続・思 慕 【2】




 相談の結果、まずはジェレミアがエリア11のアッシュフォード学園を訪れ、ミレイたちにかけられているギアスを解いてニーナと接触し、アンチ・フレイヤ・システムの構築を依頼することにした。
 その間にルルーシュはブリタニアの宮殿に潜入するための手順を整え、ニーナを確保の後、ブリタニアに渡ることにした。
 そしてまた、天子は神楽耶に、中華は超合集国連合を抜けること、黒の騎士団に出向させている兵士たちを引き上げることを連絡した。
 突然のことに神楽耶は動揺し思い留まるように伝えたが、天子は優しいゼロ様を一方的に詰めるあなたたちを信用することはできませんと、意見を翻すことはなかった。それにブリタニアとは休戦条約を結んだのだから、中華が加わっていようといまいと関係ないでしょうと。
 神楽耶や黒の騎士団幹部たちは、中華が連合を抜けるということにショックは受けていたが、まさかその中華にゼロことルルーシュがすでに庇護されているとは思わなかった。そして中華は確かに大国だが、その国力は疲弊しており、中華以外のEUの一部も超合集国連合に加わっているため、とりたてて心配することもあるまいと楽観視する部分もあった。それに何より、100万人が亡命した蓬莱島はそのまま貸与してもらえるというのだから、それ以上、引き留めることに消極的でもあった。
 そして気が変わったら、また連合に参加して欲しいと伝えるのみに留めた。
 世界は現在ほぼ二分されている。超合集国連合とブリタニアとに。何時までも中立のままでいることは難しく、いずれやはり連合に戻ってくるだろうという読みもそこにはあった。それが甘い考えだとは少しも考えずに。



 エリア11でニーナを確保したジェレミアは、中華の洛陽で待つルルーシュの元にニーナを連れて戻った。
 ルルーシュは、ニーナに全てを告げた。
 自分がゼロであること。そして、行政特区での事件の顛末、その全ての真実を。
 ニーナは驚き、憎しみを抱きつつも、それ以上に自分が為してしまったことに怖れを抱いていた。そのため、ルルーシュの依頼を受けてアンチ・フレイヤ・システムを構築することを引き受けた。それがエリア11で巨大なクレーターを生み出し、何の罪もない3,500万余りの死傷者と、物的被害を出してしまったことに対するせめてもの償いだと。
 その後、ルルーシュたちは密かにブリタニアに戻った。そしてシュナイゼルがまだ姿を隠したままなのを確かめると、準備を進め、大広間に皇族、貴族、文武百官を集めた。
 ギアスをかけられている近衛の先触れが伝える。
「皇帝陛下御入来!」
 そうして皆の前に姿を現したのはもちろんルルーシュである。
「私が第99代ブリタニア皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアです」
 大広間にいる者たちがざわめく。シャルルは一体どうしたというのか。
 一人の青年が前に進み出た。第1皇子オデュッセウスである。
「良かったよ、ルルーシュ、生きていたんだね」
「ええ、地獄から舞い戻って参りました」
「しかし君が皇帝などと……」
「第98代皇帝シャルル・ジ・ブリタニアは私が弑逆しました。ですから弱肉強食の国是に従って、私が次の皇帝というわけです」
「そ、そんな冗談は……」
「そうですね。では分かりやすくお話しましょう。我を認めよ」
 大広間にギアスの赤い鳥が飛ぶ。
 途端、大広間に大きな声が木霊しだす。
「「「オールハイルルルーシュ! オールハイルルルーシュ!」」」
 ブリタニアの第99代皇帝となったルルーシュは、次々とドラスティックな改革を行っていった。
 ジェレミアを騎士とし、皇族特権の廃止、貴族階級の廃止、既得権益の廃止、財閥の解体を行い、人種差別、ナンバーズ制度を撤廃し、そしてエリアの順次解放を唱えた。
 慌てたのは超合集国連合、否、神楽耶と黒の騎士団の日本人幹部である。裏切り者のゼロが、ルルーシュがブリタニアの皇帝となって現れたのだから。
 そしてブリタニアは、対外的には、合衆国中華改め、中華連邦と再び名を戻した中華とまず和平条約を締結した。
 それを知った神楽耶は慌てて天子と連絡を取った。
「天子様、ブリタニアと和平条約などと、何を考えておいでなのですか?」
「そういう神楽耶たちは、ブリタニアと休戦条約を結んだではないですか。なのに何故私達が和平条約を結ぶとそれをおかしいと言うのですか?」
「今のブリタニアの皇帝はルルーシュなのですよ! 私たちを騙し、裏切っていたルルーシュなのですよ! お考え直しください」
「知っています。ルルーシュ様がどんなに優しい方か。何を目指しているか。そして神楽耶の言う裏切り、行政特区の虐殺がどういうものだったのか、私たちはたぶんあなたたち以上に知っています。だからルルーシュ様の考えに賛同して条約を結んだのです。これは私たち中華とブリタニアの問題で、日本人である神楽耶からどうこう言われることではないと思います」
「天子様! あなたはルルーシュに騙されているんです! もう一度考え直してください!」
「あなたたちの方こそ、敵のシュナイゼル宰相に騙されているとは考えないんですか?」
「そのようなこと!」
 あるはずがないと、神楽耶は、黒の騎士団幹部は思う。だがそれはあくまで一方的なものに過ぎない。
「私たち中華は、ブリタニアと、ルルーシュ様と共に優しい世界を目指します」
「天子様!」
 神楽耶と天子との間でそのような遣り取りが行われている間、ブリタニアでは先代シャルルのラウンズたちとジェレミアが戦っていた。
 ナイト・オブ・ラウンズのワンであり、ブリタニア最強の騎士と謳われるのビスマルクには先読みのギアスがあったが、ギアス・キャンセラーであるジェレミアにそれは通じず、結果、KGFの能力もあって、ジェレミア一人の前にラウンズたちは敗れていった。
 地方貴族の反抗も阻止し、ブリタニアの地固めをしていくルルーシュにとって、懸念は未だ姿を現さないシュナイゼルだけだった。
 しかし中華連邦やEU、解放されていくエリアは、次々とルルーシュの陣営についていき、超合集国連合からも、連合を抜け、ルルーシュ率いるブリタニアと和平条約を結ぶ国が出始めていた。
 凋落していく超合集国連合に、エリアを解放しながらも繁栄を続けるブリタニアはどう映るのか、そしてそれを何処かで見ているシュナイゼルは何を考えているのか。
 とある日、ブリタニアに集まった、ブリタニアと条約を結んだ国々の首脳との間での会談でも、もちろんその話題が中心だったが、相手が動かない以上は何もできず、今はただ、アンチ・フレイヤ・システムの構築を待ちつつ相手の出方を伺うというに留まっている。
 その後のパーティーでは、中華の天子が相変わらず顔を赤に染めながらルルーシュと楽しそうに話をしている。
 現在のところ、ルルーシュにしてみれば天子は妹のようなものであり、天子にとってルルーシュは兄のように優しくて慕わしい存在でしかないだろう。
 星刻はそれでいいと思った。自分の余命は長くはない。だが中華には自分の副官の香凛をはじめとした者たちがいるし、何よりもルルーシュは天子を大切にしてくれる。
 何時か天子の思いが今の単なる思慕から恋へと変わったとしたら、ルルーシュはどうするのだろうか、天子を受け入れてくれるだろうか。そう思いながら、楽しそうに会話をしている二人を見つめていた。

── The End




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