ミレイは本当に無理矢理休みをもぎ取り、とはいえ、本国の様子をリポートしてくること、との条件付きではあったが、ギネヴィアの言っていた飛行艇が到着するまで、皆、それぞれに用意をしたり、休憩を取ったりしていた。
話したいこと、聞きたいことは色々あったが、とりあえずそれは飛行艇に乗り込んでからゆっくりすればいいことと、皆そう考えていた。
飛行艇がアッシュフォード学園に到着した後、まずはジェレミアのサザーランド・ジークを収容し、その後、ジェレミアが咲世子を抱き上げて飛行艇に乗り、皆はその後に続いた。
全員乗り込んだことを確認した後、飛行艇は本国に向けてエリア11を後にしたが、途中、エリア11に入る寸前のギネヴィアの隊とすれ違った。
話は“アリエスの悲劇”から始まった。 皇妃マリアンヌの暗殺、ルルーシュが父皇帝から「死んでおる」と言われて、妹と二人、留学という名の人質として日本に送られたこと、二人がいるにもかかわらず、ブリタニアが戦端を開いたこと。
戦後、アッシュフォードが二人を見つけ出し、皇族としてしてではなく、一般人として生きていけるように戸籍を捏造し、学園に住まわせたこと。
皇族として生きていることが本国に知れれば、また何処かの国へ人質として送られるか、あるいは飼い殺し、最悪、暗殺される可能性しか待っていないのが分かっていたからだ。
その話を聞いて、リヴァルとニーナは驚きに声も出なかった。
その後、ルルーシュ様から聞いた話だ、としながら、ジェレミアがルルーシュがゼロとなった経緯と、“行政特区日本”の顛末を語った。
「……他にユーフェミア様を止める方法はなかったんですね……?」
「そうだ」
不幸な結末だった。それでも一度はルルーシュがユーフェミアの手を取ろうとしてくれたのだということが、ニーナにとって僅かではあったが救いになった。
そして“行政特区日本”の虐殺に始まるブラック・リべリオン。その最中にナナリーが浚われ、ゼロ── ルルーシュ── が戦線を離脱して、神根島で枢木スザクに捕まり皇帝に売られたこと。
「国を中から変える方法ってのは親友を売ることなのかよ! あいつ、ルルーシュのこと何も見てなかったんだ。スザクがランスロットのパイロットだって分かってユーフェミア皇女の騎士に任命されてから、あいつがどんな表情でスザクを見てたか、ちっとも知ろうともしなかったのかっ!?」
「それに第一、中から変えるって、所詮スザク君はナンバーズ上がりの騎士に過ぎない。ブリタニアを変えられるのは皇族、いえ、皇帝だけの専制君主国家なのに、彼はそれすらも理解していなかったのね」
「私、ゼロだったルルーシュ君をまだ許しきれないけど、そうやって人の、ルルーシュ君の存在を否定するスザク君も許せない。考え方が違うからって、人が人の存在を勝手に自分の思いだけで否定するなんて、許されないことだと思う」
それから先はアッシュフォード学園で話した内容と重複した部分もあったが、皇帝の力によって皆の記憶が書き換えられ、ルルーシュが24時間の監視体制下にあったこと、C.C.との再会とゼロの復活、ナナリーが総督としてエリア11にやってきたことで、ゼロが中華に身を引いたこと。
「彼が中華に亡命したのは、ナナちゃんと敵対しないで済ませるためだったのね」
「あいつらしいや、極度のシスコンだもんな」
その後、ジェレミアはルルーシュと再会し、ルルーシュがゼロとなった経緯を聞いて彼に忠誠を誓ったこと、その間にシャーリーが何者かに殺されたこと── それはロロによるものだと知ってはいたが、それはあえてジェレミアは口にしなかった。そして自分を改造したギアス嚮団の殲滅作戦。
「だから私の躰の半分は機械です」
そう一言で言いのけたジェレミアに、三人は息を呑んだ。
