Une suite 【2】




 GWが明けて最初の土曜日、工藤新一はFBIのジョディと待ち合わせをしていた。
 新一がジョディと会うのは、“黒の組織”の壊滅作成以来のことであれば、随分と久し振りのことである。
 あえて外での待ち合わせになったのは、ジョディがどうせなら紹介しておきたい人がいるから、というものであった。
 わざわざ待ち合わせしてまで合わせたい人物となれば、ジョディと同じFBIのメンバーか、それに近い人物なのだろうと察し、そう考えると、人目に触れる外でいいのか? との懸念も持ちながら、新一は待ち合わせをしているカフェに向かった。
 新一が待ち合わせをしているカフェに着いてみると、ジョディは既に来ていて、彼女の向かい側に一組の男女がいた。ジョディはまだ来たばかりらしく、その前には水の入ったグラスしかなかった。
 新一がジョディに近付いていくとジョディも新一に気が付いて軽く右手を上げた。
「お久し振りです、ジョディ先生」
 以前の癖が抜けずに、新一は未だにジョディを呼ぶ時に“先生”と付けてしまう。
 傍まで来ると、ジョディの向かい側に座っている二人の顔がはっきりと分かり、新一は驚きに目を見開いた。
 女性の方はジョディと同年齢位と思われる欧米人だったが、男性の方は、この春から同じ大学に通っている黒羽快斗だった。
「久しぶりね、新一」
 とりあえず、新一は空いているジョディの隣の椅子に腰を下ろした。
「アネット、彼がさっき話していた工藤新一よ。新一、彼女はアネット・スタール。フランス警察から、現在ICPOに出向してるの。彼は、知り合いだそうね?」
 ジョディは日本語で彼女── アネット── に新一を紹介したので、新一も日本語で挨拶した。
「はじめまして、工藤新一です」
「はじめまして。貴方のことはジョディと、彼から聞いているわ」
「昨日、成田に着いた時に偶然アネットと出会って、今日、改めて会う約束をしたのよ」
 ジョディがそう言った時に、ウェイターがジョディの注文していたコーヒーと、新一に水を持ってきたので、返すように新一はコーヒーを頼んだ。
「それで貴方のことも紹介しておこうかと思って、今日、来てもらったの」
「“黒の組織”の壊滅に一役買っていたそうね、そう聞いているわ」
 快斗のいる前でそんな話をして大丈夫なのかと思いながらも、その一方で、向こうからその話を振ってくるということは問題ないのだろうとも思い、新一は頷いた。
「ええ、まあ」
「でも、詰めが甘かったわね。というより、計画を立ててから実行に移すまでの時間が長過ぎた。だから組織のNo.2に逃げられるような羽目になったのよ」
「えっ!? ジョディ先生、No.2に逃げられたって……」
 驚いて新一はジョディに尋ね返す。
「貴方には話してなかったけど、実はアネットの言うとおりなの。でももうその人物もICPOと、No.2が逃げた先の現地警察の協力で無事に逮捕済み。今はもう完全に壊滅しているわ」
「その協力者として情報収集してくれたのが、彼、快斗よ。快斗には以前、欧州を中心に活動している国際犯罪組織の一斉摘発をする際に協力してもらってたので、今回も協力願ったの」
 ジョディと、それに続くアネットの言葉に新一は目を見開いて快斗を見た。
「黒羽、おまえが、なぜ……?」
「欧州の件は、俺の親父の仇だったんで前々から情報収集してて、白馬の伝手でアネットと接触したんだ。今回のはアネットから話があって、でも協力といっても大したことはしてない」
 今日会ってからはじめて、快斗が口を開いた。
「欧州の組織については、快斗の情報提供がなければきっと未だに手を付けられずにいたわ。貴方からの協力があったからこそ摘発できたのよ」
 新一はなんだかアネットからバカにされているような気がした。
 欧州の組織は快斗の情報提供で一斉摘発できたのに、“黒の組織”は自分が関わっていたにもかかわらず組織のNo.2を逃し、結局その後始末をしたのは快斗だと。
 素人── だと思っている── の快斗と比べて、探偵を自負している自分にとっては屈辱のような気がした。
「でもお互い、組織の摘発に協力してくれたのが未成年者だったというのは、ちょっとばかり恥ずかしいわね」
 ジョディがアネットに向かって言い、アネットもそれに頷いた。
 だがそれを聞いても、二人の様子を見ても、新一は屈辱感が拭えなかった。
「これからは未成年の素人の手を煩わせるようなことはしないようにしないとね」
 そう告げたアネットの言葉に、アネットからすれば、自分もまた所詮はただの学生、素人にすぎないのだと思われているのが分かった。それは新一の屈辱感に拍車を掛けるだけだった。
 それが表情に出ていたのだろうか、アネットはクスッと微笑みながら新一に声を掛けた。
「未成年のただの学生が無理はしないものよ。なんて、快斗の協力を得ていた私たちがいえることではないけど」
「でも新一は優秀ね。社会人になったら、もっと堂々と協力願うかもしれないです。そうは言っても、アメリカと日本をまたにかけた犯罪捜査がそうそうあるとも思えませんが」
 ジョディのフォローとも取れるそれは、しかし新一にはフォロー足りえなかった。
 その時、時計を目にしていた快斗が席を外す旨を伝えた。
「この後、白馬と約束してるんで今日はこの辺で失礼します。アネット、頼まれた件は進めときます。目途が立ったらまたこちらから連絡を入れるので」
「探によろしくね。例の件も、手間を掛けさせて申し訳ないけど頼むわ」
「ええ。Ms.ジョディ、お先に失礼します。工藤もまた大学でな」
 そう言って、快斗は席を立ってカフェを出ていった。
「アネット、まだ何かあるの?」
「いいえ、事件とは関係なし。彼に新しいデータベースの構築を依頼したのよ。だって彼、その道では既に玄人といってもいいんですもの。何せ12でアメリカのMIT出てるくらいだし」
「黒羽がっ!?」
 初耳だとばかりに新一は叫んでしまった。
「ええ。それを知って、そうそうハッキングされないようなデータベースの作成を上からの頼みで依頼したの」
 それを聞きながら、新一は快斗の、大学でのどちらかというとおちゃらけたようなイメージを一新し、また、自分はまだまだ修行が足りないと自覚せざるを得ない日となった。

……Fine




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