解任と復帰 【1】




 エリア11総督コーネリア・リ・ブリタニアの元に、本国の枢密院から凶報が届けられた。
 それは他の者には大したものではなかったが、コーネリアにとっては凶報以外の何物でもなかった。
 枢密院は第3皇女ユーフェミアのエリア11副総督解任、つまりは失格を申し渡してきたのだ。
「何故だ、どうしてこんなこと……」
 コーネリアは動転した。一体何故、どんなことからこのようなことになったのか。
 思い当ることは一つしかなかった。それはユーフェミアがナンバーズ上がりの名誉を選任騎士としたことだ。
 しかし選任騎士の任命は総督といえども口出しできないこと。騎士を任命することは皇族の権利であり、それを否定することは枢密院にもできないことだ。ならば何故。
 コーネリアはそれが普段のユーフェミアの行いにあるとは考えもしなかった。
 ユーフェミアには汚いものは見せたくないと、政治の裏側など知らせたくないと、あまりテロ対策や政治に関わらせず、各種式典の出席や慰問などばかりさせていた。それが副総督のやるべき事ではないとは言わないが、そればかりで肝心の政治向きの事をしていないのでは、失格の烙印を押されても致し方ない。こればかりはコーネリアの配慮が徒になった形だ。
 コーネリアはまず、ユーフェミアの選任騎士である枢木スザクを執務室に呼び出した。
「この度、枢密院からユーフェミアの副総督解任の報が入った」
「副総督解任!? 何故ですか?」
 スザクが驚くのも無理はない。誰よりもショックを受けているのは他ならぬコーネリアだ。
「理由を知りたいのは私の方だ。とにかくユフィは副総督ではなくなった。同時に本国へ帰国することになる。ついてはおまえだが、副総督でなくなる以上、選任騎士は持てない」
「え?」
「皇族なら誰でも選任騎士を持てるわけではない。私的な騎士なら持てるが、選任騎士を持てるのは一定以上の役職に就いている者のみだ。そこでだ枢木、おまえはユフィの任命によりあれの騎士となったが、これからも騎士でいてくれるか、それを確認したい。立場が選任騎士から私的な騎士に落ちるとしてもそれでも良いか?」
「も、もちろんです、自分はユフィ、いえ、ユーフェミア皇女殿下の騎士となることを己に課しました。その思いに変わりはありません」
 コーネリアの物言いに拒否できなかったというのもあるが、同時にスザクに選任騎士と私的な騎士との違いが分かっていなかったということもある。公に認められ発言権もある騎士と、ただ傍にあって主を守護するだけの騎士、その違いをナンバーズ上がりの者に分かれというのが無理があったのだが。
「ならばおまえには特派や学園の事もある。今日一日は私の名で許す、挨拶をしてこい。本国への帰還は明日だ」
「はい」
 スザクは随分と急なんだなと思いながら返事をし、一礼すると総督執務室を後にした。
 その執務室ではコーネリアがホッと息を吐いていた。
 ナンバーズ上がりのスザクを認めたくはないが、少なくともその腕は確かだ。一人でユーフェミアを本国に帰すのは心もとないが、これで少なくとも物理的な嫌がらせなどからは防げるだろう。もっともあのスザクがあの宮廷でどこまでやっていけるか、同時に甚だ疑問でもあるのだが。
 そうしてスザクの後ろ姿を見送ってから、副総督解任の知らせをするべくユーフェミアを呼び出した。
「私が、解任……? 何故ですか、お姉さま」
「それを知りたいのは私の方だ。とにかく枢密院からおまえの副総督解任の報が入った。明日の便でさっそく帰国せよとのことだ」
「明日……そんなに早くに……」
 自分はまだ何もしていない。これからしたい事があったのにと、構想していた“行政特区日本”の事を思い、ユーフェミアはただ残念に思う。
「枢木が一緒に行く。今日一日は挨拶回りに行かせてやった」
「スザクが一緒に?」
 その事実にユーフェミアは嬉しそうな顔をする。その姿を見てコーネリアは何も言えなかった。
 副総督解任ということは、これからはユーフェミアはブリタニアの宮廷では弱者に、役立たずの皇女ということになるのだ。ただ、ある意味、本人がそれに気付いていなさそうなのが、救いといえば救いなのかもしれなかった。周囲の視線は厳しいものになるだろうが、離宮にいる限りは身の安全は保障されるし、以前の本国にいた時と変わらぬ生活を送ることができるだろうから。