そして超合集国連合の設立と、決議されたブリタニアからのエリア11の解放。、それに従って開かれた戦端。そこでフレイヤが投下されたこと。
そこまで話が及び、ニーナが俯いて躰を震わせた。それをミレイが優しく抱きとめる。
ナナリーの死が報じられてルルーシュが半狂乱になったこと。そんな状況を見越してシュナイゼルが斑鳩を訪れ、黒の騎士団の幹部たちのみとの話し合いの場を持ち、そこで日本返還と引き換えにゼロを処断することが決められたこと。
「今の最後の方は、半分推測ですが」
そうジェレミアが言うのに、ミレイは首を振った。
「おそらくその通りだと思う。自分たちだけの勝手な思いで、ゼロを、ルルちゃんを売ったのよ、黒の騎士団は。それはこの前のオデュッセウス陛下の放送からでも明らかだわ」
「それでもルルーシュは、結局その場を逃れることができたんですね?」
リヴァルが勢い込むように尋ねる。
「ああ。しかし、代わりにルルーシュ様を守ってロロが死亡した。ロロもギアス嚮団の実験体の一人で、彼は人の活動時間を止めるギアスを持っていたのだが、そのギアスを使用している間は、彼自身の心臓も止まることになる。それを行使し過ぎたことで心臓に負担がかかり、遂にはルルーシュ様の腕の中で逝ったと」
たった1年とはいえ一緒に過ごしたロロの最期に、ミレイとリヴァルは、そして行き違いのように本国に戻ったニーナすらも、思わず涙ぐんだ。
「その後、皇帝だけはどうしてもなんとかしなければならないと、神根島の遺跡の中にいたシャルル皇帝とルルーシュ様は対峙された」
「シャルル皇帝は何をしようとしてらしたんですか?」
「神殺しだ」
「神殺し!?」
「神って殺せるもんなのか?」
「シャルル陛下たちの言う神とは、人の無意識の集合体であり、それを殺すことによって人の意識を一つに纏める、それがシャルル陛下と、マリアンヌ皇妃、ギアス嚮団の嚮主であり、シャルル陛下の双子の兄であったV.V.の目的だったとか。V.V.はすでに死に、シャルル陛下とアールストレイム卿の中で精神だけ生きていたマリアンヌ皇妃は、ルルーシュ様が人の集合無意識にかけた「明日が欲しい」という願いの前に消滅したとのことだ。
私が神根島に到着した時には、ルルーシュ様とC.C.が遺跡の外に出ておられたのだが、ルルーシュ様は真実を知って全てに絶望しておられた。それを私が、責任をお取りくださいと、無理矢理本国のオデュッセウス陛下に、その時はまだ殿下であられたが、頼られて全ての真実を話すべきだと申し上げた。
ルルーシュ様には辛い思いをさせてしまった。だが、あのままルルーシュ様に軽々に死を選んでいただきたくなかったのだ」
「それ、分かる気がする」
「そうだな」
「そうね、私もそう思うわ」
三者三様に頷く。
簡易ベッドに横になっている咲世子も黙って頷いた。
「ところで咲世子、ナナリー様のことだが……」
「はい、ナナリー様はシュナイゼルに保護されてご無事です。ですがシュナイゼルが黒の騎士団に対してしたことを考えると、ナナリー様もいいようにいいくるめられ、ルルーシュ様と敵対する可能性があるのではないかと思えて仕方ないのです」
「ナナちゃん、素直だから、有りえるかも」
「では、ナナリー様がご無事なことは、ヘタにルルーシュ様には告げない方が良いだろうか……?」
「いずれは話す時が、話さなきゃいけない時がくるとは思いますけど、暫くは黙っていた方がいいと思います」
ミレイのその言葉に一同は頷いた。ある意味、ミレイが一番ルルーシュとナナリーを理解しているのだから。
全てではないとはいえ、一通りの話を終えた五人は、あとは本国に着くまでゆっくり休憩を取ることにした。
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