Un ami de l'enfance




 センター試験が終わった後、卒業旅行だと言って一人ヨーロッパに旅行に旅立った快斗が怪我をして帰国した。
 なんでもフランスで事故に巻き込まれたとのことだった。一体どんな事故だったのか、快斗は何も教えてくれないので青子には分からない。でもその事故の関係者の一人だというフランス人の女性が快斗に付き添っての帰国だった。しかも暫く快斗の家に滞在して快斗の様子を見るという。



 快斗と青子が出会ったのは小学校に上がる前。江古田の象徴となっている時計台の下だった。
 快斗が青子の家の隣の新しい家に越してきたばかりの子供だというのは出会った後で知ったことだった。
 快斗のお父さんは世界的に有名な奇術師で、よく家を留守にしていたけれど、ある公演での脱出マジックで失敗して死亡した。快斗と青子が小学校3年の時だった。
 その死亡事故の後、お隣の快斗の家は大騒ぎだった。連日マスコミに取り囲まれていた。そんなお隣が急に静かになって、お父さんに聞いたら、快斗と快斗のお母さんはアメリカの知り合いのところに身を寄せることにして、急遽渡米したとのことだった。騒がしいマスコミや世間から逃れるためだったのだろう。
 そのアメリカで快斗がどんなふうに過ごしていたのかは分からない。快斗はこの時も青子には何も話してはくれなかった。
 快斗がお母さんと一緒に帰国してまたお隣の家に住むようになったのは、中学に上がる時。
「これからまた一緒だ、よろしくな」って快斗は笑っていった。その笑顔は、快斗のお父さんが亡くなる前に快斗が見せていた笑顔と変わらなかった。
 だから快斗のお父さんは亡くなってしまったけれど、それ以外は何も変わっていないと思ってた。
 快斗は相変わらず悪戯好きで、亡くなったお父さんを尊敬していて、いつかお父さんを越えるような奇術師になるのが快斗の夢で、だからマジックを得意ともしていて、それはまだ子供だった青子の目から見ても、趣味の範囲を遥かに超えるものだと思ったものだった。
 そんな快斗が変わったのは、高校2年、快斗の17歳の誕生日の頃、青子のお父さんが昔から追っている怪盗KIDが復活した頃からだった。
 学校での態度は変わらない。授業は相変わらず眠っていたりサボったり、青子の事をよくからかって、教室の中、青子が快斗を追い掛け回すのも変わらなかった。
 でもどこか違ってた。
 そして転校してきた白馬君は、快斗のことをKIDだと言って追い回すようになった。
 怪盗KIDは20年近くもからいて、快斗がKIDじゃないことくらい当たり前なのに。そしてそんな白馬君を快斗は相手にしないで、いつも「俺はKIDなんかじゃない」って軽くあしらっていた。
 白馬君はヨーロッパと日本をよく往復していていつもずっと日本にいたわけじゃないけど、それでも日本に、江古田にいる時は学校ではいつも快斗をKIDだって言って追い掛け回していた。
 それがある日を境にパタリとやんだ。よく見ると、白馬君の快斗を見る目が違ってた。快斗をKIDだって言って追いかけていた頃と比べると全然違った。まるで愛しい者を見るような目になってた。そしてそれに対応するかのように、快斗の白馬君に対する態度も和らいだものになっていった。
 それからもう一人、白馬君と同じく転校生の紅子ちゃん。紅子ちゃんは同性の目から見ても見惚れるような凄い美人で、クラスの、というよりも学校中の男子の憧れの的になった。そんな中で快斗だけが違った。なぜか快斗だけが紅子ちゃんに近寄ろうとしなかった。正確に言うなら、白馬君も違ったけど、それは白馬君の目が快斗を追っていたからだと思う。
 そして白馬君に対してはそれほどではなかったけど、紅子ちゃんは、自分に靡いてこない快斗に興味を惹かれたのか、それともプライドを傷つけられたように感じたのか、よく快斗を構っていた。時々、青子には分からないような、予言、とやらを快斗に告げていた。快斗はあまり相手にしていなかったけど。
 そんな快斗を中心とした三人の態度が、3年に上がった頃にまた一つ雰囲気が変わったような気がした。快斗が青子と一緒にいる時間が前にもまして減っていったのはその頃だ。青子に対する態度はそれまでと変わらないのに、それでもどこか一歩青子から距離を置かれたような感じがした。
