「ゼロ様は優しいの、とても優しい方なの。それに私を助けてくれた方なの。
そんなゼロ様を一方的に悪い人だって言う扇事務総長の言葉を、私は信じられない。
お願い、星刻、香凛、ゼロ様を助けてあげて」
天子の言葉に、星刻と香凛の二人は眉を寄せながらも顔を見合わせた。
確かに天子の言う通り、扇たちの一方的な言葉の全てを信じることはできない。しかしだからといって、無条件にゼロを信用、信頼することもできない。
「お願い、星刻、香凛」
重ねて告げる天子の言葉に、星刻は頷いた。
「分かりました。とにかくゼロの行方を探し、我々で保護しましょう。このままではどのようなことになるか分かりませんから」
屈み込み、天子と視線を合わせてそう告げる星刻に、天子はパッと顔を明るくした。
立ち上がった星刻に香凛が問いかける。
「よろしいのですか、星刻様」
「問題がないとは言えない。だが扇たちの言葉だけを信用することもできない。何故なら扇たちは敵将のシュナイゼルの持ってきた資料と言葉を鵜呑みにしているだけだ。それのどこが信用できる?」
「確かに」
「とにかく、ゼロの身柄をこちらで抑える。後のことはゼロの言い分を聞いてからだ。
とりあえず私は手の者と一緒に、改めて神根島に行ってみる。そこにゼロがいるかどうかは分からないが、他に手がかりが無い以上、そこに行ってみるしかあるまい。私が留守の間、天子様を頼む」
「分かりました。お気を付けて、星刻様」
天子の耳には届かないように小さな声で遣り取りをしてから、星刻はゼロを探しに行くべく、その場を離れた。
「星刻……」
その後ろ姿を見送りながら心配そうにその名を呟く天子に、香凛が宥めるように告げた。
「大丈夫ですよ、天子様。星刻様はゼロを探しに行かれただけですから。きっとゼロを見付けて一緒に戻って来られますよ」
一足先に斑鳩を出た星刻は、僅かな共を連れて斑鳩の日本人幹部には分からぬように飛行艇で密かに神根島に向かった。
その後、斑鳩はエリア11の上空に留まると見た星刻の指示により、天子は香凛たちと共に改めて大竜胆に戻り、そのまま中華に戻った。
斑鳩の日本人幹部は、エリア11は日本に戻ったつもりでいるが、国際法上、そこはまだブリタニアの支配するエリア11であり、留まるのは問題ありと判断したためだが、星刻はそれを彼らにはあえて伝えなかった。
星刻が神根島に着いた時、すでに戦闘は集結しており、そこここにKMFの残骸があった。上空から旋回して見回した時、遺跡らしき物の付近に二人の人影を見つけた星刻は、その映像を拡大させた。
一人はC.C.であり、今一人は、仮面を外しているが、その衣装から明らかにゼロと知れた。
飛行艇を二人の傍に着けると、星刻は飛行艇から飛び出すようにして降り、二人の元に駆け寄った。
「ゼロ、か?」
間違いないと思いながらも、念のために尋ねる。
石の上に力なく腰を下ろしているルルーシュは、星刻を見上げると自嘲の笑みを浮かべた。
「わざわざ此処まで俺を殺しに来たか。ご苦労なことだな、星刻」
答えるゼロ── ルルーシュ── の声には常の力強さはなかった。
何があったのか、と問うようにC.C.を見る。
その視線に気付いたC.C.は、簡潔に此処であったことを伝えた。
ルルーシュの父、神聖ブリタニア帝国の皇帝シャルル・ジ・ブリタニアと、その死んだはずの第5皇妃マリアンヌがしようとしていたこと、それに対してルルーシュが行ったことを。
「俺はこの世界のノイズでしかなかったということだ」
顔を俯け、力なくそう呟くルルーシュに星刻は告げた。
「天子様が君を心配していらっしゃる。
君のことを優しい方だと、一方的に悪いと決めつけるのはおかしいと。だから私が来た」
その言葉にルルーシュは顔を上げた。
「……ギアスのこと、聞いているのだろう? 恐ろしくはないのか?」
「恐ろしくない、と言えば確かに嘘になるが、君がそう闇雲にその力を使っているとも思えない」
