皇帝がここ数年政務を放り投げてまで没頭しているある研究に関して、調べるべく赴いたエリア11の神根島で、偶然にもゼロと遭遇した。
式根島にいたはずの彼が、いや、彼らが何故此処にいるのか。魔女の持つ不可思議な力に関係あるのか。
しかし仮面越しとはいえ、ルルーシュとの再会は心躍るものだった。
生きて無事でいる、顔は仮面で見えなかったが、この目で確認することができたのだ。
けれど運命はどこまでも残酷だ。
アッシュフォードの学園祭、そこにユーフェミアが訪れ、“行政特区日本”の設立を宣言した。
私は、本音は別にあったものの、確かに表向きではあるが「いい案だ」と言った。だがそれは妹のユーフェミアに対してであって、エリア11副総督に告げたものではない。だが彼女にはそれは分かっていなかった。ユーフェミアには公私の区別がつけられない。それを私は見落としていた。
ユーフェミアの宣言に、学園に隠れ住んでいた兄妹が不安に曝されている。だが宣言したユーフェミアはそんなことは思いもしないのだろう。
ユーフェミアもその選任騎士も、特区が周囲にどんな影響を及ぼすか思い至らない。思い至らないままに事だけを進める。
その結果、一体何がどうしてそうなったのかは分からない。
ユーフェミアは特区式典会場で突然人が変わったかのように日本人の虐殺を始め、軍人にもそう命じた。
多くの日本人の命が奪われ、それを防ぐためにゼロは、ルルーシュはユーフェミアを撃った。ブリタニアにいた頃、最も近くにいて親しくしていた異母妹をその手にかけた。
そしてその虐殺事件を発端にして起きた、エリア11に住まうイレブンの一斉蜂起。
当初はエリア11側、すなわち黒の騎士団側が有利だった。途中で何故かコーネリアが姿を消して指揮権が彼女の騎士のギルフォード卿に委ねられたことにもあった。
だが本国からの援軍と、これまた何故か、黒の騎士団側でもゼロが途中でいきなり姿を消し、それを追って黒の騎士団最強と言われている赤いKMFがいなくなったことで形成は逆転、ブリタニアが黒の騎士団を圧倒し、多くを捕縛、あるいは死に至らしめた。
だが気になるのは途中で姿を消したルルーシュのことだった。何の理由もなく戦場を離れるはずがない。
全てが分かったのは、エリア11の問題が片付いた後だった。
間に合わなかった。
ルルーシュはナナリーを浚われたために戦場を離れて神根島に赴き、その場で友人であったはずの枢木スザクと対峙した結果、彼によって捕えられ、本来彼の親衛隊長である少女に裏切られた。
囚われたルルーシュは、枢木スザクによって皇帝の前に差し出され、枢木スザクは、ルルーシュを、ゼロを捕まえた褒賞にと、帝国最強の騎士、ラウンズの称号を欲したという。なんという恥知らずであることか。かつて自分を救った者を、友人だった者を出世の道具とするとは。
ルルーシュだけではない、結果として、奴はユーフェミアの存在すらも、その出世の足がかりとして利用したに過ぎない。彼女の存在をも無下にしたのだ。己自身では、出世のみ、力を得ることのみを考えて、そのようは自覚はなかろうが。
そしてルルーシュは、いかなる方法によってか記憶を改竄され、自分が皇族であったことはもちろん、母のことも、誰よりも大切にしていた妹のことも忘れさせられ、偽りの弟を与えられて、24時間監視体制の、箱庭から檻となったアッシュフォード学園に戻された。
皇帝はどこまでルルーシュに過酷な運命を与えるつもりなのか。
こんな事になるのなら、もっと早くにどんな方法をもってしても自分の元に庇護すべきだったと後悔する。
それでも、報告されてくるルルーシュの偽りの生活は平穏なもので、24時間の監視ということが無ければ、それはそれでいいのかもしれないとも思うこともある。
けれど無事に済むはずがない。
皇帝は魔女を待っている。魔女を手に入れるためのルルーシュに対する24時間の監視だ。
そして黒の騎士団の残党も、ルルーシュを、ゼロを再び自分たちの元に戻そうと動き出そうとしている。
どちらに転んでも安全ではない。平穏は仮初のものでしかないのだ。
そして私自身、自由に動けるわけではない。
やがてゼロは復活し、そして一方、ブラック・リベリオンの際に浚われて皇室に戻されたナナリーは、今度は総督としてエリア11に赴く。正直、ナナリーは総督の器ではない。政治の事など何も分かっていない。それでもナナリーがエリア11の総督になる事を望んだのは兄であるルルーシュが見てくれているかもしれないという思い。そしてそうなったのは、皇帝の思惑である、全てはゼロの、ルルーシュの行動を掣肘するためだ。それが分かっていて、私はナナリーをエリア11の総督にすべく動かざるを得ない。
しかしルルーシュは策略をもってこれを制し、100万人の日本人と共にエリア11を去った。
策略の点で、枢木スザクなどルルーシュに及びもしない。相手になどならない。
けれどルルーシュたちが向かった中華連邦では、中華を平穏の内にブリタニアに取り込むべく、第1皇子であるオデュッセウス異母兄上と中華の天子の婚礼が控えている。それを画策したのは他でもない私自身だ。
どこまでも私たちは対立する運命なのだろうか。
ゼロが姿を見せた婚約祝賀会で、余興として、私とゼロでチェスをした。久しぶりの手合せに心が躍った。途中余計な邪魔── エスコートして連れていった娘が悪かった── が入って最後まではできなかったが。
私にできたのは、「明日は来てはいけないよ」と告げるだけだった。
何時になったら、この誰よりも愛しい異母弟をこの腕に抱き締めることができるのだろう。
何時まで戦い合わねばならないのだろう。余りにも切なすぎる。
全ては皇帝の掌の上のことなのだろうか。
── The End
|