Prenant médecine




「くどいようだけど、本当にいいのね、工藤君?」
 哀は何度目かになる確認をした。
「ホント、くど過ぎるぜ。もう決めたことだ。飲むよ」
「効くか効かないか、それは2分の1だって快斗君も言ってたけど、その2分の1のうち、効かなかった場合、最悪の可能性として、そのまま死んでしまう確率も決して0%ではないのよ」
 真っ直ぐにコナンの目を見詰めながら、哀は最悪の可能性を告げる。
「それでもいいさ。現状、これ以上のものはできないんだろう?」
「ええ、残念ながら、ね」
 コナンの問いに、哀は暗い面持ちで応えた。
「こうなっちまったのも、元をただせば自業自得だ。命があっただけめっけもの。なら、一か八か賭けてみるさ」
「なら、是非ともその賭けに勝って帰ってきてちょうだい」
 貴方らしいわね、と哀は口元にシニカルな笑みを浮かべながら薬と水を手渡した。



 結局、新一── コナン── が薬を服用することを決めた時点で、工藤の両親とも相談の結果、江戸川夫妻が今後相当の長期に渡ってヨーロッパで過ごすことが確定したため、やはり息子のコナンを手元で育てることにしたと、コナンの母親設定である江戸川文代に変装した工藤有希子が毛利氏宅からコナンを引き取り、それに伴い、小学校も転校の手続きを済ませた。
 そして渡欧したと見せかけて、実際にはコナンは阿笠邸の一室に舞い戻っていた。
 薬を服用した後の様子を見るために、哀の傍を離れるわけにはいかなかったのだ。必然的に、哀も暫くの間は学校を休む羽目になっている。



 コナンは薬を服用する前、一旦、部屋を出ようとした哀の後ろ姿に声を掛けた。
「灰原、たとえどんな結果になろうと、おまえと、あいつ、黒羽っていったっけ、奴には感謝してる。だからどんな結果になっても、おまえ等が責任感じる必要はないからな」
「そうね、快斗君には感謝してもしたりないわね。その薬ができ来たのも、彼の伝手で手に入れたものが入ってるし。たとえ私のことを責めてもいいわ、でも彼にだけは、やめてね。本当なら彼は私の知り合いというだけで、何の関係もないことだったんだから」
「分かってるよ。じゃ、また後でな」
 最後にコナンが苦笑するのを聞いて、哀はドアを閉めた。

── Fine




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