告 白




 妖邪との戦いを終え、家に帰ってからほぼ一月。そして今また、東京に向かう新幹線のシートに身を委ねている。共に戦った仲間たちと会うために。そして、誰よりも愛しいと想うあの女性(ひと)に会うために──



 阿羅醐の強大な力の前に敗れ去り、散り散りになった私たちが再び集うことができたのは、ひとえに彼女の力によるものだった。もしも彼女がいなかったら、私たちは集うことは叶わず、妖邪に敗北し、この人間界は妖邪のものとなっていたかもしれない。それを考えれば、彼女にはどんなに感謝してもしきれない。
 しかしいざ戦いとなれば話は違う。私たちは妖邪と戦うために存在する鎧戦士だ。だが彼女は、いくら妖邪のことを、そして私たち鎧戦士のことを知っているといっても、所詮は普通の人間、それも若い女性なのだ。妖邪から自分の身を護る術を持たぬか弱き女性。そんな彼女を連れての戦いは、彼女を護らねばならぬ分、負担が増すだけだ。戦いの場にあっては彼女ははっきりいって足手纏いでしかなかった。
 彼女に感謝しつつも、彼女の同行は迷惑でしかなかった。最初の頃はずっとそう思っていた。それがいつからだろう、彼女に対する気持ちが変わったのは。
 妖邪との戦いの中にあって、彼女の存在は、私たちの荒ぶれ、荒んだ心を慰めるものとなっていた。本来ならば誰に知られることもないはずの戦いを、自分たちの他にも知る者がいてくれるということが、嬉しかった。
 人間界を護るのが自分たちに課せられた使命だと、それはよく分かっていた。しかし実感は伴わなかった。なぜならば当事者たる私たちの他には、人間は誰一人として介在せず、ただ、妖邪と、そして鎧戦士たる私たちが在るのみだからだ。どこにも護るべき人間の姿はないのだ。
 ところが、そんな私たちの前に彼女が飛び込んできた。彼女は私たちに護るものを与えてくれたのだ。彼女を護ることが私たちにとってはすなわち人間を護ることだった。いまさらのような気もするが、改めて考えてみれば、彼女という護らねばならぬ具体的な存在があったから、私たちは戦い続けることができたのだ。他の人間が知らぬからといって、決して虚しい戦いではないのだと、彼女がそう実感させてくれたから。
 そして共に過ごす日々の中で、日増しに私の中の彼女の存在が大きくなっていった。
 微笑みかけられると妙に胸がときめいた。彼女の微笑(わら)い顔を見ているのが何よりも嬉しかった。彼女を、彼女の微笑みを護りたいと思う。以前は、護らねばならぬ存在だった。だが今は、護りたいと思う。彼女を傷つけようとする全てのものから。
 その自分の想いに気付いた時、自分の彼女に対する想いが何なのか、理解した。
 私は、彼女に惚れている、恋をしているのだと。
 彼女は私よりも年上で、あの家で共に過ごしている間は、彼女は私たちの保護者のようなものだった。彼女の私に対する感情は── 他の者も同様だろうが── おそらく弟のようなものでしかないだろうと思う。他の四人にとって、彼女が姉に等しい存在であるのと同じように。私も最初の頃はそうだったと思う。だが今は違う。彼女に対する自分の想いを自覚してしまった今、彼女を姉とは思えない。想いを隠し、これまでと同じように振舞うことは決してできないことではない。しかしこの想いは変えられない。
 私の想いを告げることは、あるいは彼女には迷惑なことかもしれない。しかし、何も私の想いを押し付けようなどというのではない。私にはそんな資格はない。ただ、彼女に私の正直な気持ちを知ってほしいのだ。彼女が私の気持ちを受け入れてくれれば、もちろんそれにこしたことはないが、たぶんそれは無理であろうことは分かっている。彼女から見れば私はまだ子供だから。そして何よりも、彼女の想いが、今はもういない男の上にあることも知っている。それら全てを承知した上で、私は彼女に己が想いを告げたいと思う。結果がどう出ようとも。少なくとも、彼女は私の想いを笑いはしないだろう。きっと正面から受け止め、答えをくれるであろうから。



「ナスティ。ナスティは私たちのことを大切な弟だと、さっきそう言っていたが、それ以外の目で私を見て欲しいというのは、無理な話だろうか……」

──




【INDEX】