Un oiseau apprivoisé




 今日もまた白馬の屋敷を訪れ、料理長の作ったケーキに舌鼓を打っている快斗に、白馬は以前から不思議に思っていたことを訪ねた。
「黒羽君、君はいつも飼っている鳩を連れ歩いていますよね?」
「あ? ああ、そうだけどそれがどうかしたか?」
 ケーキを頬張りながら頷いて、そして白馬に尋ね返した。
「なのになぜ、僕のところに来る時には鳩を連れて来ないんですか?」
 快斗は紅茶を口に含んで口の中に残っていたケーキを喉に流し込んでから答えた。
「そんなの、おまえん家にはワトソンがいるからに決まってるじゃねぇか」
「ワトソン?」
 どうしてそこでワトソンが出てくるのだろうと、白馬は首を傾げた。
「万が一、俺の鳩がワトソンに狩られでもしたらたまらねぇ。そんなの耐えらんない」
 快斗のその答えに漸く納得したというように白馬は頷いた。
「成程。それを心配してのことでしたか」
 一安心したかのように白馬は己の分の紅茶に口を付けた。
 そしてカップをテーブルの上に置いて、改まったように快斗に告げた。
「そんなことでしたら何の心配もいりません。ワトソンは確かに鷹です、狩猟を得意とする生き物ですが、ワトソンにはそのようなことは仕込んではいません。もちろん鷹としての本能の中に、それが無いとまでは言いませんが、少なくとも、僕はワトソンをそのようなことをさせるために育ててきてはいませんし、実際、一度もさせたことはありません」
「マジに?」
 白馬の言葉に、快斗は目を丸くして問い返した。
「ええ。それに普段は放し飼いなどではなく、しっかり檻に入れています。ですから安心して君の鳩を連れてきても大丈夫ですよ。君の心配しているようなことはありませんから」
「ホントにホントか?」
 白馬の言葉に、それでも快斗は念には念を入れてというように尋ねた。
「ええ、本当です。それに、できるなら君の鳩を使ってのマジックを間近で見てみたいとも思っていましたし、是非一度、君の鳩を連れてきて下さい」
 白馬は笑みを浮かべて、快斗にそう告げた。
「おまえがそこまで言うなら、今度連れてきてやるよ。けど、ワトソンのことはホントに責任もって檻に入れておけよ。じゃないと安心して連れて来れない」
 自分のマジックを間近で見てみたいとの白馬の言葉に気を良くしながらも、それでも狩猟を得意とする鷹の存在は、どうしても鳩を連れてくるには気掛かりで仕方がない。故に、しつこいと言われるだろう程に、快斗は白馬に繰り返す。
「必ず。そして、そうですね、万一狩猟本能が目覚めたとしても、鳩だけは決して狙ったりしないように調教するようにしましょう。君がマジックで使用する、君の飼っているような銀鳩については特に」
「分かった。なら次に来る時に連れてきてとっておきのマジックを披露してやるよ」
 快斗は白馬の言葉に漸く安心したようにそう告げると、残りのケーキに手をつけた。



 そして次に白馬の屋敷を訪れた日、快斗は約束を違えることなく、飼っている鳩を一羽連れてやってきた。
 流石にステージとは違うので、一般家庭に比べれば遥かに豪邸といって差し支えのない白馬の屋敷だが、そう大掛かりなマジックはできないと一羽だけにしたらしい。
 約束どおり白馬の前で鳩を使ってのマジックを披露し、拍手をもらった後、白馬と二人、快斗は鳩を連れたままワトソンがいる檻までやってきた。
 檻の中だから大丈夫、それに何かあっても飼い主である自分がいますから、との白馬の言葉に乗せられてのことである。それでもやはり一抹の不安は拭えないのだが。
 檻の中、ワトソンは白馬の姿を認めると一声上げたが、その後は快斗の肩に止まっている鳩を見ても大人しいものだった。
 野生の狩猟本能を見せるようなことはない。
「ね、大丈夫でしょう、黒羽君?」
「あ、ああ、そうみたいだな」
 快斗の鳩も怯えるようなことはなく、快斗の肩の上で大人しくしている。
「檻から出してみましょうか?」
 半ば悪戯心を出して、白馬は快斗にそう提案してみた。
「そ、それはまだ勘弁!」
 慌てたように快斗が叫ぶ。その声には却って鳩の方が驚いたようで、ワトソンは大人しいものだった。
「冗談ですよ、いきなり今日の今日でそんなことはしませんから、安心して下さい。
 でも、少なくともこれからは僕の家にも鳩を連れてきても大丈夫だと、それは確信してもらえたでしょう?」
「ああ、まあな」
「なら、これからは安心して連れて来て下さい」
 白馬は笑みを浮かべながらそう快斗に告げるのだった。

── Fine




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