「こんにちは、哀ちゃんいます?」
ここ暫く珍しく顔を見せずにいた黒羽快斗が久しぶりに阿笠邸を訪れた。
「ああ、哀君なら、今地下じゃ。もうそろそろ新一と上がって来るじゃろう。それにしても久し振りじゃのう、快斗君」
「色々と忙しくて」
快斗がそう答えたところに、哀と工藤新一が地下から上がってきた。
「あら、久しぶりね、快斗君」
「お久しぶり、哀ちゃん。で、その後ろにいる俺のそっくりさんが、工藤新一君?」
「そのとおりよ。それにしても」
答えながら哀は二人を見比べた。
「本当によく似てたのね。髪型が違うくらいじゃない、外見的には」
哀の後ろに立っている新一は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「だいぶ前にそいつが新聞によく載ってた頃、友達によく言われてたんだけど、実際ここまで似てるとは思わなかったよ」
「ふむ、印象が違うから今まではあまり感じなかったが、本当によく似とるの」
阿笠までが似てると言い出して、新一はむくれたように黙り込んだ。
「髪型変えて黙って立ってれば、快斗君、工藤君で通るわよ」
「だね。ってことで、工藤新一君、改めてはじめまして」
言いながら、快斗が手を差し出す。
「灰原の言葉が正しいなら、おまえには随分世話になったらしいな」
差し出された手を無視すこともできず、新一は軽く握って直ぐに離した。
「昔のコネを使って薬品を入手したくらいだよ」
「あら、それだけじゃないでしょ。貴方が私にかけてくれた催眠術で、APTX4869の成分を思い出せたからよ。実際、後で入手した実物と、成分は全く同じだったもの。貴方の催眠術はたいしたものよ」
「おまえ、そんなこともでき来たのか」
訝しそうに新一が快斗を見る。
「昔世話になった人に催眠術の権威がいてね。その人に教わったわけ。それを試してみたらバッチリだっただけだよ」
「ともかく、礼は言っとく。それと、二度と“坊主”呼ばわりするなよ。実年齢に戻って、おまえと同じになったんだからな」
「分かってるよ」
苦笑しながら快斗は応じた。
「それより哀ちゃん、ちょっと二人だけで話があるんだけど、いいかな?」
「構わないけど、何かあったの?」
新一と阿笠が聞き耳を立てているのを分っていながら、あえて哀は快斗に確認した。
「たいしたことじゃないんだけど、少し相談したいことがあってさ」
「じゃ、地下室に行きましょ。二人共、変な聞き耳は立てないでね」
哀は二人に釘を差してから快斗と共に再び地下室に戻った。
快斗は二人が聞いていないのを確認しながらも小声で哀── 志保── に尋ねた。
「工藤、本当に問題ないの?」
念のため、哀も小声で応対する。
「ええ。今日もさっきまで定期検査してたけど、何も問題は出てないわ」
「そっか。志保さん、薬飲む予定は?」
「とりあえず今の学年が終わってから、と思ってるんだけど、それが何か?」
「例の黒の組織、小さい頭が一つ── No.2が逃げてた」
「本当!? 情報源は? 確かな情報なの?」
哀が顔色を変えて快斗を問い質す。
「今、ICPOをとおしてカナダと中南米の各国警察に確認してるって。白馬とICPOの俺の担当者から聞いた話だから、まず間違いないと思うよ」
「このこと、工藤君には……」
「話さない方がいいと思う。あの坊主の性格を考えればね。何か情報が入ったら、志保さんには俺から必ず連絡入れるから、薬飲むの、それまで保留しといた方が安心かと思って」
「分かったわ、工藤君には話さない。その代わり、何か分かったらどんな小さなことでもいいから、必ず教えてね」
「うん、志保さんには嘘はつかないよ、俺は」
話を終えた後、今日、阿笠邸を訪れたのは、それを伝えるのが目的だったのだと言わんばかりに、しかしどんな内容の話をしていたのか新一と阿笠には分らないように、明るく「また来ますね」と告げて快斗は帰っていった。
── Fine
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