『忘れるな、オスカー。おまえは俺のものだ。
たとえこの先何があろうと、おまえの全ては、永遠に俺のものだ』
行為の度に繰り返される言葉。
何かの呪文のように、その言葉がオスカーを絡め取っていく── 。
◇ ◇ ◇
アリオスはオスカーをうつ伏せにし、腰だけを高く掲げさせて後ろからその秘孔を貫いていた。
オスカーには既にその自分の取らされている姿勢に羞恥を感じる余裕はなく、唇から零れるのは熱い吐息と、明らかに嬌声と知れる切れ切れの喘ぎ声だけだ。
ふいに、何を思ったのかアリオスは突き上げていた動きを止めて、楔をオスカーの中から抜き出した。
「あっ……」
突然の喪失感に、オスカーは振り返り、『どうして?』と、切なそうな瞳でアリオスを見上げた。
「やっぱり、顔を見ていたいからな」
そう言ってアリオスはオスカーを仰向けにすると、思い切りその両足を限界まで開き、腰を持ち上げる。そうして男を欲しがってひくつくそこを認めて、アリオスは口元に笑みを浮かべた。
熱く欲望に滾る楔をオスカーの秘孔に宛がうと、躊躇うことなく一息に刺し貫く。
「ああっ……」
背を仰け反らせながら苦もなく男を受け入れたオスカーの口から漏れるのは、苦痛を示すものなどではなく、むしろ漸く欲していたものを与えられたことに安堵するかのような充足の溜息だ。
男を離すまいと、そしてより奥へと引き込もうと、腰を揺らめかせる。
そんなオスカーを見ながら、アリオスはオスカーの耳にそっと囁く。
「いいか、オスカー、おまえは俺のものだ、分かってるな? おまえの中に他の人間を棲まわせることは許さない。おまえは俺だけのものだ」
いつからか、行為の度に繰り返されるようになった言葉。オスカーの内に染み込ませるように、アリオスは何度も何度も繰り返す。
「……い……」
「なんだ?」
オスカーの唇が動いて、何かを綴る。けれどはっきりとそれを聞き取ることはできなくて、アリオスはオスカーの口元に耳を寄せた。
「ずる、い……。おまえには、エリスがいる、のに……、俺だけ……」
アリオスは眉を顰め、オスカーの顔を見下ろした。
生理的なものなのか、それとも本当に泣いているのか、アリオスを見上げるオスカーの眦には涙が浮かんでいる。
それを優しく掬い取り、それから汗に濡れた前髪を払ってやると現れた額に唇を落とす。
「過去は否定しない。けど、今はおまえだけだから」
そうして一旦止めていた動きを再開する。強く、弱く、ぎりぎりまで引き抜き、また挿入して、時折オスカーの腰を動かすタイミングを外しながら、より深くオスカーの中を味わおうと突き上げ続ける。
「んあっ、ああっ……」
高く掲げられたオスカーの脚が、男の激しい動きに跳ねるように揺れ動く。
「ア、アリ、オス、もうっ、……あぁ── っ……」
オスカーの限界が近いと見て取ると、アリオスはオスカーの唇を塞ぎ、その唇から漏れる嬌声すらも呑みこもうとするかのように荒々しく貪る。
「……んっ……」
息苦しさに唇を離そうとしても、アリオスはそれを許さなかった。むしろその激しさは増すばかりだ。 やがて限界だったのだろう、アリオスに押さえ込まれる中、オスカーは躰を小さく痙攣させるようにして、アリオスと自分の腹の間に己の欲を放った。
そして一際締め付けがきつくなった中、アリオスはさらに強く奥まで腰を突き上げると、オスカーの中に己の欲望の全てを注ぎ込んだ。
それから漸く唇を離してやると、オスカーは少し咳き込み、息を喘がせた。 そんなオスカーの額に、眦に、頬に、口付けを落としながら、オスカーの体内に己を挿れたまま、アリオスはオスカーに躰を預けるように、その上に躰を倒した。
「……あぁ……」
それだけの動きにも、敏感になっている内部は反応してオスカーに声を上げさせる。
アリオスの背を優しく撫で擦りながらオスカーは思う。 なんと浅ましく淫らがましい躰か、と。
女のように脚を大きく開き、男を受け入れて悦んでいる。 終わりにしようと思うのに、なのに、触れられるとダメなのだ。男を欲して、躰が疼いてやまない。 男を覚えこまされ、慣らされ、そして内から作り変えられた。躰は紛れもなく男なのに、そこだけ、アリオスを受け入れるそこだけは、女、なのだ。
昼間は違う。だが夜、アリオスと二人でいる時、自分は女になる。アリオスだけの女に。
いつかは終わりがくる関係だと分かっている。いつまでも続けられるものではない。おそらくこの旅の終わりが、二人の関係が終わる時だ。
その時がきたら、自分はどうするのだろう、どうなるのだろうと思う。
こんなのは自分ではないと、強さを司る炎の守護聖たる自分ではないと思うが、それでも男を失うことを恐れている自分がいることを、オスカーは自覚していた。
そしてその一方で、行為の度に繰り返されるアリオスの言葉に疑問を覚える。
なぜ、どうして── と。
いつか終わりがくることをアリオスも知っているから、なのだろうか。 だから、たとえ離れることになってもおまえは俺のものだと、自分たちの関係は躰だけのものではないと言い聞かせるかのように、そう繰り返しているのか。
どんな意図の元にアリオスが言っているのか確かめられずにいるのだけれど、そうであればいいのに、と思う。
だが、心の内のどこかで、軍人たる本能が警告を発している。
やめろ、騙されるなと。そして、油断するなと。
◇ ◇ ◇
白銀の環の惑星── 。
アンジェリークの壊れたロッドを直すために、エリシアという名の宝石を求めて訪れた自然洞窟で、アリオスは行方を絶った。
当初は先に戻っているのではないかとも思われたが、その様子もなく、その行方は分からなかった。
そしてその夜、衝撃が走る。
南の集落に宿泊させてもらっていた一行は、突然襲った地震に表に飛び出した。
そんな彼らの瞳に映ったのは、虚空に浮かぶ黒い人影── 。
「……あなたは一体……?」
その影から受けるのは、圧倒的な存在感と、力。
「我は皇帝。この宇宙を統べる、絶対の存在」
雲が流れて、隠れていた月がその姿を現した。
月明かりの下、それまではっきりとは確認できなかった皇帝の顔が曝される。
黒い髪、金と翠の、左右異なる色の瞳。だがその顔は皆のよく見知った顔だった。
昼間まで共に行動していた旅の同行者、それは紛れもなく、アリオスだった。
アリオスが、敵の首魁たる皇帝レヴィアス── その驚愕の事実に、言葉が出ない。
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