White church & bird




 C.C.は今、トウキョウ租界の外れ近くにある、誰もいない小さな白い教会で、祭壇を前に一人、祈りを捧げていた。
 時間的には、フジ決戦を受けてのルルーシュの戦勝パレード── 同時にそれは戦犯の処刑パレードでもあるのだが── が行われている頃だ。
 しかしC.C.は知っている。そのパレードの真の意味を。
 これから行われるのは、戦犯の処刑などではない。実際に行われるのは、衆人の前での、仮面のテロリスト、ぜロによる皇帝たるルルーシュの暗殺だ。世界を征服した“悪逆皇帝”を正義の使者たるゼロがその命を奪う。それがルルーシュが立てた計画たるゼロ・レクイエム。これまでの世界の負を“悪逆皇帝”と化したルルーシュの一身に集め、その命を絶つことによってこれまでの悪の連鎖を断ち切り、つまり、それら全てを背負ってルルーシュがこの世界から消えることにより、戦争などのない、“優しい世界”を遺すこと。
 しかし、C.C.は、決してルルーシュが望んだような世界が訪れることはないだろうと、ほぼ確信している。それは後に遺される者たちの顔ぶれを見れば一目瞭然ではないか。しかしルルーシュは、皆、きっと分かってくれる、“悪逆皇帝”の圧制から解放され、戦争の無い世界を望み、話し合いによって問題を解決する“優しい世界”を創ってくれる、そう信じている。C.C.にすれば、ルルーシュのその考えは“甘い”の一言に尽きるのだが。
 それでも、C.C.はルルーシュの共犯者だから、ずっとルルーシュを見てきたから、決して賛同などしてはいないのだが、寧ろ、何故、あんな奴ら── ゼロを受け継ぐスザクや、ルルーシュが誰よりも愛し慈しんでいるナナリーも含めて── のために、ルルーシュがその命を絶たねばならないのかと思えてならないが、それがルルーシュの望むことであるのならと受け入れた。ルルーシュはC.C.に対して、望みを叶えてやることができずに済まないと、それがゼロ・レクイエムを行うにあたっての唯一の後悔だと頭を下げたが、元を正せば全てはC.C.自身の存在に、願いに端を発していることを思えば、C.C.はルルーシュの望みを叶えてやることしか、黙って見届けることしかできないと思った。ましてや、シャルルたちを消滅させて以降、ある意味、ルルーシュはこの時のためだけに生きてきたのだから。
 だからC.C.は祈るのだ。ルルーシュのいない世界がどんなことになろうとも構わない。だがルルーシュが望むことだから、たとえそれが僅かの間のことであったとしても、ルルーシュが望む日々が訪れればいいと。



 やがて、C.C.はルルーシュの持つギアスの存在によって繋がっていた彼の気配が消えたこと、感じることができなくなったことにより、ルルーシュが計画通りにその命を失ったことを悟った。
 そして今頃、“悪逆皇帝”の死を、圧制からの解放を喜ぶように、新しい世界の訪れを祝うかのように白い鳩が空を飛んでいるだろうことを脳裏に浮かべる。ルルーシュがそう手配していたことを知っていたから。
 そしてまた思う。
 ルルーシュから直接聞いたことはない。しかしC.C.は知っていた。ルルーシュの個人としての密かな、そしてまたささやかと言っていいだろう望みを。鳥になりたいと思っていたことを。全ての柵から解き放たれ、全てを忘れて、自由に空を翔けたいと思っていたことを。
 何時か、Cの世界を経て生まれ変わるであろうルルーシュ。その生まれ変わった魂は、ルルーシュであったことを、自分のことを忘れているかもしれない。全く覚えていない可能性の方が高い。けれど、そうなる前に、そのささやかなルルーシュの望みが叶えばいいと思う。今この時、その魂は躰を離れて、目に見えることはなくとも、鳥となって自由に大空を翔けることができていればいいと思う。何もかも忘れて思い切り自由に。
 ゆえに、C.C.は唯一己の真名を知り、おまえが魔女なら俺が魔王になればいいと、そう言ってくれた、C.C.にとっては初めての、そしておそらくは最後の存在であろう、彼の願いが叶えられることを祈るのだ。
 白い小さな教会の中、祭壇の前で、空を翔ける白い鳩を思い浮かべながら。

── The End




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