 快斗はおちゃらけて見えるけど、本当はとっても頭がよくて、アメリカにいた間に向こうの大学にスキップして通って卒業資格を持ってるし、白馬君はお父さんが警視総監だし、紅子ちゃんは凄い美人だし、もしかしたら、三人とも何か事件に巻き込まれたりとかしてるのかなって、警視庁に務めている警部であるお父さんに相談してみようかと思ったこともある。でもそれ以前に、白馬君は自身が探偵として有名だし、事件に巻き込まれてるようにも見えなかったから、結局青子はお父さんには何も言わなかった。もしかしたら何ということもないことなのに、怪盗KID専任として必死にKIDを追って忙しい思いをしているお父さんを煩わせたくないというのもあったけど。
 快斗は普通、高校3年だったら皆必死に受験勉強している夏休みに、一人で海外旅行に行った。昔お世話になったアメリカの知り合いに会いに、そして本場ラスベガスのマジック・ショーを見てくると言っていた。世間の同じ高校3年の人が聞いたら噴飯やるかたないことだと思うけど、快斗は全国模試ではいつも1位をとってたし、だから学校の先生たちも、快斗の授業中の居眠りやさぼりには少しばかり鷹揚で、実際、快斗は改めて受験勉強する必要なんかなかったと思う。でもできるなら青子と一緒に勉強する時間とか取って欲しかったなっていうのが、青子の正直な気持ち。
 秋になる頃、快斗のさぼりは益々増えた。先生たちも流石に眉を顰めるようになっていたけど、成績の良さで乗り切っていた感じだった。やっぱり生徒が一人でも多く有名大学に進学してもらいたいというのが先生たちの間にあったからだと思う。
 そして年が明けてセンター試験が終わった後、快斗は自由登校になる日を待たずに今度はヨーロッパに行った。その日は平日で、青子には見送りになんか来るなって言ったくせに、なぜ故か白馬君と紅子ちゃんの二人は学校を休んで快斗を見送りに行ったらしい。やっぱり三人には青子の知らない、気付かない何かがあるんだと思った。
 そして卒業式を目前にした日、快斗は帰国した。向こうで大怪我をして、看護人付きでの帰国だった。卒業式があるからって、向こうのお医者さんを無理矢理説き伏せて、看護人付きということで退院を許してもらったらしい。あれだけ不真面目な授業態度だったにもかかわらず、きちんと卒業式に出ようとして帰国してくれたのは嬉しかった。でも怪我のことを考えると無理はしてほしくなくて、複雑な心境だった。
 その卒業式は、無事に何事もなく終わった。それはきっと快斗が怪我をしていてマジックを披露するような余裕が無かったせいだと思う。快斗は怪我なんかしてなかったら、きっと卒業式の舞台で度肝を抜くようなマジックを披露して大騒ぎにしていただろうから。
 その後のT大の入試の時は、フランスから快斗に付いてきた看護人の人が大学側と掛け合って、快斗一人だけ、保健室での受験だった。もちろん監督官は付いていたけど。そして流石に常に全国模試1位をキープしていただけあって、そして快斗のお母さんの、手抜きはしないように、との言葉もあってか、快斗はT大始まって以来の全科目満点でのトップ合格だった。流石は快斗だって青子は幼馴染としても鼻が高かった。
 大学に入って知り合った人は大勢いる。中には白馬君と同じように高校生探偵として有名な工藤新一君や服部平次君、そして彼等の幼馴染という女性や、鈴木財閥のご令嬢とかとも知り合った。
 入学式の日、トップ合格ということで新入生代表として挨拶をした快斗は、高校の卒業式でできなかった分とでもいうように、学長を前にしてマジックを披露して大学関係者や同じ新入生達を驚かせた。江古田出身の者にとってはいまさらなことで、卒業式で見れなかった分を見れたと喜んでいるようだった。でもまだ怪我が完全に完治していない快斗にはやっぱり少しばかり無理があったみたいで、帰り、皆でどこかに寄っていこうという中、白馬君の家の車で紅子ちゃんと一緒に医者に行くって先に帰っていった。本当なら青子が付いていきたかったけど、三人の様子ではとてもそんなことを切り出せるような雰囲気ではなくて、なんだか三人だけで何か分かりあってる一つの世界が出来上がっていて、快斗とは幼馴染で、快斗のことを一番知っているはずだと思っていた青子は、なんだか置いていかれてしまったような気がした。
 幼馴染で、同じ大学で、でも学部は違う。今の快斗には青子よりも白馬君と紅子ちゃんとの距離の方が近い気がして、ちょっと寂しい気がする。
 結局、青子は快斗にとって幼馴染以上にはなれなかったってことなのかなって思う。青子は快斗から卒業しなきゃいけないのかなって。

── Fine




【INDEX】