エリア11最大といっても過言ではないであろう学校、私立アッシュフォード学園は、その日、最大の行事である学園祭を行っていた。他の学校に比べて開放的なところがあり、日本人も数多く来校している。
時間のある時に来校して補修、またテストを受けることで通信教育での受講を特例として認められたスザクは、その日、ユーフェミアから休暇を貰い、久し振りに学園を訪れていた。まさかそのユーフェミアも── もちろんSPは付いていたが── 学園を訪れているとは知らずに。
久し振りにルルーシュやナナリーに会って、と考えていたスザクだったが、ミレイに捕まり、かつてアッシュフォードが開発していた第3世代KMFガニメデでの巨大ピザ作成のための要員とされてしまった。
その頃、ユーフェミアは校内を歩いている時に、偶然異母妹であるナナリーと出会い、クラブハウス内で暫し語らいの時を持った。
「黙っていてくれますか、お兄さまと私のこと」
「でもこのままじゃ……」
「私、お兄さまと一緒ならそれだけで」
その後、暫し昔話に花を咲かせた後、ナナリーはユーフェミアに車椅子を押されて、ルルーシュが詰めている学園祭の本部を訪れた。
「お兄さま」
「ナナリー、ピザは……っ!?」
帽子とサングラスで軽く変装してはいたが、ナナリーの後ろにいるのがユーフェミアであると気付いたルルーシュは、会長のミレイに、「すみません、ちょっと。何かあったら連絡します」と告げて、慌てて二人を連れて表に出た。
本校舎正面の階段の一番上に座って、三人で話の場を設けた。
アッシュフォードの所有するKMF、第3世代ガニメデで枢木スザクの操縦によってピザ生地が拡げられていく。
それを見ながら、「去年は俺の役だったんだけど、本職には敵わない」とルルーシュが愚痴るように告げた。
「今日は驚くことばかり。ルルーシュとナナリーがこんな近くにいて、しかもスザクのお友達だったなんて。
私は、皆が幸せでないと嫌なの」
「だが会うのは今日が最後だ」
「ううん、いい方法見つけたから」
暗に皇室とは、皇室関係者とはもう関係を持つつもりはないのだと否定するルルーシュに、ユーフェミアは首を横に振って答えた。
その時、不意に一瞬、強い風が吹いて、ユーフェミアの帽子を飛ばした。それによって、一部の者がユーフェミアに気付いた。
「ユーフェミア様!」
そうなれば後はなし崩しだ。
「ルルーシュ、ナナリーを」
「悪いがそうさせてもらう」
そう応じて、ルルーシュはナナリーの車椅子を押して、近くにある学園祭用の無人の仮設の建物に避難した。
ユーフェミアは大学部に間借りしている関係で訪れていた特派のメンバーや、後から合流したSPたちに守られながらも、熱狂した生徒や来校者たちにどんどん取り囲まれていった。
するとそこに救いの手のように、ピザ生地を飛ばしたスザクの乗るガニメデの腕が伸ばされて、ユーフェミアは掬いあげられるようにして助けられた。
「ご無事ですか、ユーフェミア様」
「ありがとう、スザク」
ルルーシュはその様を隠れた建物の中から見、ナナリーもまた、見えはしなかったが音や声でそれを察していた。
「大丈夫か、ナナリー」
「ええ。ユフィお異母姉さまは?」
「スザクが助けた」
「……ねえ、お兄さま。ユフィお異母姉さま、スザクさんと上手くいったんですって。お似合いですよね、お二人なら」
「ナナリー、おまえ……」
その声にはどこか淋しさと諦観があった。
自覚はしていた、あのスザクがユーフェミアの前に膝を折り、騎士の誓いを立てた時から。しかし自覚と実感は違う。実際にその様子を目で見、耳で聞いて、改めて実感させられた。スザクはもうかつての自分たちの知るスザクではないのだと。
ガニメデの手の上、良かった、無事で── 建物の内側に隠れているルルーシュとナナリーを見て、ユーフェミアは一安心した。
「Hi-TVです、一言コメントを」
学園祭の取材のために来ていたTV局のクルーが、時ならぬ副総督の出現にコメントを取ろうと、リポーターがマイクを向けながらユーフェミアに食い下がる。
「この映像をエリア全域に繋いでいただけますか? 大切な発表があります」
シュナイゼルお異母兄さまの許可は得ているもの、素晴らしい案だって言っていただけたもの、きっと大丈夫── そう思ってユーフェミアは先日から考えていた構想を、今この機会を使って発表することにした。
「カメラ、スタジオに繋げろよ」
TVクルーの反応に、ユーフェミアは緊張しながら、きっといける、大丈夫、と自分に言い聞かせ、リポーターの持つマイクに声が入るように大きな声で話し始めた。
「私は神聖ブリタニア帝国エリア11副総督ユーフェミアです。
今日は私から皆様にお伝えしたいことがあります。
私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、フジサン周辺に“行政特区日本”を設立することを宣言致します。
この特区では、イレブンは日本人という名前を取り戻すことになります。イレブンへの規制、並びにブリタニア人の特権はこの特区日本の中には存在しません。ブリタニア人にもイレブンにも平等な世界なのです」
── 止めろ、ユフィ! そのケースは考えた。しかしそれは唯の夢物語だ。
隠れてユーフェミアの発表を聞きながら、ルルーシュは思う。
「聞こえていますか、ゼロ! あなたの過去もその仮面の下も私は問いません。ですからあなたも“行政特区日本”に参加してください。ゼロ、私と一緒にブリタニアの中に新しい未来を創りましょう!」
ユーフェミアを取り囲み、熱狂する大勢の人々。しかしそんな者たちばかりではない。一歩離れたところからは、冷めた視線が送られていた。
「日本人なんて、いまさら」
「イレブンが恋人だから」
そんなふうに、純血派、あるいはそこまではいかなくとも、イレブンを快く思ってない者たちは冷やかにユーフェミアとその周囲の人間たちを見ていたが、ユーフェミアにはそんなことは分かってはいない。彼女に見えるのは、スザクと、今、自分を取り囲み熱狂している人々だけだ。
そしてルルーシュは、憎しみと怒りと、そして屈辱とに躰を震わせていた。
── やられた!
そうやって君は何もかも手に入れる。俺たちの居場所すらも纏めて。ならば君は何も視えていない、聞こえていない。違うんだ、もう昔とは。ユーフェミア!!
ルルーシュの震える手に、ナナリーが案じるかのように手を添えた。
そしてルルーシュの思いとは裏腹に、ユーフェミアは、また昔みたいに、と夢を見る。
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