流転の果て 【2】




 夜になるのを待って、ルルーシュたちはブリタニア本国を目指した。
 ジェレミア曰く、
「オデュッセウス殿下は凡庸と言われていますが、ただ凡庸なだけで何時までも皇位継承権第1位を保持し続けることは無理です。確かに殿下の御母君のご実家は大公爵家、殿下ご自身は第1皇子であり、後見に付いている貴族も大貴族が多くあります。しかし第2皇子に皇帝位に最も近いと言われているシュナイゼル殿下がいらっしゃる状態で、かなり無理があります。ここは一度、オデュッセウス殿下に繋ぎを付けてみられるのも一興かと。それで無理であれば、その時はルルーシュ様のギアスで私たちのことを忘れていただけばよろしいのですから」
 その言葉に、とりあえず一度オデュッセウスに接触してみることにしたのだ。
 神根島を出たのは2機のKMF── ルルーシュの乗った蜃気楼、アーニャとC.C.の乗ったモルドレッド── 、そしてジェレミアのKGFサザーランド・ジークの1機である。
 アーニャについては、彼女が意識を取り戻した段階で、マリアンヌのこともあって念のためにジェレミアがキャンセラーをかけたのだ。
 その結果、アーニャがマリアンヌ殺害時の目撃者の一人であったこと、記憶が途切れるのはマリアンヌが表に出てきていた時であったこと、更にはシャルルの記憶改竄のギアスがかけれていたことなどが判明し、アーニャはルルーシュたちに付くことを誓ったのである。
 3機は警戒網を掻い潜り、帝都ペンドラゴンにある宮殿近くの森にその機体を隠して宮殿に入り込み、オデュッセウスと接触するために、彼の住まう離宮近くに隠れてその機会を待った。



 夜になるのを待って、守衛の目を掻い潜り、時にルルーシュのギアスを使って、四人はオデュッセウスの部屋の前に辿り付いた。
 ジェレミアがコンコンと軽くノックをすると、中から誰何の問いがあった。
「辺境伯のジェレミア・ゴットバルトでございます。このような時間にお約束もせず突然にお伺いして大変申し訳ございませんが、何としても至急お耳に入れたき儀があり、お伺い致しました」
 暫しの間の後、「入りたまえ」と答えが返って、ジェレミアはそっと扉を開けて中に入り、その後に残りの三人が続いた。
 オデュッセウスは部屋に入ってきたのがジェレミアだけではなかったことに驚いたが、直ぐに平静を取り戻した。
「久し振りだね、ゴットバルト卿。このような形で会うことになるとは思わなかったよ。そちらの女性は、私の記憶に間違いがなければ、昔、マリアンヌ様のところに出入りしていた……」
「私の名はC.C.。私はコード保持者であり不老不死者だ。姿形が昔と変わっていなくても当然のこと」
 と軽くC.C.はオデュッセウスの疑問に答えた。しかし、コード、不老不死者、と逆に疑問を増やしてもいた。
「コードとかのことは後で聞くとして、君は確か、父上のナイト・オブ・ラウンズの一人、シックスのアーニャ・アールストレイム卿だね」
 その言葉に、アーニャは「はい」と小さく答えながら頷いた。
 そして最後に、いや、敢えて最後にしたのだろう、オデュッセウスは残る一人に問いかけた。
「私の思い違いでなければ、君はルルーシュ、かな? 亡きマリアンヌ皇妃の長子、第11皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
「そうです。覚えていてくださったんですね、異母兄上(あにうえ)
「忘れるはずがない、きちんと覚えているよ。ナナリーが生きて見つかったから君もきっと、とは思っていたが、こうして会えて嬉しい。君が生きていてくれて本当に嬉しい」
 言いながら、オデュッセウスはルルーシュを抱き締めた。
「異母兄上」
 オデュッセウスはゆっくりとその抱擁を解きながら、四人に椅子を勧めた。
「ゴットバルト卿も言っていたが、何も会うためだけにきたのではないのだろう? 話とやらを聞こう」
 オデュッセウスのその言葉を合図のように、ルルーシュが話し始めた。
 アーニャが思い出したマリアンヌ殺害の件に始まり、ルルーシュたちが日本に送られた頃のこと、戦後、アッシュフォードに見つけてもらい匿って貰っていたこと、C.C.との出会い、ギアスという力を貰ったこと、クロヴィスを手にかけ祖国への反逆者ゼロとなったこと、“行政特区日本”でのユーフェミアのこと、ブラック・リベリオンの際にナナリーが浚われたこと、それを追った神根島で枢木スザクに破れて捕まり、皇帝に売られたこと、その際に皇帝のギアスによって記憶を改竄され、1年もの間、C.C.を釣るための餌として24時間の監視体制下にあったこと、C.C.と再会し全てを思い出し、再びゼロとして()ち上がったこと、ギアス嚮団を殲滅したことと、超合集国連合を組織して第2次トウキョウ決戦に臨んだこと、その最中に投下された大量破壊兵器フレイヤによって妹のナナリーもその中に散ったこと、その混乱の中、黒の騎士団の旗艦である斑鳩にシュナイゼルが外交特使としてやってきて騎士団幹部たちを諫言をもって唆し、休戦協定と、ゼロである自分の身柄と引き換えにエリア11── 日本── を引き渡す約束をしたこと、幹部たちから殺されそうになったところを、監視役の弟として自分の傍にいたロロに助けられたこと、そのロロも死に、神根島で父と母の真実を知り、その二人を消滅させたこと、そして絶望に打ちひしがれていたところへジェレミアがやってきて、彼の言葉で今こうしてオデュッセウスを訪ねてきたこと。
 長い話だった。ルルーシュが包み隠さずに全ての話を終えた時にはすでに夜が明けていた。
 話を終え、俯いてしまったルルーシュの肩に、話の間、時折眉を顰めながら聞いていたオデュッセウスは労わるようにその大きな右手を乗せた。
「よく話してくれたね。大変な、と一口で言えるようなものではないけれど、思いをしてきたのだね」
 大きな溜息を吐き出しながら、オデュッセウスはそう口に乗せる。
 それから黙り込んで自分の思考に耽ってしまったオデュッセウスに、ジェレミアは警戒する。しかしその警戒は無用のものだった。
「休戦条約の件も、エリア11返還の件も、本国には届いていない。つまりシュナイゼルの独走、越権行為ということだ。もともと宰相にエリア返還を決定する権利などないからね。今直ぐに動けばどうにでもなる。
 まずは総督のいなくなったエリア11に新しい総督を送ることだね。新総督は第1皇女のギネヴィアにしよう」
「ギネヴィア異母姉上(あねうえ)!?」
 突然出された異母姉(あね)の名に、ルルーシュが驚きの声を上げる。
「ギネヴィアはあれで中々侮れない存在だよ」
 そう言って、オデュッセウスはにっこりと笑った。





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