流転の果て 【3】




 神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴンでは、その日の午後、皇帝の名で皇族とペンドラゴンにいる主な貴族たちや文武百官に召集がかかった。
 急な召集に、玉座の間と呼ばれる大広間では皇族たちはもちろん、皆ざわついていた。
 そこへ近衛から皇帝入来の旨が伝えられると、広間は一斉に静かになり、皆、俯いて皇帝を出迎えた。
「皆、顔を上げてくれ」
 その声にその場にいた者たちは、え? と思いながら顔を上げた。
 玉座に座っているのは、第98第皇帝シャルル・ジ・ブリタニアではなく、第1皇子のオデュッセウス・ウ・ブリタニアだった。
「昨夜未明、私のところに使いがきて、父上、シャルル皇帝陛下がエリア11内の神根島において崩御されたことが分かった。言葉の上だけのことで遺体などの確認はとれていないが、伝えてよこしたのが父上のラウンズの一人であるアールストレイム卿であることから、まず間違いないと思う」
 突然の訃報に広間がざわめき始める。それをオデュッセウスは右手を上げることで制した。
「現在、世界は混乱の極致にあると言っていい。そんな状態の中、皇帝不在のままにはしておけないので、最終的な確認が取れるまで皇位継承順位に従って、とりあえず私が皇帝代理を務めることとした。皆に諮らずに事を進めてしまったことは済まないと思うが、そこは状況を察してほしい。
 ところで現在戦闘状態にあるエリア11だが、我が方の新兵器であるフレイヤ弾頭の投下によって一時的な停戦状態に入っている。そこから我が異母弟(おとうと)であり宰相である第2皇子シュナイゼルが、超合集国連合の傭兵集団である黒の騎士団の幹部たちと、黒の騎士団のCEOゼロの身柄と引き換えに休戦条約、並びにエリア11返還を約束したとの内密の情報も入った。もちろん、これらの情報は公式には一切本国には知らされておらず、取り交わしているべき外交文書も存在を確認できずにいる。そして肝心のシュナイゼルは、現在は全く連絡が取れない行方不明と言っていい状態であり、確たる証拠はないが、状況から判断してこのシュナイゼルと黒の騎士団との間の約束は、本来、エリアの返還については宰相の権限を逸脱したものであることからも、あくまでも本人たち同士の口約束であり、何ら国際法に基づいたものではないものと判断される。
 よって黒の騎士団との戦闘は未だ継続中であり、エリア11の総督であった第6皇女ナナリーと連絡が取れず、それゆえに、まだ未確認ではあるが死亡したものと思われるため、エリア11を総督不在となったままにしておくことはできないと判断し、急遽第1皇女ギネヴィアを新総督と任じ、アールストレイム卿を護衛に付けて先刻すでに出発してもらった。
 全てが事後報告となってしまい皆には本当に済まないと思うが、ここは軽挙妄動を抑え、国内の一致団結を図ってもらいたい」



 世界中にTV中継もされていたその様子を見て、誰よりも慌てふためいたのは斑鳩内の黒の騎士団幹部たちである。
 自分たちがシュナイゼルと取り交わした約束事をただの口約束であるとされた上、日本は返還されず、未だ戦闘続行中と報じられたのだから。
「畜生! あの時ゼロを取り逃がしちまったからだ!」
「ちゃんと始末できてさえいればこんなことにはならなかったのに!」
 幹部たちのその声に、同じブリッジ内にいた神楽耶が反応した。
「ゼロ様を取り逃がしたとはどういうことです? 始末できていればとは、一体何があったのです!? ゼロ様はフレイヤでの負傷が元で亡くなられたのではないのですかっ!?」
「そ、それは……」
「ゼ、ゼロはブリタニアの皇子で、ギアスという……」
「ゼロ様がブリタニアの元皇子であることはキョウトは知っておりました。忘れたのですか? ゼロ様は桐原の前で仮面を外し素顔を見せたのですよ! ゼロ様が何者か知れたから、いえ、知ったからこそキョウトは黒の騎士団への援助を決めたのです!!」
 その言葉に幹部たちははっとなる。しかし原因はゼロの素性だけではない。
「でもそれだけじゃないんです! あいつはギアスとかいう異能の力を使って、俺たちを駒のように操ってゲーム感覚で楽しんでたんですよ!」
「それは何処からの情報です?」
「もちろんシュナイゼル殿下からです、証拠も提示してくれたんです。だから信用できるんです」
「なんと愚かな。敵将からの情報を何ら検証することなく、提示されるままに信用したというのですか、おまえたちは! それにギアスとやらのことは分かりませんが、駒としたことのどこが悪いというのです! これは遊びではなく実際の戦争なのですよ! 戦争に犠牲はつきもの、ましてや将たる者、配下の者を駒と見ずしてなんとします。命有るものと分かっていても、駒として考えなくては策は練られはしないのですよ! 藤堂統合幕僚長! 元は日本軍の軍人だったあなたまでもがそれすら分からなかったというのですか! あなたがたはシュナイゼルの口車に乗せられて、ゼロ様を! 我らを! 超合集国連合を裏切ったのですよ!!」
 黒の騎士団幹部たちは神楽耶が自分たちを責めるのに対して、誰も答えを持ってはいなかった。
「神楽耶様、それじゃあ、これから日本は、俺たちは……」
「オデュッセウス殿下、いえ、陛下が仰っていたでしょう。現在は暫定的に停戦状態にありますが、まだ戦争は続いています。これからまだまだブリタニアと戦火を交えねばならないのですよ!」



 その頃、ジェレミアは一人、サザーランド・ジークでギネヴィアたちよりも先行してエリア11へ向かっていた。
 目的はフレイヤを開発した研究チーム、インヴォーグの中心人物であったニーナ・アインシュタインの身柄確保のためである。
 ルルーシュ曰く、フレイヤについて一番詳しいのは制作者たる二ーナである。ならばフレイヤに対抗できるアンチ・フレイヤ・システムを完成させるのに彼女の協力は欠かせないと。
 現在ニーナは姿を消しているが、古巣、つまりアッシュフォード学園内に隠れている可能性が高い。従ってニーナを匿っているであろうミレイ・アッシュフォード、リヴァル・カルデモンドにかけられたシャルル前皇帝のギアスを解いてニーナの居場所を聞き出し、ニーナを本国へ連れてきてほしいとルルーシュに頼まれたのである。
 果たしてアンチ・フレイヤ・システムなどを開発する必要があるのか、そしてまたできるのか、おおいに疑問ではあったが、ルルーシュは現在シュナイゼルが行方不明であることから、あらゆることを想定し、対処しておく必要があると考えたらしい。
 ルルーシュがそう言うのであれば、主に仕える騎士として疑問を挟む余地はない。一刻も早くニーナ・アインシュタインの身柄を確保すべく、ジェレミアの心は逸った。





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