恋 死




 ── 一輝は不死鳥(フェニックス)
 はばたいてね……。



 瞬、おまえは今頃どうしている?
 いつも俺の後ろにいた俺の弟。いつも俺が護ってきた。必ず聖衣(クロス)を持ち帰ると俺に誓ったおまえ。そしてまた一緒に暮らそうと約束を交わし──
 だが、この島同様地獄といわれるあの島(アンドロメダ島)で、おまえが生き延びて聖衣を手にすることができるとは思えない。おそらく、もう生きてはいないだろう。



 彼女(エスメラルダ)が死んだ。
 俺の腕の中、苦しい息の下、それでも微笑みながら。
 冷たくなっていく彼女の躰を抱き締めながら、俺は失くしたものの大きさを知った。
 彼女は、瞬、おまえと別れてから俺が得た唯一のものだった。この島での、俺のたった一つの安らぎだった。
 初めは、お前に似た面影に魅かれ、そしていつしか、彼女の俺に向けてくれる優しさに愛しさを感じ……。
 愛していた、護りたかった、ずっと。聖衣さえ、いつしか彼女のために欲するようになった。
 そしてとうとう聖衣を手にしたというのに、護りたいと思った彼女はもう、いないのだ。



 愛する娘一人護ることができずに、何の力か? 何が女神(アテナ)聖闘士(セイント)か!? 何のための(クロス)だ!?
 なぜ、彼女が死ななければならない? 彼女が一体何をしたというのだ!?
 俺と出逢わなければ、彼女が死ぬことはなかったのだろうか。俺がここに来さえしなければ──
 俺は憎む、俺をここに連れてきたものを。俺と彼女とを出逢わせたものを、俺から彼女を奪い去ったものを。そして何よりも、彼女を護ることのできなかったこの俺自身を──



 瞬、もしおまえが無事に生き延びていて、再び会うことがあったとしても、俺はもうおえの知っている(一輝)ではない。お前の兄は死んだのだ、彼女が死んだ時に共に──
 もそもう俺のことを兄とは思うなら、俺もおまえのことを弟とは思わない。もはや兄でもなければ弟でもない。なぜなら、おまえもまた、俺から彼女を奪ったものの一つなのだから。



 彼女を失って、俺に残されたものは何一つない。もう俺には失うものなど何もないのだ。ただ、憎しみだけが心の中を渦巻いている。
 彼女が逝って残ったものは、聖闘士という名の幽鬼。憎しみの心と力と── それだけだ。
 ならば俺は愛する娘の命と引き換えに得たその憎しみ(クロス)をもって、修羅となって復讐してやろう、俺から彼女を奪った総てのものに、俺と彼女を引き合わせた運命とやらいう奴に。
 何もかも、地獄に堕ちるがいい。この身もろともに地獄に堕ちよ! 総て破壊し尽くしてやろう、この俺の、不死鳥の炎で──



 ── 得たものは力、
 失くしたものは、
 俺の愛した花一輪……─────

── das Ende




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