戦後裁判 【1】




 フジ決戦終戦後、裁判が行われた。
 本来なら戦勝側であるブリタニアの裁判官による裁判になるはずであるが、超合集国連合やその外部組織である黒の騎士団も含まれるため、より公平をきすためにと、神聖ブリタニア帝国皇帝ルルーシュは、裁判を第三者である、超合集衆国連合に加盟していないEUに依頼した。
 EUはこの依頼を受けて、五名の裁判官を神聖ブリタニア帝国日本州に派遣し、裁判は公開の上で行われることとなった。
 裁かれるのは、超合集国連合とその外部機関である黒の騎士団、ブリタニアの反逆者である第99代皇帝を僭称したナナリー・ヴィ・ブリタニアとその後見ともいえるシュナイゼル・エル・ブリタニア陣営。
 人数の多さから、まずはA級戦犯のうち、超合集国連合及び黒の騎士団幹部たちから始められた。



「被告、皇神楽耶、前へ」
 呼ばれた神楽耶が被告席へと進む。当然というべきか、顔色は冴えない。しかしそれでも真っ直ぐ前を向いて被告席に立ったのは流石である。
「被告は超合集国連合の最高評議会議長という要職にありながら、先の第2次トウキョウ決戦において、最高評議会の他の代表、議員たちに何ら諮ることなく、ブリタニア帝国宰相と休戦条約、及び、日本返還の条約を結びました。また、ブリタニア帝国第99代皇帝ルルーシュ陛下が約束通りたった一人で赴いた超合集国連合加盟を求めてのアッシュフォード学園での臨時最高評議会において、ルルーシュ陛下を檻に軟禁し、あまつさえ悪逆皇帝と呼び、本来、評議会における発言権の全くない黒の騎士団の発言を許しました。ひいてはこれがブリタニア側による超合衆国連合の各国代表たる議員たちの拘束という事態を招き、更には、ブリタニア帝国内の皇位継承争いであるフジ決戦に黒の騎士団の参戦という事態をも招き、本来なら全く関係のない多くの騎士団員の死を招きました。
 被告は自分の所属する日本さえブリタニアから返還されればそれでよしとして、他国の議員たちに諮ることなく、休戦条約及び日本返還の条約を受け入れたのではありませんか?」
「違います。黒の騎士団CEOであるゼロを失い、また、フレイヤ弾頭で多くの死傷者を出したことから、早急に黒の騎士団の再編を行う必要があり、休戦条約を受け入れる必要を感じたためです。日本返還の件はその条約に並行して付いてきた条件であり、こちらから申し入れたわけではありません」
「それはおかしいですね。合衆国日本の代表としてのあなたにとっては、日本返還は悲願であり、何よりも重要なことだったのではありませんか?
 裁判長、ここで証拠物件1をご覧いただきたい」
「許可します」
 許可を受けた検事は、一枚のディスクを取り出し、それを用意させたスクリーンに映し出させた。それは音声の抜けた映像だけのものであったが、斑鳩の4番倉庫における黒の騎士団幹部の裏切りによるゼロ謀殺の場面であり、ゼロがその仮面を取るところまで映し出されていた。
 裁判所内が一気にざわめき出す。
 映し出されたのがゼロへの裏切り行為の場面であり、かつ、ゼロの仮面の下から現れたのが現在のブリタニア皇帝ルルーシュだったのだから当然のことだろう。
「被告はゼロが何者であるかを知り、その上で騎士団によるゼロに対する裏切り行為と併せて、それを他の議員たちに知られてはまずいと、他の議員たちに諮ることをしなかったのではありませんか?」
「ちが……」
 違うと否定しかけて、否定しきれず、神楽耶は唇を噛んだ。体の前で結ばれている両腕が震えている。
「……認め、ます。ですが! 裏切り行為に関していえば、黒の騎士団がゼロを裏切る前にゼロが黒の騎士団を、いいえ、日本人を裏切っていたのです! ユーフェミア皇女の“行政特区日本”における虐殺行為は、ゼロによってユーフェミア皇女が操られた結果であり、つまりゼロが日本人虐殺を命じたからです」
「その証拠はありますか?」
「そ、それはシュナイゼル宰相が……」
「敵国の宰相の示した証拠を信用したというわけですか。敵国が示す証拠が正しいと、あなたは信じたわけですか。有り得ないことですね。敵対している国から示された証拠を簡単に信用するなど。第一、ユーフェミア皇女による虐殺事件に関しては、当時のブリタニア帝国において、皇女の精神疾患による乱心のための行為と認められ公表されています。
 では次に、アッシュフォードでの臨時最高評議会おいてルルーシュ陛下を軟禁し、悪逆皇帝と呼び、本来発言権のない黒の騎士団幹部の発言を許したのは何故ですか? 何か後ろ暗いことがあってのことではありませんか?」
