ルルーシュが枢木スザクと7年ぶりに再会した時に思ったのは、名誉ブリタニア人となり、従軍している事に対して、馬鹿かおまえは、というものだった。何を思っているのか、という呆れもあった。
日本最後の首相、自決したとはいえ徹底抗戦派だった枢木ゲンブの嫡子でありながら、敵に屈して名誉ブリタニア人になるなど何を考えているのかと。本来なら、ブリタニアに抵抗するレジスタンス組織でも作ってその長になっていてもおかしくない立場の人間が何をしているのかと。
それでもスザクにはスザクの考えがあり、それは必ずしもルルーシュと同じものである必要はないのだから、その時はその点については何も言わなかった。
アッシュフォード学園に編入してきた時も同様に。
ただ自分たちはアッシュフォードに匿われているのだと、そういう立場なのだと認識だけさせておきたくて、それだけを告げた。
しかし真の意味でスザクはそれが何を意味するのか、どういうことなのか、理解はしていなかったのだろう。
だがだからといって、それはルルーシュの責任ではない。ルルーシュは言うべきことは告げた。それを理解しなかったのはスザクだ。
スザクが唯一の第7世代KMFのデヴァイサーだと知った時、ルルーシュは己に呆れた。
自分は何故スザクを助けたりしたのかと。知っていれば、分かっていれば、クロヴィス殺害容疑から助け出したりはしなかったのに。それをかつての友誼から助けたばかりに、ルルーシュの創り上げた黒の騎士団は彼一人のために、ただ1機のKMFに苦労させられている。
ブリタニアをぶっ壊すと、そう叫んだ自分を知っているはずのスザク。だが彼には自分のその心の底からの叫びは、それはどうでもいいことだったのだ、きっと。簡単に忘れられたのだ、その場だけのものだと。
結局スザクは何も分かっていなかったのだ、理解していなかったのだ、ルルーシュのことを。その心の内に渦巻くブリタニアに対する憎悪を。
そして更なる絶望がルルーシュを襲う。
スザクが副総督である第3皇女ユーフェミアの選任騎士となったのだ。
妹のナナリーはただそれを喜び、騎士就任祝賀会などを催し、ルルーシュはそれを手伝いはしたが、心の中は絶望感で一杯だった。
スザクは何も分かっていない。
ブリタニアは帝政だ。神聖不可侵の皇帝を戴く専制主義国家だ。弱肉強食を国是とし、覇権主義、植民地主義を唱える国だ。それを国の中から変える、そのために名誉ブリタニア人に、軍人になったとスザクは言う。
スザクには専制主義国家がどういうものか何も分かっていない。仮にも政治家の息子だったというのに。
認められて騎士となって、少しでも帝国の中枢に近付いた。これで中から変えていける。愚かにもどこまでもそう信じているスザク。
専制主義国家で国の政策を決めるのは皇族や一部の貴族であり、その最終決定者は皇帝唯一人のみ。一介の騎士に過ぎない立場の者がどうこうできるものではないというのに、それを理解しないスザク。
ユーフェミア様は素晴らしい慈愛に満ちたお方だ、とてもお優しい。あの方ならきっとブリタニアという国を変えてくださる。そう信じてやまないスザク。
だが、ユーフェミアとて何も知らない。知ろうという努力すらしない。
姉であるコーネリアの溺愛の元、汚いものを見ることなく、綺麗なものだけを見て育った何も知らないただただ綺麗なだけのお姫さま。そんなユーフェミアに何ができるというのか。
選任騎士としてすぐ傍にいながら、そんなことも分からないというのか。
ああ、無知の姫と愚か者の騎士、これほど似合いの者はいないだろう。
何も知らないお姫さまの善意、いや、同情から出た“行政特区日本”は、更にルルーシュを絶望の淵に追い込んでいく。
母を奪われ、国から追われ、そして今、平穏な箱庭も奪われようとしている。ブリタニアはルルーシュからこれ以上何を奪ったら満足するというのか。
スザクもユーフェミアも信じて疑わない。特区によって平和が訪れると。ブリタニアはそんなに甘い国ではないというのに。そしてルルーシュたち兄妹がそんなものに参加などできようはずもないのに。
なのにユーフェミアは信じて疑わない。ルルーシュが、ゼロが参加してくれると。また兄妹で一緒に過ごせると。
何も分かっていない二人の善意が、ルルーシュに絶望だけを与え続ける。
── The End
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