おまえは戦う相手に、最初に降伏を、戦いを放棄するようにと告げていたそうだが、愚かなことだ。戦闘を開始し、その中で相手が不利に、敗れるのが明らかとなった段階で告げるならそれもありだろう。しかし、戦う前からどうしてどうしてそんなことができる。おまえが敵対していた相手には、守りたいもの、守るべきものがあり、だからブリタニアと戦っていたというのに。そうしておまえが考える範囲内で言うなら、俺がおまえにしたように、大切な存在たるユーフェミアを奪ったように、おまえはその行動で、己自信が彼らの、あるいは彼らが互いに大切に思っている相手から、俺以上に大切な存在を奪い続けているというのに、その自覚は無いのか。ルールに従っての行動だから問題は無いとでも思っているのか。ならばそれは人の感情というものを無視したものだ。時と場所、上に立つ者によって変わるルールの方が何よりも大切だと、少なくともおまえはそう考えていると受け取ることもできる。おまえ自身はそんなことはないと否定するかもしれないが。
おまえはルールが大切だと繰り返して告げている。ルールを守らなければならないと。だがおまえが言うルールはブリタニアのもので、他国がそれに従う義務は全くない。他国には他国のルールが、事情があるのだから。ましてやブリタニアに敗ければ待っているのは完全な差別と搾取にすぎないというのに、それが分かっていてどうして戦いを放棄することなどできるというのか。確かにブリタニアは強い。勝てる可能性は低いのは彼らとて分かっているだろう。だがそれでも、ブリタニアに征服された後のことを考えれば、たとえ可能性がゼロに近いと思っていたとしても、抵抗するのは至極当然のことだ。一体誰が望んで、黙って差別と搾取を受け入れたりなどするものか。
スザク、おまえはユーフェミアを崇拝していたと言っていいものだったのだろう。また、自覚の有無はともかく恋愛感情に近いものもあったのかもしれないとも思う。ユーフェミアは国是に反した理想主義者だった。だが同時に、皇女としての権力、権威を無意識に当然のものとして行使していた。それにより傷つく者がいることもあるなどと考えることなく。ユーフェミアは己の考えが正しいと思い込むと、深く考えることなく、それに振り回される── そんな意識もなかっただろうが── 周囲の者のことに思いを致すことなく、実行に移す。ただしそれは口にする、それだけだが。皇女という立場であれば、口にすれば、たとえそれがどんな内容であれ、周囲はそれに従わなければならないのだから。おまえを騎士に任命した時もそうだったが、何よりもユーフェミアは俺たち兄妹をも巻き込んで、しかも最悪の場所── アッシュフォード学園の学園祭── で口にした。取材に入っていたマスコミを通じて全国生中継で。そう、“行政特区日本”を。しかも俺がゼロだということを知っていたユーフェミアは、ゼロに参加と協力を要請した。ただ理想を唱えるだけで、その策が実行に移された場合のリスク、デメリットを何一つ考えることなく。それまでのことから、口にすれば、全て自分の理想のままにそれが形になると信じ、逆にそれによって不幸になる者がいることなど考えもせずに。そしてスザク、おまえもまた、ユーフェミアの理想をそのままなんら疑うことなく盲信し、失敗の可能性すら考えなかった。俺たち兄妹の立場も何一つ考えてくれなかった。少しでも考えてくれていたなら、俺たち兄妹に特区への参加を促すことなどできないことは簡単に分かったはずのことなのだから。結果、ゼロとしての俺と黒の騎士団は、もとより参加などできようはずもなく、特区政策を潰すべく動き、想定外の経過により、俺はユーフェミアに意図せぬギアスをかけてしまい、それによって多くの日本人が殺され、俺はその犠牲を無駄にすることなどできず、ユーフェミアを撃ち、彼女が死に至るきっかけをつくった。
おまえは俺をユーフェミアの仇と言い、俺を追い、そして俺を否定した。俺は世界のノイズ、存在自体が間違っていると。そうして俺を捕え、皇帝シャルルに己の出世と引き換えに俺を売った。俺がシャルルに対してどんな思いを抱いているか知っていながら。そして普通に考えれば、おまえの復讐はそれで終わりのはずだった。だが違った。おまえはどこまでもおれを憎い仇として付け狙い続けた。本来なら関係のないアッシュフォード学園の者たちまで巻き込んで。おまえにとって復讐とは、“目には目を、歯には歯を”ではなく、“目には目と歯を”、いや、それどころか“目には目と歯と耳を”とでも言ったところか。俺がCの世界でシャルルたちが為そうとしていた“ラグナレクの接続”を阻み、更にはそのためにシャルルたちを消滅させた後も尚、「ユフィの仇」と剣を向けてきたのだから。だったら、何故最初の時に俺を殺さなかった。つまりおまえは、おまえの独善による日本奪還のために俺を売り、そして俺がシャルルを殺したことで、それまでもずっとそうではあったが、改めて俺を殺そうと剣を向けてきた。つまり、最初は俺を利用し、そしてその後改めて殺そうとこの命を狙ったということだ。自分が── 俺以外の者たちに対して── それまでにしてきたことなど何一つ考えもせずに。