「ルルーシュ皇帝を軟禁したのは、ルルーシュ皇帝が持つといわれている人を操る能力を恐れ、それを防ぐためです。ブリタニアを掌握したのもその力あってのことと判断しました。彼を悪逆皇帝と呼んだのもそのためです。黒の騎士団の人間に発言を許したのは、今考えれば浅はかだったと思いますが、当時は彼らがシュナイゼル宰相から最初に様々な情報を得ていたため、議員たちにその情報を与えるためでした」
「それらの行為も敵国のシュナイゼル宰相によって齎された情報によるもの、ですね。更に、黒の騎士団幹部が発言した内容は、あなたが述べたようなことではなく、ルルーシュ皇帝を批難し、明らかに内政干渉としか思われないことばかりでした。とてもあなたが言うように、情報を議員たちに与えるためとは思えません」
「……」
 その言葉には俯いてしまい、神楽耶は返す言葉を持たなかった。
 実際、星刻たち黒の騎士団をスクリーン越しとはいえ引き入れたのは多少なりとも自分の力の補助とするためであり、他の議員たちに情報を与えるためとは言い切れなかったし、実際、彼らの取った言動は検察官の示した通りであったのだから。
「その後、会場に現れたルルーシュ皇帝の騎士、枢木スザク卿とそれに続くブリタニア兵により、あなたは他の議員たちと共に拘束された。そうですね?」
「そうです」
「ルルーシュ陛下が議員たちを拘束したのは、シュナイゼル・エル・ブリタニアが反逆を考えているのを察知し、そのシュナイゼルと密約を結ぶ黒の騎士団の皇位継承争いへの介入を防ぐのが目的だったというお言葉をいただいております。しかし黒の騎士団は議員たちが拘束されているのを知りながら、シュナイゼル陣営側で皇位継承争いであるフジ決戦に参入した。これはあなたがあらかじめ指示していた事ではありませんか?」
「違います! それは絶対にありません」
「本当にそうだと言い切れますか?」
 検察官が冷めた瞳で神楽耶を見つめる。
 一拍の間をおいて、検察官は裁判長に告げた。
「検察からは以上です」
「では弁護人」
 裁判長から呼ばれて弁護人が立ち上がった。
「あなたが、ゼロが裏切り者であると知らされたのは直接シュナイゼルからではなく、シュナイゼルからの言葉を聞いた黒の騎士団幹部からですね」
「そうです」
「実際に、その証拠は見ていない」
「はい、その通りです」
「裁判長、被告はゼロを失ったことに動転し、黒の騎士団幹部の言葉を鵜呑みにしてしまっただけのことと思われます。被告は超合集国連合の最高評議会議長という要職にあるとはいえ、未だ未成年であり、年長者によって構成されている黒の騎士団幹部の言葉を信じてしまったことを批難できるものではありません。ましてや、実際、ゼロは虐殺の件はともかく、ルルーシュ皇帝だった、つまり敵国のブリタニア人だったのですから、当然のことです」
「異議あり!」
「検察官」
「ゼロはブリタニア人だった。だからこそ彼は、ルルーシュ陛下は仮面を被り自分の素性を隠していたのです。それに、少なくともかつてのキョウト六家の桐原翁は、ゼロが何者かを知っていました。何故なら桐原翁の前でその仮面を外し素顔を曝しているからです。そして桐原翁は、ゼロの正体を知った上で、当時の黒の騎士団への援助を決めました。それはルルーシュ陛下の、祖国であるブリタニアへの憎しみの程を知っていたからであり、たとえ素性を隠されていたとしても、その過程を知っていた黒の騎士団幹部の行為は裏切り行為以外の何物でもなく、それを察することのできなかった被告には、元より指導者たる、代表たる資格そのものが欠如していたものと判断致します。
 加えてアッシュフォード学園での臨時最高評議会では一国の君主を軟禁し、悪逆皇帝と呼び、約束通り身一つで参加されたルルーシュ陛下に対し、学園地下にKMFまで潜ませていた。外交儀礼の点においても許されることではありません。それでも弁護人は仕方のないことだと、許せと仰るのですか」
「しかしご覧のように被告はまだ年少者であり、そこまで求めるのは酷というものです」
「ですからその年少者が代表という地位に就き、あまつさえ超合集国連合最高評議会の議長などという要職に就いたのが間違いの元だったと申し上げているのですよ」
「異議を認めます」





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