対組織壊滅作戦のために、一人で渡仏して実戦を数日後に控えたある冷えた夜、快斗は夕食を摂るために、宿泊先のホテルを出て、然程離れてはいない手ごろな価格の小さな店に入った。
少し遅めの時間となってしまったためか、客はもう僅かしかおらず、メニューも終わってしまっているものが多かった。そんな中、残っているものの中から、しいてお勧めは何? と聞いて、おかみさんから返ってきた答えのものを頼んだ。
頼んだものが出されるまでの間、席が窓際だったこともあり、快斗は何気なく外に目をやった。その瞳に映るのは、粉雪。
そしてそれを見て思い出す。ああ、ここは東京よりも北に位置していたのだと。
やがて運ばれてきた料理を、快斗はゆっくりと口にした。
残り少ない日々を思いながら快斗は考える。
おそらく赤の魔女たる紅子あたりは気付いているかもしれない。だが彼女がそれを他の人間に、それがたとえ白馬であっても、口にしないだろうことも分かっている。
それを承知の上で、自分も白馬には何も告げなかった。この対組織戦で、敵の首魁を前に自分が何をするつもりでいるのか。そしてその結果がどうなるか。結果については、実際のところ自分自身でもはっきりとしたことは分かってはいない。紅子あたりはそれすらも見通しているかもしれないが。だがおそらく無事ではすまないだろうとは思う。
だからこそ白馬には何も言えなかった。言わぬまま渡仏したのだ。言えば、白馬はなんとしても自分を止めただろうから。
時間をかけてゆっくりと食事を終えた快斗は店を後にした。
空を見上げれば、既に雪はやんで、僅からながらも雲の隙間から星すら見える。雪が舞っていたのはほんの僅かの間のことだったらしい。
白い息を吐きだし、そんな空を見上げながら快斗は思う。
許されるなら、もう一度おまえに会いたいよ、白馬── と。
── Fine
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