命の担い手 【6】




 全ての不安を一掃したルルーシュは、改めて国内改革に乗り出した。
 まずは皇族特権の廃止、貴族という特権階級の廃止、財閥の解体など。
 皇族に関しては、第1皇子オデュッセウスと第1皇女ギネヴィアを残して、他の者は皇族から廃嫡し、一時金を与えて一般庶民とした。二人を残したのは、二人の持つ情報収集能力に目を付けてのことである。
 貴族階級の廃止については、地方貴族の反発が強かったが、それはジェレミアやアーニャをはじめとする騎士たちが赴いてこれを討伐して従わせた。
 財閥の解体は、財閥という形はなくなっても、会社組織そのものは残るので、特に問題はなかろうと思われた。横の連携を少なくし、富を一部の者が独占するのではなく、可能な限り平等な配分が行われ、無用な搾取が行われないようにした。
 そしてナンバーズ制度の廃止と、エリアの解放を宣言する。解放については、もちろん今直ぐというわけではない。復興の度合いを見計らい、政権を担うべき人材の育成を待って、順次解放していくことを内外に宣言したのだ。
 人それぞれに能力は異なる。得意不得意がある。その上で、強者が弱者を虐げることのない世界を目指すと、国民に向けて宣言した。
 対外的には、超合集国連合やそれに加盟していない国々との問題があった。
 まずは個々に対応できる、非加盟国との交渉から開始した。シャルル治世時代とは異なり、対話を元として穏健融和路線でいくことを示したのである。それぞれに条約を結び、良好な関係を築いていくことに力を注いだ。
 問題は超合集国連合と、その剣と盾である外部組織たる黒の騎士団である。
 合衆国日本と合衆国中華の二ヵ国以外は、シャルル時代とは異なり穏健になったブリタニアと協調関係を結んでいこうという意向が強い。しかしルルーシュがゼロだということを知っている日本と中華は、ギアスの問題もあり、真っ向からこれに反対している。そして黒の騎士団に至っては、更にその傾向が強い。
 黒の騎士団はあくまで外部組織であって、超合集国連合の最高評議会の決定なしに動くことはできず、発言権もないにもかかわらず、最高評議会に対してブリタニアとの対戦を強硬に主張した。そしてそれを議長である神楽耶が止めることが無いのである。
 そんな超合集国連合の内情に、機を見るに聡い国々は脱退し、それぞれ個々にブリタニアとの条約を結び始めた。
 超合集国連合に残ったのは、日本と中華、そしてどちらつかずの態度を決めかねている国々だけとなった。事ここに至って、ルルーシュは超合集国連合と黒の騎士団を完全に無視することに決めた。
 もちろんブリタニアに対して、あるいはブリタニアと条約を結んだ国に対して何らかの行動を取るならば、容赦をする気はない。しかし世界の趨勢を見た時、超合集国連合に残っているのは極一部に過ぎず、仮に敵対するとなった場合、確かに黒の騎士団の存在は無視できないが、その相手国としては、強大── というより、広大、か── ではあっても、国力的には劣る中華がほとんどその相手の中心でしかないのならば、殊更に事を荒立てる必要は無いと判断したのだ。



 一方、国内問題ではシュナイゼルたちの処置が残っていたが、皇族特権の廃止・廃嫡ということで全ての片を付けてしまった。
 覇権主義、植民地主義から穏健融和路線に変わった時点で、シャルル時代にその主義に従って活躍した宰相や、武力を用いてエリアを広げていたコーネリアはすでに過去の存在となっていた。
 唯一つ、心に重く伸しかかるのはナナリーのことである。愛しい妹であることに変わりはない。しかしフレイヤ弾頭を使用することを認めていたとしか思えない妹の態度に、遣る瀬なさを感じざるを得ない。
 今はジェレミアのキャンセラーでシャルルのかけたギアスを解き、目は見えるようになってはいるが、あのトウキョウ租界の惨劇を目にしていないナナリーには、フレイヤの恐ろしさが認識できていないとしか思えない。頭では分かっているのだろうが、実感が無いのだ。そして人の意思を全く無視して一瞬のうちに大勢を消滅させるフレイヤよりも、意思を捻じ曲げるギアスの方が悪だと決めつけている。ルルーシュの事情も状況も、何一つ理解しようとはしてくれていない。
 もちろん、ルルーシュはギアスを正義の力だなどと思ってはいない。生きる残るために、勝つために使ってきただけだ。そう、皇帝としてブリタニアを掌握した時以外は。
 C.C.に言わせれば、結局ルルーシュの自業自得だということになる。
 甘やかし過ぎ、綺麗なもの、綺麗なことしか教えず、世の中の汚いもの、汚辱を教えなかったことが全ての原因だと。だから偏ったものの見方しかできないのだと。
 それで言うなら、ロロとは真逆の人生と言っていい。人を殺すことを何とも思わずに実行してきたロロは、今、兄であるルルーシュによって、家族というものを、そして人を愛することを知った。人を殺すだけの人生から、世の中には綺麗なことも汚いこともあるのだと、そしてどちらを選ぶかは、全て自分次第なのだということを今は知っている。
 ならばロロとは逆に、一度完全に手を離してみるのも手なのかもしれないと思った。少なくとも今は目が見えるのだ、自分で判断する材料は増えている。
 ある意味、ナナリーはルルーシュにとって生きる(えにし)だった。ナナリーがいたから生きてこれた部分があるのは、どうしても否めない。ならばルルーシュがナナリーから離れることもまた、自分にとって必要なことなのかもしれないと思う。
 そう思ったルルーシュは、ナナリーに必要以上の加護の手を差し伸べるのを止めた。これからのナナリーは、ルルーシュがそうしたように、自分で自分の生きる道を探していくべきだと。



 ある時、ふと思い出してルルーシュはC.C.に尋ねた。スザクはどうしたのかと。
 魔女は笑って答えた。この前Cの世界から出してやったが、随分と窶れた顔をしていたと。外の時間など関係ない世界なのになと。



「C.C.、おまえとの契約、結局果たせてやれていないな」
「ああ、あれか。いいさ、気にするな。契約は反故にされたが、その代わり、笑って暮らせる世界をおまえはくれただろう? だからもういい」
 そう笑って返すC.C.に、ルルーシュも安堵したかのように微笑(わら)って返した。
 ルルーシュは思う。
 自分の命は自分だけのものではない。C.C.に、ジェレミアに、そしてロロに、何度も助けられて、そのお蔭で今こうして生きている。自分を助けてくれた人たちが、そして自分が治めるこのブリタニアの国民が、皆幸せであればいいと思う。そしてそのために、少しでも良い治世を心がけようとの思いを強くした。

── The End




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