逆 行 【2】




 見知らぬ少女に唇を奪われて、途端にあらゆる情報がルルーシュの脳裏に描き出された。
 すでに口付けをといた少女が呆然としているルルーシュを見ている。
「……C.C.……?」
 確かめるように、ルルーシュが少女の名を呼ぶ。
「思い出したか、ルルーシュ?」
 少女── C.C.── が確かめるように尋ねる。
「……思い出したけど、これは一体どういうことなんだ?」
 訳が分からないというようにルルーシュが尋ね返す。
「どうやら時を逆行したらしい」
「逆行? ……なら、なら何故、ナナリーは死んでるんだ? 俺一人が生き残って……」
 ルルーシュの言葉に、C.C.は、ふむ、と考え込む。
「どうやら逆行といっても、全てが全て同じという訳ではなさそうだな」
 そう話しているうちにトラックが停まった。
「何時までも此処にいてもラチが明かないし、面倒事に巻き込まれるだけだ、さっさと降りて何処かへ行こう」
 C.C.に促されるまま、ルルーシュはトラックから二人して降りた。
 トラックは何時の間にやらかつての地下鉄の中を走っていたらしい。どうりで振動が激しかったはずだなどと、現実逃避するかのようにルルーシュは考えていた。
 戻ってきた記憶の中で、枢木スザクにテロリストと間違われて思い切り体当たりを食らったのを思い出した。トラックから離れながら、少なくともそれはない訳だ。これも以前とは違うことだな、と思った。
 二人してとにかくトラックから、トラックの入り込んだゲットーから抜け出ることを優先した。
 前の記憶ではクロヴィス提督の親衛隊に見つかり、あやうく殺されかけたのだ。少しでもトラックから離れておくにこしたことはない。
 幸いなことに、親衛隊にも他のブリタニア兵にも見つからず、二人はゲットーと租界の堺目まで来ることができた。
「C.C.、その格好じゃ目立つ。何か服を買って来るから、どこかに隠れて待っていてくれ」
「分かった」
 そう言ってルルーシュはC.C.から離れた。
 空を見上げれば、ゲットーの方をヘリが飛行している。トラックを探しているのだろう。同時に、トラックから飛び出していったKMFがそのヘリを撃ち落してもいた。
 無駄なことを、と思いながら、ルルーシュは租界の手近な店に入り、とりあえずC.C.に合いそうなワンピースを一着だけ買うと、元来た道を戻った。
 合流した後、人のいないのを見計らってC.C.は木の陰で急いで着替えを済ませる。
 そのまま二人して普通のデートをしているカップルのように租界内に入って歩いていた。
「これからどうするんだ? 俺は一人だから、前のようにクラブハウス住まいじゃない。寮長だから個室ではあるが、男子寮だぞ。前のようにはいかない」
「個室なら外に出なければ大丈夫だろう。何、問題ないさ」
「って、おまえ、また俺の部屋に居座るつもりか?」
 あっさりと言ってのけるC.C.に、ルルーシュは驚きを隠せない。
「それよりこれからどう行動するかの方が問題だろう? 前の時のように黒の騎士団を、おまえの軍隊を創るのか?」
 話題を変えたC.C.にルルーシュは渋面を作る。
「いや、創らない」
 暫し考えて、ルルーシュは否定の言葉を吐いた。
「ナナリーはイレブンに、日本人に殺された。その日本人のために日本を取り返すための行動などしてやるつもりはない。それに第一、肝心のナナリーがもういない。黒の騎士団を作ったのはあの子が望む“優しい世界”を作るためだったがその必要はなくなった。それに母上の死の真相もすでに分かっている。あえてブリタニアと事を構える必要は感じない。ただ、“ラグナレクの接続”だけは、“神殺し”は阻止しなければ、とは思う」
 そう訥々と語るルルーシュに、C.C.は何気なく告げた。
「ならばV.V.を殺せばいい。奴の持つコードを奪って殺せば、コードがこちらにある以上、シャルルたちには何もできない」
「!?」
 ルルーシュはC.C.の言葉に目を見張った。
 コードを奪うということは不老不死になるということだ。つまり彼女は、己にV.V.のコードを奪って自分と同じになれと言っているのだ。
「C.C.……」
「今のおまえになら、V.V.のコードを奪うのは容易いだろう?」
 その言葉に、ルルーシュは両目に宿ったギアスの息吹を感じる。
「後はおまえの決断次第だ」
 簡単に、大したことではないことのように告げるC.C.に、ルルーシュは返す言葉を持たなかった。
「……少し考えさせてくれ」
「いいさ。時間はたっぷりある」
 二人がそうして会話を交わしている間に、シンジュクゲットーに対してクロヴィスから掃討作戦が指示されたらしく、多くのブリタニア兵が投入されていった。





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