愚か者たち 【22】




 フジ決戦が終了し、後は反逆者たちと、それに連なった者たちに対する判決を待つだけとなり、これにより、ルルーシュが神聖ブリタニア帝国の第99代皇帝であることが内外に対して確定されたものとなったと言える。
 ちなみに反逆者たちだが、首謀者として囚われたのは元帝国宰相シュナイゼル・エル・ブリタニアと元エリア11総督ナナリー・ヴィ・ブリタニア。元第2皇女のコーネリア・リ・ブリタニアについては、結果的には失敗に終わったとはいえ、帝都に対してのフレイヤ攻撃に関して、後にシュナイゼルと対立し、シュナイゼルが処分したと告げたが、肝心のコーネリアの遺体が見つかっておらず、最終確認がとれていないこと、銃撃を受けた後、まだ息があった、との証言もあったことから、現在は国際指名手配となっている。



 ルルーシュは皇帝即位宣言の際、その場にいた皇族や貴族たちに「我を認めよ」とギアスをかけたが、皇族たちに対しては、ジェレミアに命じて彼らが宮殿を辞する際に、順次ギアスを解いている。しかし、すでにルルーシュが皇帝となってしまっている以上、教え込まれ、身に染み付いたものであったがゆえであろうか、ギアスを解除された後も、あえてそのことに異を唱えることはなかった。その後、ルルーシュが推し進める政策に対しても、不満は持ちはしても、皇帝が勅命として定めたことだから、と逆らうことはなかった。貴族や、同じくその場にいた文官や武官に対しても、フジ決戦終了後に、順次ギアスを解除しているが問題は起きていない。
 しかし、その場に不在だった貴族たちの中で、ルルーシュに対し、即位についても、更にはその政策についても不満を抱いたものは、当初は反乱を起こし、騎士たるフランツをはじめとした者たちがその討伐に当たっていた。アッシュフォード会談の数日前には、それもほぼ終了し、国内は安定に向かい始めていたと言っていい。
 ルルーシュが皇帝となって一番最初に勅命として発したのは、ナンバーズ制度の廃止であった。ナンバーズも名誉ブリタニア人も、等しく皆ブリタニア人であるとして、その差別の撤廃を命じた。人の心はそう簡単に変わるものではない、ブリタニア人の、ナンバーズや名誉に対する差別意識はそうそう消えはしなかったが、無闇な差別行為がなされた際には、厳罰が与えられ、ナンバーズや名誉に対しては、不当な扱いや明らかに差別と言われるものを受けた際には、きちんと申し出るようにと奨励した。ただその場合、それを受ける担当者の意識などが問題となるが、そこは厳密に人選をし、それでも不正、つまり申し出をきちんと処理しなかったことが明らかになった際には、これも厳罰に処せられることとなり、皇帝からの勅命ということもあって、心の中でどう思っているかはさておき、少しずつ改善の兆しが見えている。そして、同時に他の一般のブリタニア人に対する啓蒙も行われている。
 次に発表されたのは、各エリアのことである。まずはナンバリングではなく、それぞれの元の国名をつけることとした。独立については、時期尚早と、すぐに認めることはしなかった。そのことに対して、エリアの元の国民は不満を持ったが、実情を考えれば、エリアとされて以降、ブリタニア人が住む租界以外は荒れ放題であったし、満足な産業などほとんど無い。加えて教育もほとんど行われていなかったことから、独立を果たしても、その後の国家運営ということを考えれば、無理があることは誰の目から見ても明らかであり、結果、ルルーシュの、国内の整備、人材の発掘と教育、産業の育成など、独立してもやっていけるという目処がたったところで独立を認めるという内容に、それが現実に即した方法だろうと認めざるをえず、ルルーシュの命によって派遣されてきた、皇帝直属の行政官によって、それらのことが、後の独立に向けて行われている。
 それからも次々と政策が勅命の形で発布され、実行に移されていった。貴族たちに対する優遇された税制度の改革、財閥の解体、公共工事の見直し等々である。それらによって、いずれ貴族は、名ばかりの名誉的称号に過ぎないものとなるだろう。当初は貴族制度の廃止も視野にいれていたルルーシュだったが、状況を見ながら、それで落ち着き、特に問題がないようであれば、あえて廃止までする必要はないかもしれない、という考えに至っている。最終的にどうなるかは、今後の様子を見てからのことであり、結果的にどうなるか、それはまだ先の話となるが。
 結局のところ、先帝シャルルや元帝国宰相シュナイゼルの下で、利権を得ていたのは皇族や貴族たち、いわば一部の限られた者たちであり、ルルーシュが打ち出した政策は、多少の差はあれ、多くの国民から支持されている。個人的なことはもちろん無理であることは違いないが、明らかに問題だと思われる事柄については、役所なりに申し出れば、即座にとはいかずとも、その訴えが正当なものであると判断されれば、改竄が図られているし、個人的なことでも、明らかに無謀な、権力を傘にきてのもの、と思われるようなものは、裁判所に訴え出ることもできるようになった。以前は、皇族や貴族、有力者たちからの横暴な振る舞いには泣き寝入りするしかなかったが、その頃に比べれば雲泥の差であった。確かに、まだそれらは改革の途上であり、全てがうまく行き渡っているとは言いにくい部分があるのは否めないが、国民にとって、彼らが望んでいたような良い方向に向かっているのは間違いない。



