道 程 【3】




 C.C.と共にCの世界を後にしたルルーシュは、真っ先に己に忠誠を誓ってくれているジェレミアに携帯で連絡を取った。蜃気楼から連絡を取れば、自分を裏切った黒の騎士団に察知されてしまうことを考慮してのことである。
 ルルーシュからの連絡にジェレミアは狂喜した。扇からゼロ── ルルーシュ── の死亡を知らされ、気落ちしていたのである、また守ることができなかったと。
「ご無事で何よりでございました。扇からルルーシュ様の死を聞かされた時には、とても信じることもできず、どうしたらよいものかと……」
 嬉し涙を流しながらそう告げるジェレミアの言葉は続かなかった。
「済まない、心配をかけて」
「しかしこうしてルルーシュ様がご無事であるにもかかわらず、黒の騎士団がゼロの死亡を発表したということは、黒の騎士団はゼロを、ルルーシュ様を裏切ったのですね」
 ジェレミアは怒りを込めてルルーシュに確認を取った。
「そうだ。シュナイゼルが扇をはじめとする幹部たちを取り込み、ギアスの情報も与えたらしい。俺は幸いロロに救われたが、代わりにロロがギアスを酷使し過ぎて死んでしまった」
 沈む声でルルーシュが告げた内容に、ジェレミアはかけるべき言葉を持たなかった。
「詳しい話は合流してからにしよう。俺は今神根島にいる。来てくれないか。話の内容次第では、おまえは俺から離れることになるかもしれないが」
 気を取り直したように続けるルルーシュの言葉を、ジェレミアは否定した。
「何を仰います、ルルーシュ様。我が忠義はルルーシュ様唯お一人に捧げました。いかようなことがあろうとも、このジェレミア、決してルルーシュ様への忠義を捨てることはありません。これから直ぐに神根島に向かいます」
 そうしてサザーランド・ジークで神根島を訪れたジェレミアを、ルルーシュとC.C.はギアスの遺跡の外で待っていた。
 ジェレミアが降り立ってルルーシュたちの下へ駆けて来る。それを二人は黙って待っていた。
「改めてこうしてお顔を拝見してご無事を確認でき、これ以上喜ばしいことはございません」
 ルルーシュの前に膝を付いてそう述べるジェレミアに、ルルーシュは楽にしてくれと告げた。
 それからルルーシュはジェレミアに対して、Cの世界であった出来事── そこで知った母マリアンヌの死の真相、シャルルたちの神殺しの計画、シャルルとマリアンヌを消滅させたこと── を包み隠さずに話して聞かせた。
 ジェレミアはその話の内容に驚きを隠せなかった。当然のことだろう。
「それで、ルルーシュ様におかれては、これから如何されるおつもりですか?」
 自分を呼んだのは何かしか考えがあってのことだろうと察して、ジェレミアは問いかけた。
「ブリタニア本国に戻って、ペンドラゴンを、ブリタニアを掌握する。今のブリタニアを放っておくことは、シャルルを殺した責任も考えればできないし、何よりも今の世界の在り方を変えたい、ナナリーが望んだ優しい世界に。それが今までに俺が命を奪って来た人々に対する何よりの償いだと思う」
「ご決断されたのですね。では、私はまず何をすればよろしいですか?」
 ルルーシュはジェレミアの言葉に大きく頷いてから次の言葉を発した。
「エリア11に戻って、ミレイ・アッシュフォード、リヴァル・カルデモンドと接触し、シャルルのかけたギアスを解いてほしい。そしてニーナ・アインシュタインの居場所を確認してその身柄の確保を。
 ミレイとリヴァルならニーナの居場所を把握している可能性が高い。いや、むしろ彼女たちが積極的にニーナを匿っているのではないかと思う。フレイヤの威力を前に、おそらく各国が、開発者であるニーナを手に入れようとしているだろう。そしてニーナは自分の開発したフレイヤの被害に驚愕しているはずだ。そんな状態のニーナが、それまで同様にシュナイゼルの下に居続けるとは思えない。かといって隠れる場所となると限られてくる。その場合に頼れるのは必然とミレイたちになる。
 シュナイゼルがフレイヤを所持している以上、それに対抗するにはフレイヤの開発者であるニーナの協力を得て、アンチ・フレイヤ・システムを構築する必要がある」
「承知致しました。して、ルルーシュ様は?」
「俺は一足先に本国に戻って、宮殿に入り込むための手段を講じる」
 そうしてジェレミアは再びエリア11に戻り、ルルーシュとC.C.は蜃気楼でブリタニア本国、その帝都ペンドラゴンを目指した。



