夢見る女性(ひと)




 ルルーシュがゼロ・レクイエムで、新たにゼロとなった枢木スザクによって殺されるという盛大な自殺を遂げた後、C.C.は一人、暫く世界の成り行きを見届けてから、Cの世界に籠った。



 ゼロ・レクイエムの後、最後までルルーシュに忠実な騎士として唯一人、彼の傍にあり続けたジェレミア・ゴットバルトは完全に表舞台から姿を消した。現在は、所有していた財産のほとんどを処分して、オレンジ農園を営んでいる。そしてその傍らには、ジェレミアによってシャルルとマリアンヌの二人からかけられていたギアスを解除された、かつてのナイト・オブ・シックスのアーニャ・アールストレイムの姿があった。ギアスを解除してもらったことで、ジェレミアにすっかり懐いてしまったらしい。すでにペンドラゴンが壊滅したことにより、他に彼女の身内がいなくなってしまったことから、そうしたアーニャをジェレミアが引き取った次第だ。そしてもう一人。どういった経緯でそうなったのかは確認しなかったが、ルルーシュへの忠義に関しては、ジェレミアと共に双璧といってよかっただろう、篠崎咲世子の姿もあった。
 むざむざと主に死を選ばせてしまったことへの悔い、唯一人と思い定めたその主を失ったことへの大きな喪失感、それを埋めることはこの先ずっとありえないと思えるものの、アーニャを含めて三人、彼らの生活はそれで完結している。生活していくということで、世間と全くかかわらずに、というわけにはいかないが、表に出るのは咲世子かアーニャで、“悪逆皇帝”と呼ばれたルルーシュの騎士であったジェレミアが表に出ることはまずない。そして残る二人が世間に顔を出す時も、それは最小限におさえられている。世間の、社会の動向がどうなろうと、それとかかわることなく、関係を持とうとせず、三人だけで完結している。それはそれで淋しくないのかと言ったら嘘になるかもしれないが、ルルーシュのいない今となっては、それが彼らなりのせめてもの幸福なのだろうと、そう思う。少なくとも、ルルーシュを“悪逆皇帝”と叫ぶ世間の声を耳にし、目にする機会は限りなく少ないから。



 超合衆国連合は、荒れた。一度は黒の騎士団から死亡が公表されたゼロが三度生きて現れたわけだが、その中身はかつてのゼロであったルルーシュではなく、表向きはフジ決戦の天空要塞ダモクレスにおいて、紅月カレンとの戦いの中で死亡したとされた枢木スザクだ。ルルーシュからそれなりの指南を施され、ブレーンとしてシュナイゼルを残されたスザクだったが、スザクにはルルーシュほどの才覚、いや、それ以前に、政治家の息子であったとは思えないほどに、人の上に立つことができるような資質はなく、そしてまた「ゼロに従え」とのルルーシュからのギアスがかかっているとはいえ、そのシュナイゼルを上手く御すること、使うことができず、結果として、超合衆国連合からはその能力を疑われるようになり、次第に孤立感を深めていった。
 そしてその超合衆国連合も、EUはルルーシュ死亡後、ほどなくして脱退し、独自に、かつてのそれぞれの国を州として、あらたにEU合衆国を建国して超合衆国連合からは距離をおくようになった。
 EUがそうした行動に出た背景には、超合衆国連合最高評議会の人口比率条項があった。
 人口は多いとは言えないとはいえ、超合衆国連合最高評議会議長を務める合衆国日本の代表でもある皇神楽耶、人口比率条項の最大の恩恵を受けていると言えるであろう合衆国中華の天子、そして、ルルーシュ死亡後に合衆国ブリタニアと名を変えて、“聖女”ナナリー・ヴィ・ブリタニアを代表として新たに加盟した、やはり多くの人口を要するブリタニア。そのいずれもがまだ10代半ばの少女たちであり、彼女たちを、その国を中心にして今後の運営が図られていくであろうことは目に見えていた。そしてその能力に期待を持つことができなくなったゼロ。
 それにより、EUは早々に見切りをつけて脱退し、そしてそれなりに自国だけでさほど困らずにやっていけるだけの力をもった国々も、その後を追うように脱退していった。
 オセアニア地区は、もともとブリタニアからの脅威はほとんどなく、ずっと独立路線を敷いていたこともあり、今も尚、超合衆国連合に与することなく、以前と同様の独自路線を貫いている。
 結果、超合衆国連合に残ったのは、先の三国以外では、力が足りず、いまだ復興のなっていない弱小の国々がほとんどとなり、とても世界の中心と言えるような組織ではなくなっていた。
 確かに、以前のような大きな戦争と呼べるほどのものは今はないが、小さな紛争はあちこちで起き続けており、世界は幾つもの火種を抱えたままだ。
 ルルーシュがその命を懸けて望んだような明日(みらい)にはなりそうもない。仮にそうなったとしても、そうなるのは随分と先の未来、人類がその意識を変えてからだろう。今のままではとても望みえない。



 そこまで見届けて、C.C.はCの世界に籠った。
 そのCの世界では、コード保持者なら死者とも語り合うことが可能だが、C.C.がCの世界に籠って最初に捜しだしたルルーシュの魂は、血の繋がらない偽りの、けれどその最期にはルルーシュから“弟”だと認められて嬉しそうに、幸福そうな笑みを浮かべながら死んでいったロロの魂と楽しそうに過ごしていた。やがてその二人の魂も集合無意識の中に飲み込まれ、自我を()くして確認することも不可能になるだろうが。
 C.C.はルルーシュの魂と接触して、現在の世界の状況を教える気は起きなかった。事実を話せば、きっとルルーシュは自分のやったことはなんだったのかと憂い、悲しむだろうから。だから見守るだけにしたのだ、今は幸せそうな、幸薄かった人生を送った二人を。
 何時かルルーシュの魂がこのCの世界から現世に生まれ変わった時に、世界がどうなっているか、それは分からない。ただルルーシュが望んだような、夢見たような“優しい世界”になっていればいいと、そう思う。
 そうしてC.C.はルルーシュのことを見守りながら、彼の夢を見る。
 かつて一方的にではあったが見ていた、彼がブリタニアにいた幼い頃、追いやられた日本で、枢木神社で過ごしていた頃のこと。そしてルルーシュにギアスを与え共犯者となってから、共に過ごしたゼロ・レクイエムまでのことを。
 生まれ変わったルルーシュは自分のことなど忘れているだろう。以前の生の記憶など持ってはいないだろう。だがそうだとしても、魂は同じ。ならばその傍にいたいと、そう思う。だからルルーシュが生まれ変わる時を迎えるその日まで、このCの世界に籠ったまま過ごし、彼が生まれ変わったら自分も此処を出ていこう、そして再びルルーシュの魂と出会おう。そう思いながら、C.C.は一人、夢を見続ける。

── The End




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