「ルルーシュがギアスを使ったのは、生き延びるため、作戦を有利に運んで上手く行かせるためにブリタニア人にかけただけだ。仲間になった者に対してはかけていない。ちなみに行政特区の時は、説明中にギアスが暴走しただけでこいつの意思じゃない。その暴走ももう起こる心配はない」
C.C.がフォローするように告げる。
「C.C.!」
「本当のことだろう。だから星刻、心配することは何もない」
星刻はC.C.の言葉にフッと笑いを浮かべ、ルルーシュに促した。
「天子様が中華で君をお待ちだ。顔を見せて、安心させてあげてくれ」
星刻とC.C.に促されるまま、ルルーシュは共に中華に向かった。
中華の朱禁城では、天子がゼロを待っていた。
途中で合流したジェレミアの乗るサザーランド・ジークと共に降り立った飛行艇に、天子は香凛が止めるのも聞かずに駆け寄っていく。
中から降りてきたルルーシュに、仮面はなくともその衣装からゼロなのだと悟った天子は、躊躇いもなく近付いた。
ゼロのことは、中華に向かう途中の飛行艇からの連絡で天子は聞かされていた。神楽耶たちが言うような裏切り者などではなく、自分が思った通り優しい方なのだと。
「ゼロ様?」
「はい」
「ゼロ様がご無事で安心致しました。ゼロ様はお優しいだけでなく、とても綺麗な方なのですね」 天子が思った事を素直に告げる。それにルルーシュはいささか顔を赤くした。
その日は、疲れているだろうとの星刻の配慮で、ルルーシュとC.C.、ジェレミアは食事と部屋を与えられ、休息を取るように促された。
翌日、改めてルルーシュはジェレミアやC.C.を含め、星刻、香凛と向かい合った。難しい話になって自分にはついていけないと思いながらも、天子もそこに同席した。
「皇帝は倒したが、まだシュナイゼルがいる。シュナイゼルはフレイヤを持っている。このままいけば待っているのはフレイヤの恐怖の下の政治だ」
「確かにその通りだな。だがフレイヤに対抗する手段があるのか?」
「今は無い。しかしフレイヤは人間が作り出したものだ。ならば何らかの対抗手段はあるはず。それにはフレイヤに一番詳しい、フレイヤを創った者に確かめるのが一番だ」
「それが誰かは分かっているのか?」
「ニーナ・アインシュタイン。エリア11のアッシュフォード学園の生徒会で一緒だった娘だ」
「フレイヤを創り出した者となれば、他の国の者も探しているだろうが、我々も探してみよう」
「おそらくまだエリア11内にいるはずだ。最初のフレイヤを放った地に。そして俺の勘が間違っていなければ、アッシュフォード学園内に隠れているとみて間違いない」
「成程。で、君はどうする?」
「……夕べ一晩考えたが、ブリタニアに行って、宮廷を掌握する。宮廷を掌握するということはブリタニアという国を掌握することだ。
シュナイゼルは黒の騎士団と密談を交わした後、行方を絶っている。何か考えがあってのことに違いない。奴が動き出す前にこちらから動く」
難しいことは分からないが、ルルーシュが動くということに天子が口を挟んだ。
「ゼロ様、いえ、ルルーシュ様、中華は連合から抜けます。そしてルルーシュ様が動きやすいように動きます」
「天子様」
「私には難しいことは分かりません。でも、一方的にゼロ様を悪者扱い、裏切り者扱いした神楽耶や黒の騎士団の様子から、留まる必要はないと思うのです。神楽耶と離れるのは寂しいけれど……」
「ありがとうございます、天子様」
微笑みを浮かべながら返すルルーシュに、天子は顔を赤らめた。
「星刻、私には何をどうすればいいのか分かりません。でもルルーシュ様の動きやすいように、そして中華のためになるように、あなたの判断で動いてください」
「分かりました、天子様」
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