道 程 【7】




 北ブリタニア大陸の西海岸に近付きつつある天空要塞ダモクレスを、民間TV局のカメラがその映像に捕えた。
 そして驚きをもって見つめられたのは、その映像の中に超合集国連合の外部機関である黒の騎士団の旗艦たる斑鳩の艦影があったことである。
 その映像を見たルルーシュは頭を抱えた。連中は一体何を考えているのかと。
 ダモクレスを後方に置いて斑鳩は前線にあり、その周囲には黒の騎士団のKMFが展開していた。もちろんその先鋒は黒の騎士団のエース機たる紅蓮である。
 超合集国連合最高評議会議長である神楽耶とルルーシュのオープンチャンネルでの会談の後、神楽耶は方針を転換した。
 ルルーシュの言うように、確かにエリア11を日本として返還するとの約定は存在せず、扇たちが言うように日本が返還されたとは言えない。ならばオープンチャンネルという誰もが視聴することが可能な方法で連絡を取ってきたルルーシュの言葉を信用してもよいのではないかと。
 確かにルルーシュはゼロであり、その一点から見れば、日本を解放するために黒の騎士団を結成したゼロの行動は偽りのものとなる。しかし黒の騎士団は、第2次トウキョウ決戦の後、ゼロの死亡を発表した。肝心のゼロ、すなわちルルーシュが生きているにもかかわらずである。そこには未だ自分に知らされていない黒の騎士団幹部たちとシュナイゼルとの密約があるのではないかと想像できたし、また密約があるにせよないにせよ、ルルーシュがゼロであったことが世間に知られた場合、黒の騎士団幹部たちがゼロに対して背信行為を働いたことが明らかとなる。その場合、ルルーシュがブリタニア皇帝となった時期と照らし合わせてみても、人々が黒の騎士団側に非があると見るのは容易だった。
 それらのことを考え、神楽耶は静観の立場を取ったのである。
 黒の騎士団の日本人幹部たちにとっては、神楽耶のその行為すら裏切りに見えた。日本は解放されたと信じ込み、それをエリア11はいまだブリタニアの属領と言い切るルルーシュに言い負かされたのだと彼らは受け止めた。ならば今度こそ力づくで日本を解放すると、日本人幹部たちを中心として、斑鳩をはじめとした数隻の艦艇で出撃し、ルルーシュを討たんとするシュナイゼルに合流したのである。彼らにとっては貴重な真実の情報を齎してくれたシュナイゼルこそが信じるに足る存在であり、シュナイゼルと共同歩調を取り、ルルーシュを皇帝とするブリタニアを倒せば、今度こそ確実に日本は返還されると思ってのことである。
 そんな黒の騎士団のKMFの一団の中にあって、先頭に立つ紅蓮に騎乗するカレンは歯ぎしりしていた。
 自分たちを裏切ったルルーシュ。ギアスという卑劣な手段で人を操り、力を得て、世界を思う通りに動かそうとしているルルーシュ。かつて自分が信じたゼロは偽りだったのだ、カレンの中ではそう結論づけられていた。最初にゼロを裏切ったのは他ならぬカレン自身であったにもかかわらず、カレンには裏切られたとの思いしかない。そしてルルーシュを倒すのは自分だとの自負の下、出撃したのである。



