惑星フェリア──地球連邦政府にとって第二番目の殖民惑星である。
 地球人がこの星に入植を始めてからおよそ半世紀余り。その間、多くの科学者や考古学者の研究により、この星の歴史は地球を遥かに上回るものであり、かつては現在の地球よりも更に発達した文明を誇っていたことが明らかとなりつつあった。
 その星が、何故に地球人の侵略──そう、それは明らかに侵略と呼ぶに相応しい野蛮な行為だった。フェリア人に多くの血を流させ、その命を奪い、街を破壊したのだから──を許すほどに衰退してしまったのか。
 調査の結果、それは戦争によって齎されたのだと知れた。惑星全土を巻き込んだ、最終戦争と呼んで差し支えないだろう戦争と、その後遺症によって多くの物が、多くの命が失われたのだ。
 かつて地球においても様々な局面において最終戦争のことが取りざたされた。幸いにもそれは現実のものとはならなかったが、このフェリアにおいてはそれが現に起きたのだ。つまり、一歩間違えば、このフェリアの姿は地球の姿となりえたものなのである。
 そして今、戦争によって荒廃する以上に愚かなことを地球人はしているのかもしれない。
 武力による、他惑星への侵略である。
 遠い昔、地球の上のみにあった時、大航海時代と呼ばれた時代に犯した罪を、宇宙に進出して再度、犯しているのだ。それは地球人にとって、そして何よりもフェリア人にとって不幸だった。
 現在は連邦政府によってフェリア人に対する補償が行われ、地球人と同様の、場合によってはそれ以上の権利が、現実はともあれ、少なくとも法律の上では約束されていた。しかしそれは当然とも言えようが、フェリア人の地球人に対する禍根を消すものとはなっていない。





 首都ティレニアにある広大な敷地を有するフェリア中央大学、史学部の研究室で、助教授を務める若き考古学者ジェス・テイラーは、彼の助手たるリアンナ・フォークレアと共に資料に目を通していた。
 今年22歳になるリアンナは、生粋のフェリア人である。
 しかも、フェリアの最大部族であり、首都の名ともなったティレニアの最後の族長ゼルジアスの血族であり、また、祖父が一族の語り部を兼ねる神官の家系であったことから、ティレニア族の、ひいてはフェリアの歴史についてもっとも精通していると言われる女性である。
 ジェス・テイラーはリアンナから彼らフェリア人たちに長く語り伝えられてきた伝説や物語を聞くのが好きだった。それらの話の全てが真実かどうかは分からないし、必ずしも研究に役立つものばかりとは限らなかったが。
 そして今日も、ティー・タイムを利用した彼女の語りの時間を迎えた。



「今日は何の話をしましょうか。何かご希望はありまして?」
「いや、特にないよ。何でもいい」
「それでは、そうですね・・・・・・
 リアンナは少し首を傾げて考えてから、一つの伝説を提案した。
「アンティリア帝国の伝説などいかがでしょう。古の大帝国の最後の帝王サ・ラー・ルーガルの話は」
「いいね」
 テイラーは微かな笑みを浮かべながら答えた。それは彼がかねてから聞きたいと思っていた伝説だったから。
 リアンナは頷くと、話に入る前に二人分のコーヒーを淹れ、一つをテイラーに渡し、もう一つを手にしたまま、テイラーの向かいの椅子に腰を下ろした。
 そしてコーヒーを一口含んで喉を湿らせてから、ゆっくりとリアンナは語り始めた。
 遠い遥かな昔、真の帝王に見捨てられ、神の怒りを受けて海の底深く没し去ったとされる偉大なるアンティリア帝国と、その帝王の伝説を──。




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