創世記─ジェネシス─




 まず初めに混沌があった。
 生命もなく、音もなく、ただ静まり返っていた。
 在るのは、ただ空虚と、暗黒のみであった。
 その中心には至上なる霊、偉大なる力そのもの、万物の創造主たる“ヤナ”がいた。
 ヤナは世界を創ろうと欲し、世界を創った。



 ヤナはまず、形もなく空間にあったガスを集め、それによって大地と水と、そして大気とを創り、それから太陽を創った。
 その太陽と大気との出会いによって光が生まれた。ヤナはそうして出来た光と、そして闇とを分け、光ある時を昼と呼び、光なき闇を夜と呼び、闇の夜に灯をともし、その灯を、月と名付けた。
 次に、太陽は水と出会って生命の源を創った。ヤナは、この生命の源たる宇宙卵を用いて、様々な生命を生み出していった。
 全てが創られた後、ヤナは自分の姿に似せて人間を創り、その体内に不滅の霊魂を入れたので、人間はヤナのような知恵を持ち、大地を支配する力を持った。
 最初の人間は雌雄両性を備えていたが、ある時、ヤナは眠っている間にそれを引き離し、別々のものとした。それが男と女であり、これより後はこの男と女によって、人間が生み出されていくことになる。
 こうして創造は完成した。
 最後に、ヤナは光と生命ある者の生を司るものとして、守護神ディマジオを、そして、闇と生命あるものの死を司るものとして、暗黒神、冥界の主たるミクトランテクトリを創り、自身は永く深い眠りについた。
 再びヤナが目覚めるのは、ヤナの創造せしこの世界が失われた時であると言われる。



 ディマジオとミクトランテクトリは、何時の頃からかヤナの意思──共に在って世界を支え、護れ──に反し、互いに反目しあうようになっていた。
 しかし、直接合間見えることもかなわずにいた。
 何故ならば、光と闇とは性格を全く異にし、決して互いに相容れることのかなわぬ存在でありながら、同時にまた本質的には一つのものであり、光があってこそ闇が、闇があってこそ光があるのであって、どちらか一方だけでは、世界を支えることも、また光が光として、闇が闇として存在することさえも、不可能だからである。



 ミクトランテクトリは、ある時、一人の人間の若者を連れてきて、彼に己が力を分け与え、己が代行者──闇の王タル・ガツルとして、生命ある者を闇の支配下に置き、僕とするために、人間の世界に遣わした。
 このタル・ガツルは、漆黒の髪と闇色の瞳とを持ち、まさに闇の王たるに相応しい容貌の持ち主であった。
 一方、これを知った人間の世界の守護者たるディマジオは、全ての人間の子の王として、冥界の主ミクトランテクトリとその代行者たる闇の王タル・ガツルから、人間とその世界を護り、歪められた者となり人間たることを止めた闇の王タル・ガツルを滅ぼす者として、光の王サラー・ルーガルを生み出し、人間の世界に遣わした。
 このサラー・ルーガルは、光り輝く黄金色の髪と空の色の瞳とを持ち、タル・ガツルがそうであるように、彼もまた、光の王たるに相応しい容貌の持ち主であった。



 これより後の人間の世界の歴史は、即ち、光と闇の、人間とその世界を賭けた、二人の王の永い闘いの歴史となる。
 そして何時しかこの闘いが終わる時、人間の世界も一つの時代が終わり、世界は新しき時代を迎えることになるはずである。


〜フェリア年代記 “創世の章”より〜



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