17歳の誕生日、その日はあいにくと平日のため、快斗はいつものように学校にいき、これまたいつものように幼馴染の中森青子をからかって遊んでいた。
しかしその青子が、「自分のマジックに勝てる奴はいない」と言った快斗に、
「いくら快斗でもね── 、怪盗KIDには勝てないわ!!」
と叫んだ。
「おもしれー、そいつと勝負してやろうじゃん!! そんなヤツは俺がとっ捕まえてやるぜ!!」
そう叫び返すと、快斗は「早退しまーす」と告げてポン! と派手な音を立てて教室から姿を消した。
帰宅した快斗がまずしたことは、青子の言っていた怪盗KIDについての情報を集めることだった。
8年振りの復活ということに、父親の死んだ年と同じじゃないかと思う。
── 怪盗KIDには勝てないわ!!
青子の言った言葉を思い出し、快斗は部屋の中に飾ってある父親のパネルの前に立った。
「俺の勝てない手品師は……世界で唯一人…………。黒羽盗一……俺の親父だけ……」
生前の父親の在りし日の姿を思い出す。
「親父……」
そこに映っている父親に、パネルに触れた途端にそのパネルが動き、その動きに引かれるようにして快斗はパネルの裏にあった隠し部屋へとその足を踏み入れた。
それと同時に再生がはじまった父親の声が吹きこまれたテープ。しかし年月の流れの中に、それは殆ど役に立たぬものとなり果てていた。
そのテープを目にしていた時、快斗の後ろからドサッと何かが落ちる音がした。
そちらに目をやり近づいて見直すと、それはほんの少し前まで情報を集めていた怪盗KIDの装束と同じもの── 白いスーツとシルクハットにマント、その他── だった。
奴── 復活した怪盗KID── に会えば父親のことが何か分かるかもしれない、その思いに、快斗は白の装束一式を身に着けた。
深夜、快斗は父の遺した白の装束に身を包んだまま、復活した怪盗KIDが予告した先のビルの屋上に一人佇んでいた。自分の読みが当たっていれば、KIDはここにやってくると確信して。
暫し経つと階下が騒がしくなった。お目当ての人物が現れたらしい。屋上の端に寄って、その人物が登ってくるであろう時を待つ。長いような短いような時間を。
やがて下から手が伸ばされ、復活した怪盗KIDがその姿を見せた。
互いに向き合い、KIDはマジックを使って姿を消して快斗に向かってきたが、快斗は「初歩のマジック」と笑ってその種を見破った。
そんな快斗に、マジックを見破られ姿を見られたKIDは、しかし快斗に向かって彼のマントを握りしめて縋って来た。
「とっ、盗一さま!! いっ、生きておられたのですね!? お懐かしゅうございます!」
反応の無い快斗に、KIDはさらに言い募る。
「貴方さまの付き人だった寺井でございますよ! たった8年でお忘れか!?」
そこで漸く、快斗は目の前の人物が父親の付き人だった寺井だったと思いだす。
「8年前のあのショーで殺されたとばかり思っておりました……。私はこの8年間、悔しくて悔しくて…………。
だから盗一さまの仮の姿である怪盗KIDになりすまして、盗一さまを殺した奴等をおびき出そうと……」
眦に涙を浮かべながら切々と語る寺井の『殺された』という言葉に反応した快斗は、寺井の肩を強く掴んで問いただした。
「なんだとぉ、親父は殺されたのか!? 誰だ! 誰に殺されたんだ!?」
そこでやっと、KID、否、寺井は相手が盗一ではなく、その息子の快斗であると気が付いた。
「もう一つ聞く……。正直に答えてくれ、寺井ちゃん。
泥棒だったのか? 親父は……怪盗KIDだったのか…………?」
シルクハットをギュッと握り締め、寺井は意を決したように唯一言、答えた。
「はい……」
「そうか……」
寺井は力なく項垂れた。
「盗一さま……、寺井、一生の不覚でございます……。坊ちゃまに言ってはならないことを……」
「見つけたぞ、怪盗KID!!」
「しまった」
やっと屋上へ辿り着いた中森警部をはじめとする警官隊に、快斗は寺井に先に逃げるように促す。
「でも、坊ちゃま!?」
「俺はもう坊ちゃまじゃない!! 怪盗KIDだ!!」
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