 そして1週間が過ぎ、無事にニーナの身柄を確保したジェレミアは、ルルーシュと連絡を取って、ペンドラゴンで合流した。場所は、ペンドラゴン郊外の森の中にある番小屋である。
 そこでルルーシュは、再会したニーナに全てを話した。
 自分の出生、生い立ち、自分がゼロであったこと、行政特区での出来事の真相。
 もしかしたらそれによってニーナの協力を得ることはできなくなるかもしれないという危惧もあったが、しかし嘘をついたまま協力を求めるのもまた無理だと判断したためだ。
「ルルーシュ君が、ゼロ? 私が尊敬し崇拝していたユーフェミア様を殺した、ゼロ?」
 半ば呆然としたようにニーナが呟く。
 だが次いでニーナの脳裏を(よぎ)ったのは、フレイヤを投下されたトウキョウ租界の有り様だった。
 自分が開発したフレイヤのせいで、何の罪もない、あまりにも多くの人々が死ぬこととなり、トウキョウ租界には大きなクレーターができていた。そこには何も無かった。そんなことを引き起こす兵器を、シュナイゼルは所持している。
「私、ゼロだったルルーシュ君を、ユーフェミア様を殺したルルーシュ君を許すことはできない。でもルルーシュ君にはルルーシュ君の事情があって、そしてユーフェミア様を殺したのも、それがあの時取れる一番の方法だったのも分かる。そして私は、自分がしでかしてしまったことの責任を取らなきゃいけないと思う。だからルルーシュ君に協力するわ。なんとしてもアンチ・フレイヤ・システムを作り出してみせる」
 ニーナは決心したようにルルーシュに大きく頷いてみせた。
 結果として、ルルーシュが素直に全てを話したことが吉と出た格好だ。
 それからルルーシュたちは、ペンドラゴン市内に入り、更には宮殿へと忍び込んだ。
 この1週間の間に、宮殿に詰める近衛兵たちのほとんどに対して、ルルーシュはギアスをかけて己の支配下に置いていた。そんな状況下では誰に見咎められることもなく、宮殿に忍び込むのは容易かった。
 そうして様子を見ながら時を待って行われたのが、ルルーシュの皇帝即位の宣言なのである。



 超合集国連合は揺れていた。突然のブリタニアの皇帝交代と、これまでと180度変わった国是にどう対処していくべきか紛糾していた。
 その内容は大きく三つの陣営に色分けすることができた。
 まずはシュナイゼルから齎された情報を信じ、新しく皇帝となったルルーシュを信用することはできないとする合衆国日本の代表であり超合集国連合最高評議会議長を務める皇神楽耶と、彼女と親しい合衆国中華の天子。ブリタニアの転換を機に歩み寄り友好路線でいこうという国々。そして、暫くは様子を見てみようとする慎重派の国々である。
 一方、黒の騎士団の、特に日本人幹部たちの間では大騒ぎになっていた。
 自分たちが放逐したゼロが、こともあろうにブリタニアの皇帝となったのである。その上、ナンバーズ制度を廃止し、差別を禁止している。しかしシュナイゼルから齎されたルルーシュの持つギアスの情報を知る彼らは、ゼロを、つまりはルルーシュを信用することはできないとして、全面的に神楽耶や天子の側についた。彼らには政治的発言権など何一つないのだが、唯一の武力集団としての存在感がある。
 しかし彼らは気付いていなかった。超合集国連合内に、勝手にシュナイゼルとの停戦合意を決定した黒の騎士団に対して不信の目を向ける国々が多々あることに。





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