Le présent du 17-année-vieux anniversaire 【2】




 警察をまいて無事に家に辿り着いた快斗は、母親に分からないように自分の部屋に戻った。
 正直、ショックだった。
 父親が怪盗KIDだったこと。そして何よりも、その死が事故死ではなく、殺されたものだということが。
 だが、今は改めて知った事実と、身体的な多少の疲れに、今夜はもう何も考えずに寝ようと思った。考えるのは、明日でいいと。
 だから気付かなかった。日本に帰国して以来、毎年届いていた工藤優作からの誕生日プレゼントが届いていなかったことに。それに気付いたのは、翌朝、母親に言われた時だった。
「そう言えば、今年は優作さんからいつもの届かなかったわね。ってことは、今夜は快斗の分の夕食も作らなきゃならないってことね」と。
 これまでずっと、誕生日プレゼントとして当日に歳の数だけの赤い薔薇の花束と、夕食の招待があった。それが今年はない。
 快斗は直感で、これは父親が最後に残したあの仕掛けに、父親のもう一つの顔である怪盗KIDに何か関係があるのか、と思った。確信は何一つ無かったが。



 翌週の金曜日、工藤優作から例年と同じく花束が贈られてきた、遅れてはいたけれど。
 しかし、花束の入った箱を開けて快斗は目を見開いた。
 歳の数、16本の赤い薔薇の中に、1本だけ、真白い薔薇──
 思わせぶりなその白い薔薇に快斗は思う。工藤優作は、怪盗KIDを知っているのではないか。快斗の父親がKIDだったことを、そして、17の誕生日に自分がKIDとして復活したことを。
 土曜日の夕食の招待があることから、そこで全てを明らかにできるのだろうかと思う。知るのが恐ろしいと感じる部分もあるが、招待を受けないわけにはいかない。招待を断るという判断を、快斗は無意識のうちに排除していた。
 そして土曜の夜、毎年利用しているフランチレストラン“Les quatre saisons”へと向かった。
 レストランに着くと、招待主の工藤優作は既にきているとのことだった。そしてこれまた例年と異なり、個室へと案内される。
「やあ、よく来てくれたね。とにかく座りなさい。
 ああ、君」
 優作は快斗に椅子を勧めた後、ボーイに声を掛けた。
「暫く誰にも邪魔されずに話したいことがあってね、食事は30分程してから持ってきてくれ。メニューはお勧めで、シェフに任せるよ。だが話をはじめる前に、そうだね、食前酒代わりに何か持って来てくれ。私は赤をボトルで、銘柄は任せるよ。快斗君は未成年だし、オレンジジュースでいいかな?」
「はい」
 勝手に進められる内容に、しかし快斗は反論することなく頷く。
 ボーイが出ていくと、個室の中は静かになった。優作も快斗も一言も口をきかない。少ししてボーイが赤ワインとジュースを置いて出ていくと、とりあえず、誕生日を祝って、と優作に言われるままに、グラスを合わせた。
「今年は遅くなってしまって悪かったね。確かめたいことと纏めるものがあったものだから、つい遅くなってしまったよ。実は君に渡したいものがあってね」
 言いながら、優作は空いている席の一つに置いてあった紙袋を手にし、それを快斗へと差し出した。
 一体何だ、と訝しみながら、そのまま快斗は袋を受け取る。
「どうしたね? 開けてごらん。おそらく今の君が一番欲しいものが入っているはずだよ」
 例年にもまして優作のペースで進められ、快斗はそれに従うしかない。
 受け取った袋の中に入っていたものを取り出すと、それは数冊のファイルだった。ファイルの名前は『Secret No.1412』。
“1412”とは、ICPOが怪盗KIDに付けたといわれるNo.だ。
「こ、これは……?」
「怪盗1412が現れた時からの新聞や雑誌の切り抜きや、私が独自に集めた資料だよ」
「それを、なぜ故今俺に?」
「KIDというのは、実は私が付けた名でね。私と彼は共犯者だったんだよ。いや、協力者だった、といった方が正しいのかな。彼はとある目的のためにたった一つの宝石を探していた。そして同じその宝石を探しているヨーロッパを中心に活動している国際犯罪組織があってね。その組織から彼を護るためにも、早く宝石を見つけ出すためにも、と協力者になったのだよ」
「……じゃあ、その組織が父を殺したんですね……?」
 疑問形でありながら、確信したように快斗は優作に応えた。
「そうだよ。そして私は君が17になるまで黙って見守っていて欲しいと、盗一に頼まれた。もっとも、盗一が殺されてからの数年、君たち母子(おやこ)はアメリカに渡り、私とはまた別の関係者に保護されていて、私が手を出すまでのことは無かったが、君たちが日本に帰国してからは、逆に私の方がアメリカへ行ってしまったものの、知り合いをとおして見守ってきたつもりだ」
 喉を潤すためか、優作はワインに口をつけた。
「盗一を護り、なんとかしてその目的を果たさせてやりたかった。盗一がフランス人の血を引いているのは?」
「知っています。父の祖母がフランス人だったと」
「盗一が探していた宝石は、そもそもその実家にあって、盗まれてしまったものなんだよ。そして決して表に、いや、表に出なくても、誰かの手に渡ってはいけないものなんだ。ましてや犯罪組織などには。
 その宝石は、別名を“パンドラ”といってね、ある条件が揃った時にそれを使うと、その人間に不老不死を与えるといわれているものなんだよ」
「不老不死!?」
「それが本当かどうかは正直私には分からないがね」
「……その宝石は今、どこに……?」
「分からない。ただ、確かめ方はあるそうだ。月に翳すと中が赤く光ると。つまり、インクルージョンだね」
「月に翳すと、ということは、他の方法では確かめられないんですか? もともと父の祖母の家にあったというのなら、もっと詳しい情報がありそうですが」
 優作は力なく首を横に振った。
「今告げたことが、死んだ盗一も含めて知っていることの全てだ。最後のファイルに、既に確認済みのものと、可能性のある宝石のリストが載っている。参考程度にしかならないかもしれないがね。
 君が17になり、KIDを継いだと分かった以上、これからは私もできる限りの援助を惜しまないつもりだ」
「いえ、このファイルをいただいただけで結構です。あとは俺一人でやります。寺井ちゃんの手は借りることになるかと思いますけど」
「やはりそうくるか。見当は付いていたが、やはり、直にそう言われるとちょっとばかり寂しいものがあるね」
「すみません。でも、感謝します、話してくれたこと」
「けれど何かあった時にはいつでも相談にのるから、遠慮なく連絡してくれたまえ」
「はい、ありがとうございます」
 快斗がそう言って下げた頭を上げた時、個室のドアが軽くノックされた。
「そろそろよろしいですか?」
 先程のボーイだった。腕時計で時間を確かめれば、確かに30分程過ぎていた。まだそんなに経ってはいないと思っていたのに、話に夢中になっている間に時間はあっという間に過ぎてしまったようだ。
「ああ、丁度終わったところだ。頼むよ。ところで、今日のメインは何になるのかな?」
「子羊のいいのが入ったとシェフがいっていたので、おそらくそれがメインになるんじゃないですか?」
「では頼むよ」
「はい」
 完全に思考モードに入ってしまった快斗に優作が声を掛ける。
「快斗君、色々と考えることはあるだろうが、今は私との夕食に専念してほしいね」
「あ! は、はい」
 そうして今年もまた例年よりは遅れてはいたが、優作と快斗と二人での夕食の時が始まった。

── Fine




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