約束したんだ、必ず帰ると── 。
目の前にあるのは、長年の夢── 妄執、と言っていいだろうか── に憑りつかれ、そのために俺の親父を殺し、いや、おそらくはそれ以外にも数多くの被害者を出し、必死にパンドラという魔石を求めた男の、呆然とした我を失った憐れな男の姿。
最初はその男は俺に取引を持ち掛けてきた。しかしそれに俺が応じないと分かると、銃を取り出して脅しをかけてきた。だがそんなことで俺の気持ちがそう簡単に変わることはない。
この魔石のために親父が殺されたのだと知った時から、いつかそいつ等よりも先に自分がそれを見つけ出し、そいつ等の前で魔石を砕いて、ひいては夢を砕いて、大笑いしてやろうとそう決めていたのだから。
そして今、俺は望みを果たした。夢破れた男は呆然自失して、土の上に悄然と座り込んでいる。
その一方で、俺は男の放った銃弾のうちの何発かを避けきれずに身に受けて、今この時も身体の中から俺の血が流れていくのを感じている。
このまま放っておけば、俺はきっと死ぬのだろう。
けれど俺は約束したのだ、あいつに必ず生きて帰ると。
だから紅子。観ているのだろう? 俺の願いを聞いているのだろう? 届いているのだろう?
頼むから、俺をあいつの元へ生きたまま帰してくれ。
おまえの一番の望みだろう、俺がおまえのものになることだけはできないが、それでも俺にできることなら何でもおまえの言うことを聞くから。
だから頼む、おまえの力で俺をあいつの元へ帰してくれ。あいつとの約束を果たさせてくれ。それだけが今の俺のたった一つの望みだから。
── Fine
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