はじめてその隠し部屋を見つけ、遺されていた白いその衣装を身につけた時、自分の中に興味とか好奇心とか、そういったものが全くなかったとは言い切れない。もちろん疑問も含めて。
だが、事実を知った時にそれは明らかに変わった。
親父が泥棒── それもICPOから国際手配を受けていた怪盗KIDだったと知ったこと、さらには、その親父の死がそれまで信じていた事故死などではなく、親父と敵対していた組織の者の手によって殺されたのだと知った時に。
さらには、その原因が不老不死を齎すという伝説を持つ、パンドラと呼ばれるビッグジュエルのせいだと知った時に。
それらのことを知った時から、俺の目的は変わった。
単に親父を追い越したい、その思いからだったが、今は違う。
何よりも親父を殺した奴等よりも先にパンドラを手に入れること。そしてそれを奴らの目の前で砕いて嘲笑いとばしてやること。さらにはその組織を木端微塵に砕いて叩き潰してやること。
そのために、俺は親父の遺した白い衣装に身を包み続けている。
けれどそれを他人に知られるわけにはいかない。ことに幼馴染の青子や、親父が死んでからは父親変わりともいえる存在の中森警部には。中森警部は怪盗KIDを捕まえることを何よりの目標にしているのだからなおさらだ。もちろん他の誰にも知られるわけにはいかないが。
俺が今の怪盗KIDだと知っているのは、母さんと、親父の付き人をしていて、今は俺の協力をしてくれている寺井ちゃんだけだ。そして二人も、親父のことがあるから、俺が怪盗KIDを続けることを頭から否定はしていないが、心配してくれている。それは理解しているし、申し訳ないと思ってもいる。
だがそれ以外にどんな方法があるというのだろう。
親父の死は事故死として、とうの昔に片付けられている。組織の存在そのものは、ICPOなどは詳細まではともかくも承知しているようだが、その目的の一つがパンドラというビッグジュエルにあることまでは知らない、気付いていないように思える。
ならば自分で動くしかない。
俺のこの手でパンドラを見つけ出し、組織を潰す。
両方ともそう簡単にいくことではないだろう。特に組織を潰すなんてことが、果たして俺一人でできるのか、組織の全容がまだ完全に理解しきれていない現状では不安もある。
だが俺はこの道を選んだ。そう、自分で決めたのだ。殺された親父になりかわり、俺が怪盗KIDとなることを。そして目的を、奴等より先にパンドラを探し出し、そして奴等を潰すことを。
だからそれが果たせるまでは俺がこの白い衣装を脱ぐことはない。
その目的を果たすために、俺は今日も白い衣装に身を包み、夜空を駆け抜けるのだ。
そう決めた以上、この身に何が起きても後悔はしない。自分の決めた道を突き進むだけだ。そう、たとえこの命と引き換えにすることとなったとしても。
ただ一つ、青子たちに俺が怪盗KIDだということを知られることを除いては。
「さあ、ショウの始まりだぜ」
俺はシルクハットの鍔に手をかけて深くかぶり直すと、ハンググライダーを広げ、東都タワーの天辺から今日の目的である宝石のあるビルを目がけて飛び立つ。確率は低いかもしれないが、それでも今日の獲物がパンドラであることを願いつつ。
── Fine
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