年が明けセンター試験を間近に控えた最後の土曜、快斗は白馬の屋敷に泊まり込んでいた。
表向きの理由は、センター試験対策のため。けれど実態はセンター試験が終わったらすぐに渡仏する快斗が、国際犯罪組織の日本支部への対応を白馬と最終打ち合わせをするためだ。こと日本支部に関しては、快斗は白馬に一任していたから。
そのことは警視総監である白馬の父親とも話はついている。本来なら一高校生にすぎない白馬に任せられるようなことではない。しかし既に白馬の伝手でICPOともそれなりの関係になっていることもあり、全てを話して了解は得ていた。白馬をフランスに伴うことはできない。かといって快斗自身はフランスに向かう以上、自分が父の直接の仇である日本支部をどうにかすることもまたできない。どうあがいたとて快斗の身体は一つしかなく、一人で両方同時になどできようはずがない。快斗の最終目標はなんといってもフランスにある敵の本拠であり、その首魁なのだ。だから父を手にかけた日本支部を白馬に任せることにして、彼と自分の双方を納得させた。
最初、紅子の勧めで白馬を頼れと告げられた時、そして白馬を訪ね、全てを彼に打ち上げて協力を頼んだ時、それを白馬が了承した時、これは取引き、一つの契約だと快斗はそう思った。いや、思いたかったのかもしれない。
白馬の自分に対する感情が、当初のものから変化してきていることは分かっていた。なぜなら自分を見つめる白馬の瞳が変わってきていたから。そしてそれにつられるように、自分の白馬に対する感情もどこか少しずつ変わってきつつあるのを薄々ではあるが感じていた。だから余計にそう思い込みたかったのかもしれない。
これは取引きなのだと、契約なのだと。
だから白馬の望むままに快斗は躰を開いた。白馬にその身を委ねたのだ。
けれど躰は正直で、そしてその躰に引き摺られるように感情もまた変化していく。快斗は己の白馬に対する感情を否定することができなくなっていた。そう、白馬に対する好意を。それでも最初のうちは白馬にそれを気取られないように精一杯虚勢を張って、ポーカーフェイスを保っていたのだが、白馬を相手にそういつまでも隠しおおせるものでもなかった。
快斗程ではなかったにしろ、白馬もまた、快斗の変化に気付いていた。ただ彼は、それを快斗から直接告げて欲しかった。無理矢理にではなく、自然のままに。とはいえ、時間がなくなっていくにつれてそうのんびりと構えているわけにもいかず、無理矢理ではなかったが、白馬から鎌をかけるような形にはなってしまったが。
そうして二人は互いに互いの心情を打ち明け合って、世間には公表できないが、恋人となり、そしてまた何よりも、本当の同志となった。
それでもこれもまた契約だと、快斗は思った。
白馬は敵の日本支部を一網打尽にすること。快斗はICPOの手を借りてではあるが、的の本拠を壊滅し、首魁を捕獲させ、そして何よりも無事に日本に、白馬のもとに帰り着くこと。
快斗は自分の方がやることが多くて不公平だ、などと白馬に言いがかりをつけたりもしたし、内心では、万一のこと、最悪の場合のことを考えないでもなかった。それでもできるなら白馬の腕のなかに帰ってきたかった。
だからフランスに向かう前、紅子の、なんとしても日本に帰国させてあげる、との言葉に何よりも安堵して、飛行機に乗り込むことができたのだ。
そうして今、すべて無事に、とはいかなかったが、快斗も白馬も無事に契約を果たし終えて、快斗は白馬の腕の中に戻ってきた。
ただ、赤の魔女である紅子には多大な迷惑をかけてしまったわけで、その借りを返すのに、これから先、大変そうではあるが。
── Fine
|