「私が騎士とするのはあそこにいる方、枢木准尉です」
そう言って、エリア11副総督、ユーフェミア・リ・ブリタニア第3皇女は、スクリーンに映るKMFランスロットのデヴァイサーを指し示した。
ユーフェミアの選任騎士となった枢木スザクの騎士叙任式は、TVでエリア11中に放映された。
アッシュフォード学園では、生徒会のメンバーが揃って生徒会室でその映像を見ていた。
『私、ユーフェミア・リ・ブリタニアは、汝、枢木スザクを騎士と認めます』
その言葉で式は終了し、枢木スザクは正式にユーフェミアの騎士となった。
そこまで、視えない目ながらも画面を注視していたナナリーが、傍にいた生徒会長のミレイに声をかけた。
「ミレイさん、ご相談したいことがあるんですけど、お時間、少しよろしいですか?」
「相談? 何かしら?」
「今は、会長のミレイさんだけにご相談したいんです」
「んー、いいわよ。じゃ、隣の会長室に行きましょ」
そう答えて、ミレイは車椅子の後ろに回った。
「ナナリー?」
何かあったのかと心配そうに声をかける兄のルルーシュに、ナナリーは、
「大したことではありません。お兄さまにも後でお話ししますから」
「ってことで、ナナちゃんは私が預かるわねー。隣にいるんだから心配することもないって」
そう言って、ミレイはナナリーの乗る車椅子を押しながら隣の会長室に消えた。
「ミレイさん、式典を見ていたお兄さまの様子、どうでしたか?」
会長室に入って二人きりになった時、ナナリーから最初にされたのがその質問だった。
何の話か、大凡の見当は付いていたのだろう、ミレイは真剣な顔でナナリーと向き合った。
「そうね……。表面上は必死にポーカーフェイスを保ってたけど、内心では相当葛藤していたように思うわ」
ミレイの答えにやっぱり、とナナリーは思う。
「スザクさん、退学届は出されました?」
「いいえ、出てないわ。この前確認したら、ユーフェミア様からも続けるように言われたから、これまで通りに出られる時には通います、ですって。おまけに話がついたとかで、特派のKMFのデヴァイサーも続けるらしいわ」
ミレイは呆れたように答えた。
「二足ならぬ三足の草鞋、ですか」
「スザクもユーフェミア様も騎士を一体何だと思っているのかしらね」
「二人とも分かっていないんだと思います。二人とも真剣ではあるのでしょうけれど、周りから見たら、単なるおままごと、主従ごっこでしょうね」
「そうでしょうね」
ミレイは大きな溜息を一つ、吐き出した。
「で、ナナちゃんはどうしたいのかしら?」
「急なお話で申し訳ないのですけど、スザクさんの、騎士就任祝賀会という名の送別会を開いていただきたいんです」
「送別会? 本人、退学する気がないのに」
ミレイはナナリーの言葉に目を丸くして応じた。
「それはどうでもいいんです。これは、私とお兄さまからの絶縁状なんですから」
「随分と穏やかじゃないわね」
「スザクさんは昔、お兄さまを、私たち兄妹を守ると約束してくれたんです。お兄さまも、私たちはもう皇族ではないから正式なものではないけれど、スザクさんを私の騎士に、と考えていたようなんです。でも実際には、あの人は私たちのことなど忘れてユフィお異母姉さまに膝を折り、その手を取った。私たちにとって、あの人は約束を破った裏切り者なんです」
「約束を破るのは良くないわねー」 「ええ。裏切り者のあの人はもう私たちには不要なんです。弾き出すんです。だから送別会なんです」
そうして約束を破った騎士の、本人の意思には関係のないところで、祝いという名の送別会の用意が進められていく。
── The End
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