だがシャルルを弑しても、シュナイゼルがいる。ニーナが生み出した大量殺戮兵器“フレイヤ”を持った状態で。だから俺たちは契約した。シュナイゼルを倒し、フレイヤを無力化させ、そしてユーフェミアやナナリーの望んだ“優しい世界”を残すために、俺の汚名と命を引き換えに。
代償が俺の汚名と命だったとしても、それでも、感謝しているよ。そう、俺の初めての友人たる幼馴染の親友であり、おまえがいなかったら、俺たち兄妹は日本に人質として送り込まれて以降、戦後別れるまで、無事に生き延びることなどできなかっただろうから。そしてシュナイゼルを打ち取り、フレイヤを無効化させることも無理だっただろう。だから、たとえどんな思惑のもとであれ、契約を交わして、最後は俺に、俺の立てた計画“ゼロ・レクイエム”に協力してくれたことを感謝しているよ。
そして最後に、C.C.。コード保持者にして不老不死の魔女。
もっとも、“魔女”とはC.C.自ら自分をさして口にしていた言葉だが。とはいえ、中世の頃は、教会などからは実際に“魔女”として追われたこともあったのだろう。
死ぬために、コードを他者に押し付けるために、ギアスという力を人々に与えていた。しかしその中に彼女の持つコードを引き継げるだけの能力を持った者は現れなかった。ゆえに、彼女はコードを手放すことができず、永い時を生きてきた。そんな中で感情の一部を失いもしたのではないかと思う。彼女の言動から察しただけで、本当にそうなのかどうかは分からないが。
C.C.、おまえがいなければ今の俺はなかった。おまえがいたから、そして俺にギアス── 絶対遵守── という力を与えてくれたから、俺は死を逃れることができた。そして最後には、両親たちの歪んだ望みを絶つこともできた。
おまえは俺に「自分を恨んでいるか?」と何度か口にしたが、決してそんなことはない。おまえがいたから俺は今日まで生きてこれた。ナナリーが、そして今は亡きユーフェミアが望んだ“優しい世界”の礎となることができる。全てはおまえのお蔭だ。おまえのことを恨むなど有り得ない。感謝している。
そしてまた、申し訳ないと思ってもいる。おまえの望みを知りながら、そしてそれを叶えてやれる立場にいながら、俺はおまえが契約として持ちかけてきた内容── おまえの本心からの望み、人としての死を知ったのは両親と対した時と言えたが── を叶えてやることができずに逝くことを本当に申し訳ないと。許してくれ。だが、何時の日にか、必ずやおまえがコードを手放して普通の人間としての生と死を得ることができる日が訪れることを心から願っている。
それ以外にも、これまでの短いといっていい人生、どれだけの人の協力があって俺は生き延びてこれたことだろう。俺たち兄妹が生き延びるために助力してくれた人たちに感謝を。そして反対の声もあったが、また、それぞれに思うところがあっただろうが、それでも無謀と言えなくもない計画を実行に移すことに協力してくれた者たちに感謝を。ましてやその計画のために汚名を受けることをも覚悟してくれた者たちに感謝を。彼らの今後の人生が、少しでも生きやすいものであることを願ってやまない。そしてこれからの生の幸を願う。
そしてロロ。
血の繋がりのない偽りの弟。最初は俺の監視者として、そして俺の記憶が戻ったら俺を殺すための暗殺者として俺につけられたおまえ。記憶を取り戻した当初は、ナナリーがいるべき場所を奪ったおまえが憎かった。ボロ雑巾のようにこき使って、そして殺してやるつもりだった。けれど、そんな俺をおまえは命懸けで救ってくれた。今ではたとえ血の繋がりはなくても、俺にとってはたった一人の真実の弟だと思っている。こんなに早くおまえの処へ逝ったら、そんな風に死なせるために守ったんじゃない、自分の命を懸けたんじゃない、と怒られるだろうか。それとも泣かれるか。それでもロロ、これでおまえの元へ行くことができる。おまえと一緒に過ごすことができる。今度こそ本当の兄弟として、共に過ごそう。それが今の俺の唯一の楽しみだ。
パレードの先に、ゼロに扮した死んだことになっているスザクが姿を現した。もう少しで計画は終了する、俺の死をもって。そう、もうすぐ俺の命は尽きる。だから最後に……。
ありがとう、そして、さようなら───── 。
── The End
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