかしおいおい、時期、状況を見て、ということになるが、最終的には解放の方向でと異母兄上はお考えじゃ」
「真実ですか?」
「少なくとも今現在、異母兄上はそのように考えておられる。じゃが、ここで問題が一つ」
「何です?」
「行方不明で連絡の取れぬ我が異母弟シュナイゼルの動向じゃ。その如何によってはブリタニアは内戦となろう。そうなった時、そなたらはどうする?」
試されているのだと、神楽耶は思った。
「……シュナイゼル殿下の元にはフレイヤがあります。あのような兵器── あれはこの世にあってはならぬものです。到底受け入れられません。ですが、だからといってブリタニアの内戦に巻き込まれるのは御免です」
「それは当然の判断じゃ。現在、我が国ではすでにアンチ・フレイヤ・システムの構築に動き出しておる。シュナイゼルが動き出すまでの時間との勝負じゃ。そなたらは高みの見物を決め込んでおればよい。そしてもし万一、シュナイゼルが勝ったら、後はそなたらとシュナイゼルとの問題じゃ」
「とりあえずシュナイゼル殿下が動かれるまでは静観しているように、とのことですね?」
「そういうことじゃ。頭の良い者との話は早くて助かる」
そう言ってギネヴィアは笑った。
「分かりました」
「本当にそれでよろしいのですか、神楽耶様?」
「どちらにしろゼロ様亡き今、隊を編成し直さねばなりませんし、独断専行した東京方面軍幹部たちの処分の問題もあります。ここは一旦、蓬莱島まで兵を引きましょう」
「では今度こそ本当の、一時休戦、じゃな」
そうして二組はそれぞれの隊に戻り、ギネヴィアは政庁の立て直しと被災民の救助に動き、神楽耶と星刻は一旦隊を蓬莱島まで戻して、再編成と日本人幹部たちの処理に追われることとなった。
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