「お兄さまが、ゼロ……?」
シュナイゼルから教えられた事実に、ナナリーは己の耳を疑った。
「特区虐殺の件も、ルルーシュがギアスという力を使ってユフィを操りやらせた挙句に、自らの手でユフィを手にかけたことだ」
更にコーネリアが続ける。
お兄さまがゼロ、ならば私は……?
「だからね、君にはルルーシュと戦うための旗頭となってもらいたい。相手が君だと知れば、ルルーシュの手も緩むかもしれない」
そう告げるシュナイゼルに、ナナリーは俯きながら答えた。
「……少し、考える時間をください……」
「……そうだね、いきなりこんなことを教えられて君も混乱しているだろう。十分に考えるといい。答えが出たら呼んでおくれ」
シュナイゼルはそう告げて、コーネリアと共に部屋を出ていった。
一人部屋に残されたナナリーは考える。
お兄さま── ルルーシュ── がゼロ。
お兄さまがクロヴィスお異母兄さまやユフィお異母姉さまを殺した。ユフィお異母姉さまには日本人を残虐させてまで。
お兄さまがゼロなら、私が総督に就任するためにエリア11に来た時、私を迎えにきてくれたのだ。
それを私は拒否した、否定した。
特区の時、100万の日本人を引き連れて中華に移ったのは私のため、私と争わないため。
でも結局、超合集国連合という組織を作り、エリア11を、私を攻めてきた。
そしてお父さまを弑し、皇帝となって、今はブリタニアという国を壊している。
お兄さまは変わってしまったの? あんなに優しかったお兄さまはどこにいってしまったの?
お兄さまが変わってしまったのなら、間違っているのなら、それを糺すのは実の妹である私の役目?
私だけがお兄さまを止められるというなら……。
そうしてナナリーはシュナイゼルとコーネリアからの一方的な言葉だけで、ルルーシュと対立することを決意した。
しかし対決したフジ決戦では結局ルルーシュの勝利となり、ルルーシュはフレイヤのスイッチであるダモクレスの鍵を奪うためにナナリーにまでギアスを使った。
それによりナナリーは対抗する術はなくしたものの、益々兄は信用できない人になってしまったのだという思いを強くした。
フジ決戦が終わって2ヵ月、エリア11の大通りでの戦勝パレード。
ナナリーは両足を鎖で固定され、晒し者のような扱いを受けていた。ナナリーの見上げるところには、玉座に座ったルルーシュの姿がある。その姿に、遠くなってしまった、変わってしまった兄を見て、ナナリーは悲しくなった。
不意にパレードの進行が止まった。何事かと前方を見れば、そこにはゼロの姿があった。
どういうこと? ゼロはお兄さまではなかったの? 混乱がナナリーを襲う。
現れたゼロはKMFの銃撃を交わして真っ直ぐに玉座に向かい、悪逆皇帝ルルーシュをその剣で刺し貫いた。
剣を抜かれ、血塗れになったルルーシュの躰が玉座から滑るようにしてナナリーの元まで落ちてきた。
「……お、兄さま……?」
── ああ、俺は、世界を壊し、世界を創る……。
ナナリーが恐る恐る触れた手の先から、ルルーシュの感情が流れ込んできた。
「お兄さま! お兄さまっ!!」
ナナリーの知らなかった兄の姿が、その感情が一気にナナリーの中に流れ込む。
「お兄さま、愛しています! お兄さまさえいればそれだけで私は……!」
だんだんと冷たくなってゆくルルーシュの躰に、ナナリーは取りすがった。
「お兄さま!」
けれどどんなに泣いて叫んでも兄たる人を呼んでも、もう答えは返らない。
── お兄さま、私は忘れません。
お兄さまが為したこと、為そうとしたこと、決して忘れません。
そしてお兄さまが残されたこの世界を、私は守っていきます。
それはルルーシュがナナリーに望んだこととは正反対のことではあったが、ナナリーにはそれは分からない。
ただ兄であるルルーシュを忘れず、その彼が遺した世界を守ってゆくことが己に与えられた使命だと頑なに思い込む。
── 私は忘れません。お兄さまが私にしてくださったこと、為そうとしたこと。
そして他の人がお兄さまのことを何と言おうと、お兄さまの妹であったことを誇りに思います。
── The End
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