 互いに有効射程圏内に入ったところで戦闘は開始された。
 最初の一弾は、周囲の海に展開するブリタニアの艦艇から斑鳩に向けて発射された主砲だった。
 そのことにカレンは尚一層の怒りを覚えた。カレンには攻め寄せているのが自分たちであり、ブリタニア軍は攻め寄せてくる陣営から本国を守る立場にあるという明かな事実すら見えていない。
 斑鳩をはじめとした艦艇から、展開するブリタニアの艦艇に向けて主砲が放たれる。そうして艦艇同士の戦いが始まる一方で、KMFも戦いの中に巻き込まれていった。
 ブリタニアの先鋒を務めるのは、ルルーシュのナイト・オブ・ワンであるジェレミア・ゴットバルトである。彼は己のKGFサザーランド・ジークで縦横無尽に戦場を駆け、次々と騎士団のKMFを撃ち落していった。
 そしてジェレミアだけではない。かつてのシャルルのラウンズたちも、今はルルーシュのラウンズとして戦場に姿を見せていた。ジェレミアを除くラウンズたちはカレンの騎乗する紅蓮を取り囲み、次々と攻撃を仕掛けていった。
 機体性能では多分に紅蓮の方が上であろう。しかし開戦までの間にラウンズたちの騎乗するKMFもロイドたちの手によって機体性能を向上させており、ましてやそれを動かすのが歴戦の強者(つわもの)であるラウンズが複数となれば、いかな紅蓮とて、カレンとて手に余る。
 最後はアーニャの騎乗するモルドレッドのハドロン砲で撃墜されるに至った。カレン自身はギリギリのところで紅蓮から脱出したが、海上に落下した操縦席にあって尚、悔しさと怒りに震えていた。
 紅蓮が撃墜されるのを待っていたかのように、ダモクレスから2機のKMFが出撃してきた。シャルルの下でワンであったビスマルクとトゥエルブのモニカが乗る機体である。
 ラウンズ対ラウンズの戦いは壮絶を極めた。ことにビスマルクは同じラウンズの中にあっても次元が違った。とはいえ、数からいえば明らかにブリタニアの方が多く、能力の差を数で補っていた。
 ついにビスマルクは閉ざしていた瞳を開いてギアスの力を解放せざるを得なかった。しかし不思議なことに、彼には何も見えなかった。何故ならばそこにギアス・キャンセラーたるジェレミアが存在したからである。そんなこととは知らないビスマルクは、己と己の騎乗するギャラハットの性能だけを頼りに、シャルルを裏切りルルーシュに膝を屈したかつての同僚たちに襲い掛かった。しかし一体を相手にしている間に他の機体に後ろ、あるいは脇から責められ、次第に追い詰められていった。そこにかつてのブリタニア最強の騎士の姿は最早無いと言っていい。モニカが墜とされ、遂にはビスマルクまでもが墜とされた。
 残るは本丸、ダモクレス要塞である。しかしそれこそが一番の難敵だった。
 ダモクレスに張り巡らされたブレイズ・ルミナスの一部が解除され、フレイヤが発射された。
 しかしそれは一瞬のうちに消失した。まさに消失である。ブリタニアの旗艦、ルルーシュ自らが乗るアヴァロンから不思議な光が発射されたとほぼ同時に、フレイヤは爆発することなくその場から姿を消したのである。それにはダモクレス内のシュナイゼルも目を見張った。
 一体何が起こったというのか。何故フレイヤは爆発することもなく消え去ったのか。シュナイゼルをもってしてもその要因を考えることはできなかった。
 しかしシュナイゼルはフレイヤの発射スイッチを持つナナリーに、次々とボタンを押すように指示した。
 どのようにしてルルーシュがフレイヤを消失させているのかは分からないが、それが必ずしも常に成功するとは限らない、外す時、失敗する時があるはず。ならばたとえ一発でもそれが叶えば、フレイヤの性能を持ってすればアヴァロンをはじめとしたブリタニア軍を消滅させることが叶うのだ。シュナイゼルらしくもなく、それに一縷の望みをかけてフレイヤを撃ち続けた。
 しかしロイドが開発したアンチ・フレイヤ・システムは、フレイヤを感知して起動されるものであり、その狙いを外すことはない。
 やがて、フレイヤの弾数が尽きた。しかしブレイズ・ルミナスに守られたダモクレスは、何をもってしても早々に墜とせるものではなかった。
 とはいえ、フレイヤを撃ちつくしたダモクレスは、その要塞のあちこちに配備された機銃で敵を攻撃するしかなく、その際にはどうしてもブレイズ・ルミナスを解除する必要性が出てくる。でなければ攻撃ができないのだから。そうしてブレイズ・ルミナスが解除された隙をついて、ラウンズたちがダモクレスに急襲を掛ける。
 最早ダモクレスを守るべきKMFは1機もなく、黒の騎士団の日本人幹部たちが指揮する数隻からなる艦隊も戦闘能力を失い、KMFも海上に墜落している。彼らはただ海の上からダモクレスの様子を見守るしかなかった。そんな彼らの元に、彼らを拿捕すべくブリタニア艦隊が近付いていたが、彼らにはすでに為す術がなかった。
 ダモクレスに乗り込んだラウンズたちは、ルルーシュからかねて受けた指示通りに脱出艇のあるフロアに向かっていた。誰にも見つからぬように。
 そしてルルーシュの読み通りに、己の副官であるカノンのみを連れて脱出艇の置かれているフロアに現れたシュナイゼルをラウンズたちが取り囲む。
 ことここに至り、全てをルルーシュに読まれていたとして、シュナイゼルは諦めるしかなかった。
 そうしてシュナイゼルがラウンズたちによって取り押さえられている頃、庭園にいたコーネリアとナナリーもまた、ダモクレスに侵入してきたブリタニア兵たちに取り押さえられた。
 彼らにはコーネリアとナナリーという二人の皇族に対する敬意は最早ない。何故なら、彼女らは大逆犯であり、ルルーシュが開発させたアンチ・フレイヤ・システムが無ければペンドラゴンは消滅し、己らはもちろん、家族も友人も失っていたのだから。そんな悪逆を働いた元皇族に対して、どうして敬意を払うことなどできようか。
 ナナリーは兵士に取り押さえられながら必死に叫んだ。
「あなたたちはお兄さまにいいように操られているんです、目を覚ましてください!」
 ギアスを解く方法などナナリーには思いもつかなかったが、せめてその叫びが彼らにルルーシュに対する不信を抱かせるきっかけにでもなればとの思いだった。
 しかしそれは徒労に終わる。誰もブリタニア本国に牙を剥いた逆賊の言葉を聞いてはいなかった。
 そうして世界が見守る中、フレイヤの威力を考えればどのようなことになるのかと思われていたが、戦闘は呆気なく終息した。開戦後、僅か3時間足らずのことである。
 戦闘の成り行きを見守っていた各国の首脳たちは、その方法は分からぬまでも、皇帝たるルルーシュがフレイヤを完全に封じ込める策を手に入れていたのだと、それだけは理解した。そうである以上、フレイヤの製造方法を入手したとしても、それをもって戦いに臨むのは不可能であるとの結論を出したのだった。
 結局、フレイヤがその威力を発揮したのは第2次トウキョウ決戦における一発だけであり、幻の兵器と化した。ニーナが必死になって開発したアンチ・フレイヤ・エリミネーターは使用されることなく終わったが、今後、フレイヤのような兵器が再び現れるかもしれないと、ルルーシュはニーナに対して引き続きの研究を促し、ニーナもそれに首肯した。それだけトウキョウ租界で使われたフレイヤの威力は、ニーナの心に深い傷を残していたのだ。





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