流転の果て 【5】




「……ゼロが、ユーフェミア様を殺したゼロがルルーシュ君だって言うなら、ルルーシュ君を許せない」
 ニーナは小さな声で話しはじめた。
「でも今はそれ以上に、何の覚悟も無しに、何も考えず分からないままに、あんな兵器を作ってしまった自分が許せないんです。だからそんな私の力が今必要だと言うなら、アンチ・フレイヤの構築、やります。いえ、やらせてください」
 最後の方は最初よりも大きな声ではっきりとそう伝えて、ニーナは頭を下げた。
 そこへ医師と看護師を連れてリヴァルが戻ってきた。
「咲世子のことはドクターに任せて、私たちは邪魔にならないように隣室にいきましょう。もう少しお話を伺いたいこともありますし」
 そう告げて、ミレイはジェレミアをはじめとする皆を隣の生徒会長室に引き連れていった。
「まずはゴットバルト卿、ルルーシュ様の身は、今は安全と考えてよろしいのですね?」
 ミレイはまずジェレミアに、自分にとって一番肝心なことを尋ねた。
「そう思ってもらって問題はない。ルルーシュ様は本国に戻られ、オデュッセウス殿下、いや、陛下に全てをお話になられ、陛下はルルーシュ様をご自分の庇護下におかれた」
「私たちの記憶がおかしくなっていたのはどういうことですか? そしてそれが今になって戻ったのは?」
「先の陛下の持つギアスという力で、記憶を書き換えられていたのだ。それを私の持つギアス・キャンセラーという力で解除しただけのこと」
「それで、この1年の間、私たちが、いいえ、ルルーシュ様まで、弟だと思っていたロロという子は何者です?」
「機密情報局がルルーシュ様に付けた監視人だ。もし万一ルルーシュ様が記憶を取り戻されるようなことがあれば、適切な処置をするようにと」
「処置?」
 不穏な言葉に、リヴァルが話の全てが見えていないまでもその言葉を復唱する。
「その処置の内容、伺ってもいいですか」
「おそらくは、殺すこと、を示していたのだと思う。もともとロロはギアス嚮団の暗殺者であったしな。とはいえ、私も詳しくは知らないが。しかし、ロロは最後にはルルーシュ様を守って命を落とした」
「あー、そこらへんのロロの心情の変化は分かるかも……」
 どういった経緯でそうなったのかは分からずとも、普段の二人の遣り取りを見ていれば、ロロがルルーシュに籠絡させられたのだということはイヤでも理解できる。それほどのブラコンぶりだったのだ、ルルーシュは。それが元々ナナリーに対して注がれていたシスコンと元が同じであるならば、あのブラコンぶりも分かるというものだ。
「話が前後しますけど、ルルーシュ様にもその記憶の書き換えは行われていたんですよね。どうしてわざわざそんな面倒なことをしていたんですか?」
 ミレイがもっともな疑問を口にする。
「C.C.という少女を誘き寄せるためだ。ルルーシュ様に接触したところを押さえるために、ルルーシュ様に対して24時間の監視体制が取られていた」
「24時間の!?」
 ということは、このアッシュフォード学園は箱庭どころか、ルルーシュにとっては何時の間にやら監獄へと変わっていたのだ。記憶を書き換えられていたとはいえ、そんな変化に気付きもしなかった己の迂闊さが悔やまれてならないミレイだった。
「それで……」
 尚も問い続けようとしたところに、ドアがノックされた。
「あ、俺が出ます」
 そう言って、近くにいたリヴァルが扉を開けた。そこに立っていたのは看護師だった。
「一応の手当てが終わりました。薬、少ししかありませんけど置いていきますね」
 そう告げてテーブルの上を示すと、確かに薬の袋が置いてあった。
「はい、ありがとうございました」
 医師の姿は見えない。先に持ち場に戻ったのだろう。
「暫くはあまり無理をさせないようにしてください」
「はい」
 遣り取りを聞いていたメンバーは、ジェレミアも含めて生徒会室の方に戻った。
 薬が効いているのだろうか、咲世子は眠りについている。
「ところであのさ、この面子の中で、俺だけが何か一つ一番肝心なこと、聞いてないような気がするんだけど、気のせいですか、会長?」
「あー」
「えっと」
「つまり、ルルちゃんがゼロだったの」
 思い切ってミレイは口にした。
「ゼッ……」
 叫びかけて、リヴァルは慌てて両手で口を押さえた。
 その時、ジェレミアの胸元から携帯の呼び出し音が鳴り響いた。ジェレミアが慌てて携帯を取り出し、通話ボタンを押す。
「はい」
『ジェレミア・ゴットバルト卿ですね』
「はい、そうです」
『ギネヴィア皇女殿下に代わります』
「はっ」
 ジェレミアの遣り取りに、それを聞いていたミレイたちは、相手は分からないものの黙っていようと口を閉じることにした。
『久しいの、ゴットバルト卿』
「はい、殿下」
『こちらは間もなくエリア11に入るが、そなたの方、ニーナ・アインシュタインとかいう娘と接触はできたのかえ?』
「はい。先刻、アンチ・フレイヤ・システム構築への協力も取り付けました」
『それは重畳』
「はい。他に名誉ブリタニア人ですが、ルルーシュ様を主として忠義を尽くしている女性がおります。現在負傷していてあまり動かすことができませんが、できればその女性もニーナ・アインシュタイン嬢と共に、本国のルルーシュ様の元へと思っています。しかしならが何分サザーランド・ジークでは対応できずどうしようかと・・・・・・
『ほほっ、そんなことだろうと思いましたよ。小型高速艇を持ってきておる。小型といってもそなたのサザーランド・ジーク1機くらいなら楽に収容可能。それを向かわせよう。アッシュフォードでよいのかえ?』
「はい、アッシュフォード学園のクラブハウスです」
『では、待っていやれ』
「イエス、ユア・ハイネス」
 話の様子を窺っていたメンバーのうち、ミレイが携帯電話を切ったジェレミアに代表して質問する。
「あの、今のお相手って?」
「ギネヴィア皇女殿下だ。本国へ、ニーナ君と咲世子を連れていくための飛行艇をこちらに回してくださるとのことだ」
「それ、私も行ったら駄目ですか!?」
「あ、俺も」
 ミレイに続いてリヴァルも手を上げて同行を申し出る。
「……リヴァル君はともかく、ミレイ君は仕事があるだろう?」
「そんなもの、無理矢理にでも休暇をもぎ取ってきます、待っててください」
 そう言うと、ミレイは慌てたように生徒会室を後に飛び出していった。





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