 その頃スザクは先にアッシュフォード学園の大学部の一角にある特派に顔を出し、ユーフェミア皇女と共に本国に行くことになった旨を伝えた。
 ロイドにはパーツが無くなるぅと嘆かれたが、こればかりは致し方ない。自分はランスロットよりもユフィを選んだのだから、とスザクは自分を納得させる。
 特派を後にした後、スザクは時間的に高等部の生徒会室を目指した。そろそろメンバーが生徒会室に集まっている頃だと時計を見て思ったのだ。
 しかし数日ぶりに訪れたスザクを待っていたのは、メンバーの、特に会長であるミレイの刺すような冷たい眼差しだった。
「あ、あの、何かあったんですか? それにルルーシュ、は?」
 見当たらないルルーシュの姿に、またサボりだろうかと思いながら問いかける。
「ルルちゃんとナナちゃんなら、もう此処にはいないわ、誰かさんのお蔭でね」
「どういう、ことですか?」
 スザクはあなたのせいだと言わんばかりのミレイの口調に、更に問いかける。
「分からない? あなたが騎士になったことで、騎士になったにもかかわらずここに通い続けたことで、ルルちゃんたちのことが本国に知れたのよ! 今はもう二人とも本国にいるわ!!」
 ミレイが全てあなたの考えなしの行動のせいだと叫ぶ。
「ルルーシュが皇族だったなんて知らなかったよ」
「ルルとナナちゃんが、悲劇の皇族の二人だったんだね」
「二人とも本国に連れ帰らされることになって、とても悲しんでた、嫌がってたのに」
 あなたのせいで二人は本国に強制的に連れ帰らされたのだと、生徒会のメンバーがその視線でスザクを責める。
「あ、じゃ、じゃあ、本国で会えますね。僕もユフィと一緒に本国に行くことになったから」
 冷たい視線に曝されながらもスザクは明るく考える。
「ユーフェミア様が本国に?」
 ニーナが問い返す。
「うん。何だかよく分かんないけど、副総督解任だって」
 あんなに優しいユフィのいるところだ、悪いところであるはずがない。ルルーシュは自分たちがいるのを承知でブリタニアが開戦したことでブリタニアを恨んでいるけれど、きっと何かの間違いだったんだ。ルルーシュの考え過ぎに違いない、と楽観視していた。
「解任!? それでどうしてあなたはそんなに呑気にしてられるのっ!?」
 解任との言葉にニーナは顔色を変え、ミレイはスザクの態度に思わず叫んでいた。
「え?」
「解任っていうことは、その能力が無いって言われたってことよ、弱者になったのよ!」
「弱者、って……。でもユフィはコーネリア殿下の妹で第3皇女で……」
「そんなことは関係無いのよ。ユーフェミア皇女は役立たずの烙印を押されたのよ!」
「役立たず、って、そんなこと、あるはずない! ユフィは素晴らしい人だ!」
「そう思うなら本国に行ってその目で確かめるといいわ!」
 こんな何も知らない男のせいで、ルルーシュとナナリーはアッシュフォードが二人のために創ったこの箱庭を出ていかざるを得なかったのかと思うと、ミレイは泣きたくなった。
 ブリタニアの宮廷がどんなに陰謀渦巻くところかスザクには分かっていない。コーネリアの庇護を受けていたユーフェミアの在り様が特別なのだとは分かっていない。スザクは本国で何が待っているか、何も分かっていない。





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