彼が怪盗KIDなのだとそう確信を持ち、普段、学校にいる日常の間も彼を追いかけていた。
怪盗KIDは謎の塊と言ってもよかった。
一度は死亡説も流れた彼が、8年も経った現在になってなぜ突然復活したのか。
なぜ、宝石、それもビッグジュエルと呼ばれるものだけを狙うのか。
そしてその盗んだ宝石を返すのか。その返す相手は、元々が盗まれたものだった場合には本来の持ち主のこともある。
なぜ、わざわざ予告状を出し、夜間には目立ちすぎる白一色の衣装で現れるのか。
疑問を投げかけた時に返されたのは、それを探すのが、見つけるのが探偵のすることだと、応えてはもらえなかった。
そして、そうやって彼がKIDだと確信した黒羽快斗を、KIDを追っているうちに気が付いた。
それはKIDを追っている、狙っている組織があるということ。
KIDは明らかな目的の下に犯行を行っている。それが一体何なのか、彼を追いかけているうちに、推測ではあったが朧げながら分かってきた、見えてきたものがある。
KIDにとって探している、求めている宝石はたった一つだということ。なぜなら宝石を盗んだ後、それを月明かりに翳し、失望したような俯いた表情を蔭ながら見かけたことがあることからそう判断した。それならばKIDが盗んだ宝石を返すことにも納得がいく。 そして彼が怪盗としてはあるまじき衣装で活動し、予告状まで出しているのは、おそらく彼を狙う組織を誘き寄せるため。つまり彼は自分自身を囮にしているということだ。
そんなことが分かってきたうちに、見えてきたうちに、僕の黒羽君に、KIDに対する感情は、自分でも気付かぬうちにいつしか変わっていた。
そう、僕は願うようになってしまった。KIDが予告状を出して犯行を行う日、どうか無事でいてくれと、無事に済ませてくれと。もちろんそれは警察に対してのことではなく、彼が敵対している、彼を狙う組織に対してのことではあったが。
ある日、突然何の前触れもなく黒羽君が僕を訪ねてきた。僕は彼を僕の部屋に通し、二人だけとなった。
そこで他に誰もいないことを再確認してから、黒羽君はゆっくりと話しはじめた。
自分がKIDであること、その目的、全てを。それらは、中にはとうてい信じられない、本当のこととは思えないことも含まれていた。それは肝心の黒羽君もそうであったらしいが、しかし、それ以外については、大凡、僕が見当をつけたところとさして大きく外れてはいなかった。
その時から僕たちの関係は変わった。
探偵と怪盗、追う者と追われる者、ではなく、共闘者へと。
そして全てを決めて帰ろうとする黒羽君を引き留めて、僕は聞いた。なぜ僕に全てを打ち明ける気になったのかと。
「……紅子にそうしろって言われたんだよ」
少し間をおいて黒羽君は答えた。
「小泉さん? どうしてここで小泉さんの名が……?」
「あいつ、魔女なんだよ。本人が言うにはなんでもお見通しらしい。どこまで本当かは分からないが、あいつが普通の人間が使えない力を持ってるのは確かだからな。実際、俺自身が経験してるし」
「そうですか。しかしそれだけで僕を選んだんですか?」
「おまえは、あいつ等とは違うだろ?」
黒羽君が“あいつ等”というのが誰を指しているのかは、分かる気がする。僕を含めた、所謂、世間から“高校生探偵”として持ち上げられている者たちだ。KIDはかねてから僕たちに対して、「君たちは探偵などではない」と否定してきた。それを僕たちは無視していたのだが、法的に言えば、少なくともこの日本においては確かに僕たちは探偵などでは決してない。自称他称でそう言って、言われているだけのことだ。だがそんな中で、僕は真実を知りたくてKIDを追い続いていたのだが。
「少なくとも、おまえは俺の言ったことを分かった上で、俺の、KIDのことを追い続け、真実の全てとは言わないまでも、かなりのところまで調べ上げた。そこがあいつ等と違うところだ。だから俺はおまえを認め、紅子の進言に従った。そういうことだ」
「分かりました。ならば天下の怪盗KIDに認められた以上、それだけの働きをしてみせましょう」
僕のその言葉に黒羽君は一瞬目を見開き、それから笑みを浮かべて、「じゃあな」と言って帰っていった。
そしてはじまった僕たちの共闘。
自称とはいえ探偵を名乗る者としては、ましてや警視総監たる父のことを考えれば、僕がしようとしていることは間違っていると言えるだろう。
そしてまた、この先に何が待っているのか、目標は決まっていても、実際のところはまだ分からない。だが僕は、僕を選んでくれた黒羽君のために精一杯のことをしようと決めた。
そして祈る。彼の願いが叶うことを。そして何よりも彼の無事を。
僕はそう決めた。そう、全ては彼のために。
── Fine
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