 大量破壊兵器フレイヤについてだが、これは開発者であるニーナ立会いのもと、全ての資料が廃棄処分された。残っているのは、ニーナの頭の中だけ、という状態になっているが、こればかりはいかんともしがたい。フレイヤはすでに使用できるものではないと、どのような手段によるものかは、それに携わった者たち以外では誰も判断できていなかったが、ともかくも、フジ決戦でのありようから、使用できるものではない、仮に使用したとしても、消されてしまうということは明らかにされており、フレイヤに手を出そうとする者が出てくる可能性は低い。そしてニーナ自身、二度とフレイヤを創るようなことはしないとの誓いを、皇帝たるルルーシュに対して立てている。しかしそれでも、万一のことを考え、保護の意味合いを込めて、また、ニーナの能力、頭脳を惜しんで、ということもあったが、現在、彼女はブリタニアの帝立研究院にロイドらと共に所属している。
 尚、ルルーシュの考案が元になっていたとはいえ、最終的にはロイドが開発した対アンチ・フレイヤ・システムは、ある意味、フレイヤ以上の脅威になりかねないと、厳重に封印された。それは、アヴァロンやフランツたちの騎乗するKMFに搭載されたものについても同様であった。
 ちなみに天空要塞ダモクレスだが、これはシュナイゼルらを捕縛して完全にフジ決戦が終了した後、無人となったダモクレスに、ルルーシュ自らフレイヤのコントロール・ルームに乗り込んで、太陽に向けて上昇するよう、軌道修正した。時間はかかるだろうが、いずれダモクレスは宇宙に藻屑となって消えるか、太陽の放射熱によって焼かれて消えることになるだろう。もちろん、ダモクレスを建造したトモロ機関は摘発を受けて解体され、その研究資料は、有用と思われるもの以外は全て廃棄され、所属していた研究員や出資していた者たちに対しても、それに適した処罰が下されている。とはいえ、研究員の中には、純粋に研究者として参加していた者もおり、そういった者たちはニーナと同様に帝立研究院に身を移している。
 一方、シュナイゼルに組してフジ決戦に参戦していた扇たち元黒の騎士団の一部のメンバーだが、幹部たちには── その中にはカレンも含まれている。何せ、アッシュフォード会談ではルルーシュの命を狙いもしたのだ── それぞれの立場に対応して、終身刑や懲役刑が下されている。すでに更迭されている超合集国連合の最高評議会議長であった神楽耶については、合衆国日本の代表という立場からも追われ、皇コンツェルンも解体されたことから、残された僅かな資産だけをもって一民間人として生きていくこととなった。ただ、年齢的なことから、ルルーシュの勧めで、かつて桐原翁に仕えており、皇家とも多少なりとも関係があった年配の男性が後見人となっている。連合がルルーシュの案を受け入れたのは、世界中に放送されたフジ決戦の様子から、ルルーシュが連合を()ち上げたゼロ本人であったことが判明したことが大きい。



 こうして、ルルーシュに逆らった、彼に仕える者に愚か者と判断された者たちは、彼らの手によって、あるいはルルーシュ自身の判断によって、そして扇たちについていえば、彼らが裏切った上部組織である超合集国連合によって、それぞれに処罰を受けている。
 一番最初に処断されたのは、どこまでもルルーシュを「ユフィの仇」として、それ以外のことを何も見ることなく、ただルルーシュへの憎しみのみに囚われていたスザクだった。彼は誰に知られることもなく── ルルーシュすらいまだ知らない── 闇に葬られた。神楽耶はその地位を追われ、扇たちもかつての立場に相応しいといっていいだろう処罰を受けている最中だ。そして手配されているコーネリアは別として、シュナイゼルとナナリーは、近く、処刑という判決が下されることがほぼ決定となっている。
 ルルーシュの中から、実妹たるナナリーに対する情が完全に消えたとは言えない。それはまだ確かにある。ただ、以前ほどではなくなったというだけで。それに、ナナリーが為したことを考えれば、それ以外の選択はないだろうとも思えた。加えて、そうして妹を失うこともまた、己の為してきたことに対する罰なのかもしれない、と捉えている部分もあることは否めない。
 付け加えるなら、ルルーシュは自分が皇帝でいる間に、ブリタニアをいずれ民主制にするか、そこまでいかずとも立憲君主制にすることを考えている。その為に第1皇子である異母兄オデュッセウスとその妻子だけを宮殿に残したのだ。そうして残ったオデュッセウスに対して、ギアスを解除したあと、正妻とはなっていない彼の妻を正式に妃とすること、それに伴い、二人の間に生まれた子も正式にオデュッセウスの子、つまりれっきとした皇族とすることを勧めた。何故なら、ルルーシュ自身は結婚する意志は無いからだ。それは、自分が手に掛けた、あるいは自分のために死んでいった、ユーフェミアやシャーリー、ロロ、そして名も知らぬ幾多の人々のことを考えた時、それが少しでも贖罪になれば、という思いもあってのことだ。つまりルルーシュには世継ぎを残す意思はない。仮に結婚することとなったとしても、自分の血を残すつもりはない。そうなれば、立憲君主制とすることとなった場合、ルルーシュの後を継ぐのは必然的にオデュッセウスの子ということになるからであり、正式に皇族という立場になれば、将来を見据えてそれに見合った教育を施していくこともできるからだ。
 ともかくも、そうして神聖ブリタニア帝国は、第99代皇帝ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの指導の下、新しく生まれ変わりつつあり、そしてその動きは世界の他の国々に対しても影響を与えつつあり、かつてCの世界でルルーシュが神に対して願ったように、世界はよりよき明日のために動き出している。

── The End




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