フランツは、第2次トウキョウ決戦の後、斑鳩で起きたこと、すなわち黒の騎士団がゼロを否定し殺そうとしたこと、そしてゼロことルルーシュは偽弟のロロに救われ斑鳩を脱出したことを知ると、一路、神根島へと向かった。それは半ば彼の勘のようなもので、必ずしもルルーシュがそこにいるという確信までには至らなかったが、そこにいるような気がしてならなかった。
果たせるかな、神根島に辿り着くと、そこには蜃気楼があり、あたりを見回していると洞窟から人が出てくるところだった。目を凝らしてみれば、それがルルーシュと、彼が共犯者と呼ぶC.C.、そして枢木スザクであることが分かる。ルルーシュを逃がしたはずのロロの姿はない。
フランツはロロの力── ギアス── がどういったものか知っている。人の体感時間を止める。だがその力を発動している時、ロロ自身の心臓も止まるのだ。そこから考えられることは一つ。ルルーシュを逃がすためにロロは自分に無理をして力を使い、そしておそらくその負荷に耐えられずに死んだのだ。血の繋がりのない偽物とはいえ、兄として誰よりも慕っていたルルーシュを守る、ただそれだけのために、己の命を犠牲にしたのだと、フランツは誰に聞くともなくそう理解した。
ルルーシュたちに近付くと、フランツはルルーシュの前に膝をついて礼を取った。
「ルルーシュ様、ご無事で何よりでございました」
「フランツ、来てくれたのか……」
「当然のことでございます」
ルルーシュとフランツの関係を知らないスザクは疑問を浮かべ、眉を寄せる。その顔は険しい。洞窟の中、“ラグナレクの接続”を阻止した後、ルルーシュに対して「ユフィの仇」と剣を向けた時と何ら変わらない。とはいえ、そのことを含め、フランツは今の時点では、此処で何があったのか、何一つ知る由もないが。
「ともかく、何時までもここに留まるのは得策とは言えないと存じます。とにかく一度何処か他の場所に落ち着かれるがよろしいかと」
「そう、だな……」
消極的ではあったが、ルルーシュはフランツの意見に頷いた。そして何処へ行くのがよいかと頭を巡らせ、黒の騎士団のとるだろう行動を考えた上で、夜を待って闇にまぎれ、十分に注意しながらトウキョウ租界の外縁にある、とあるゲットー内の自分の隠れ屋敷の一つへと向かった。着いた時には、すでに連絡を入れておいたジェレミアが、その屋敷の前で待っていた。
ルルーシュは当初、ジェレミアにナナリーの捜索を命じていたのだが、考えてみればあのフレイヤの閃光の中で無事に生き延びられているとは到底思えない。ましてやナナリーは総督たる身。無事であるならば、すでになんらかの情報が出ていて当然のことである。それが無いということは、考えたくはないが、ナナリーはやはりあの閃光の中で死んだのだとしか思えない。時間をおいたことで冷静にそう判断を下し、ジェレミアには自分たちと合流するように改めて指示を出したのだ。 ルルーシュに導かれるまま、彼らは屋敷の中に入った。
入ってすぐは多少広めのリビングのようになっており、ソファなどにかけてあったシーツを取って、思い思いに身を沈める。
暫くは誰も口を開くことも動くこともしなかったが、やがて少したって、ルルーシュが、茶でも淹れよう、と立ち上がった。
「お手伝い致します」
そう告げてフランツが続けて立つ。見知らぬ屋敷の中、何処に何があるのか全く分からない。自分がやります、とまでは言えず、ならばせめて手伝いを、と思ったのだ。ジェレミアも立ち上がりかけたが、フランツがそうしたことで、自分までは必要ないだろう、逆に動く人数が多ければ邪魔になってしまいかねないと、再びソファに腰を降ろして座りなおした。
ややして奥のキッチンだろう所から、茶の用意をし終えたルルーシュとフランツがそれを持って戻ってきた。フランツがそれぞれの前に茶の入ったカップを置いていき、最後に自分の分を置くとそこに腰を降ろした。
ルルーシュは一つ深い溜息を吐き、淹れたばかりの茶を一口、口に含むと、ゆっくりと話を始めた。
「これからのことだが……」
そう告げながら、最初に話されたのは、その時その場にいなかったフランツとジェレミアのことを考えて、神根島であったこと、すなわちルルーシュの両親であるブリタニア皇帝シャルルと、その亡くなったはずの、ルルーシュの実母である皇妃マリアンヌがしようとしていたことであり、それにどう対処したか、から始まった。
そして今一番の問題は、行方を晦ましたシュナイゼルが保有しているフレイヤだという話になった。それについては、その場にいる者全員が首肯した。
そこまではよい。だがそのための、そしてその後の方法について、反応は大きく二つに別れた。
スザクは喜色満面、喜び一杯の表情をしている。一方、フランツとジェレミアは顔色を変えた。C.C.は我関せずなのか、それとも単に表情に出していないだけなのか、どう考えているのか、今一つ伺い知れない。
シュナイゼルが建造させているという天空要塞ダモクレスを制圧し、シュナイゼルにギアスをかけて支配する。そこまではいいのだ。ある意味、当然といっていいことだろう。
問題はその後だ。
スザクにとっては喜び以外の何物でもないだろう。大手を振ってかつての主の仇をとれるのだから。例えその後に待っているものが、知らない、あるいは気付かないとはいえ、なんであったとしても。そしてまた、それを本当にやる気があるのかどうかは別として。
しかしフランツとジェレミアには悪夢といっていい。唯一の主と思い定めた人の命を奪うことになるのだ。それも嘘に塗れた汚名を伴って。そのようなことをどうして認めることができようか。
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