道 程 【2】




「C.C.、おまえも逝くのか?」
 ルルーシュは床に座り込んでいるC.C.に尋ねた。父たちのように逝くのかと。
「……死ぬ時くらいは笑って欲しいんだろう? それより、おまえたちこそこれからどうするんだ?」
 C.C.は逆にルルーシュと、その後ろに立つスザクに尋ね返した。
「ルルーシュはユフィの仇だ」
 スザクはC.C.の言葉にはっとしたように自我を取り戻し、そう告げると剣を構えた。
「だから?」
「だから、だと?」
 スザクはルルーシュの返した一言に目を剥いた。
「確かに俺はおまえにとってはユフィの仇だろう。だがおまえはどうなんだ、スザク」
「僕?」
 ルルーシュの言葉に、スザクは意味が分からないというように眉を寄せる。
「エリア11ではかつての同胞を名誉ブリタニア人として、白兜のデヴァイサーとして殺し、EUではブリタニアのためにナイト・オブ・ラウンズのセブンとして、“白き死神”と異名を取るほどに人を殺してきたおまえはどうなんだと聞いている。そして先刻の第2次トウキョウ決戦ではフレイヤを投下して、軍民合わせて3,500万余もの人間を死傷させた」
「ぼ、僕はブリタニアの法に則って……」
「それはおまえ自身の理屈だ。日本人たちは敗北を認めなかった。独立を欲してブリタニアと戦った。その方法が敗戦後はテロという行為になっただけだ。そして合衆国日本として独立し、黒の騎士団は超合集国連合の決議に従って動き始めた時から、その戦いはテロではなく、立派に国家間の、軍隊同士の戦争になった。EUについて言えば、これはブリタニアからの一方的な宣戦布告に対しての自衛行為であって、ブリタニアの法に則る必要などない。
 おまえはそうやって戦っている人々から、あるいは後方にいる人々から、おまえにとってのユフィを数えきれないくらい殺してきてるんだよ。
 俺をユフィの仇と言うのはいいさ、事実だからな。だがおまえはどうなんだ、どう責任を取るつもりなんだ? EU戦で、もしブリタニアが敗北していれば、おまえこそ戦犯だぞ!」
「僕は、そんなつもりで戦ってたわけじゃない」
 首を横に振りながら答えるスザクの言葉には、明らかに動揺が見てとれた。
「ただ力をつけて何時かワンになってエリア11を……」
「だからそれはおまえ自身の、おまえだけの勝手な理屈だと言っている。日本人が望んでいるのはワンの支配するブリタニアの属領じゃない、日本の独立だ。おまえの言っていることは、目指していることは唯のおまえ一人の独り善がりに過ぎないってことをいい加減理解しろ」
「そんなことはない! 何時かブリタニアを内から変えてみせる!」
「たとえ仮にワンになれたとしても、所詮は臣下に過ぎない。専制主義国家の神聖ブリタニア帝国においては、皇帝の決定が全て。臣下が内から変えることなどできはしない」
「そ、そんなこと、は……」
 スザクの構えていた剣が力なく落ちていく。





「皇帝陛下御入来!」
 神聖ブリタニア帝国の帝都ペンドラゴンにある宮殿、その中で最も広い面積を占める、玉座の間と呼ばれる大広間に、皇族、貴族をはじめとした文武百官が集っているところへ、近衛の声が響き渡った。
 その声に続いて広間の中に入ってきて、高い位置にある玉座に腰を降ろしたのは、黒い簡素な学生服に身を包んだ一人の少年だった。そのすぐ脇には、顔の半分を不思議な仮面で隠した騎士が控えている。
「私が第99代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」
「ルルーシュですって? 生きていたの?」
「ええ、地獄から舞い戻って参りました。そして第98代皇帝シャルルは私が弑したので、私が次の第99代皇帝ということです」
 広間の中がざわめき出す。そんな中、一人の青年が進み出た。
「ルルーシュ、君が生きていてくれて嬉しいよ。ナナリーが生きていたからもしかしたら君も、とは思っていたが。しかしそれにしても冗談が過ぎるよ、君が父上を弑して皇帝を名乗るなんて」
「そうですね。ではもっと分かりやすくお話ししましょう」
 そう言ってルルーシュは右手を両目にかざした。
「我を認めよ!」
 その言葉と共に、広間にギアスの赤い鳥が羽ばたいた。
 そしてそれと同時に、ざわめき紛糾していたその広間は静まり帰り、一瞬の後、『オール・ハイル・ルルーシュ』の声だけがその場を占めた。
 その翌日から、ルルーシュは辺境伯ジェレミア・ゴットバルトを己の新たなナイト・オブ・ワンに指名した後、精力的に動き始めた。
 まず手始めにしたことは、皇族特権をはじめとして、貴族たちの既得権益の廃止、更に皇族たちには皇籍奉還をさせ、一時金を与えて一臣民とした。次いでブリタニア皇帝の名においてナンバーズ制度の廃止を公表し、一切の差別を禁止した。エリアの解放について言及しなかったのは、エリアの状況から時期を見てと考えてのことである。代わりに後々のエリア解放を目指して、それまでの総督に代わり、優秀な官僚を各エリアに送り込んだ。
 マスコミを通して発表された皇帝の代替わりについては、新しい皇帝の顔と名、そして簡単な経歴── “閃光のマリアンヌ”を母に持ち、母が亡くなった後は当時の日本に妹と共に人質として送られ、ブリタニアの侵攻と同時に死んだこととして隠れ住んでいたこと、父である先帝シャルルを弑逆して皇帝の座に就いたこと── のみであり、その人となりは公表されなかった。
 しかし一部の人間のみが保持していた既得権益を廃止し、シャルルの謳っていた弱肉強食を否定、ナンバーズ制度を廃止したことにより、エリアに住まう元ナンバーズたちや、ブリタニアにあっても強者とは言えぬ立場にいた者たちから圧倒的な支持を受けた。彼ら曰く、“正義の皇帝”の誕生である。
 ルルーシュが第99代皇帝を名乗って登場してから、まだ半月余りしか経っていない。ルルーシュの告げたシャルルの死からは僅か一ヵ月である。





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